高代、時をかけて。

(夏と別れを告げて日が落ちるのが早くなってきた秋の放課後。自転車を押して校門を潜るさなか、学年入り乱れた制服の集団からひとり見つけた背中に声を掛けるのに躊躇は一ミリもない。)高代、帰るとこ?急いで帰る?待ち合わせはしてへんけど、待ち合わせしてた風に一緒に寄り道しよう。(自転車の後部を指先で示したなら、「今日はわたしが千昭」は以前話題に持ち上がったかの有名な映画のそれ。彼女がそこに座してくれたなら、ペダルを漕ぎ始める一歩を踏みしめた。映画の挿入歌を鼻唄うたった癖、ふと想起したのは行き先決めぬ旅路であったこと。)なあ、誘ったん勢いやったから、行き先決めてないねん。行きたいとこある?(正面から風を受けながら、信号待ちの隙に後ろに意見伺う問い掛けひとつ。片足地面について思案の数秒、右手のひらの皺を見詰めては深い思惟には至らない唇を開いた。)じゃんけんして、わたしが勝ったら右折、高代が勝ったら左折、あいこなら直進!分岐点のたびにじゃんけんで決めてくってのはど?(都会の喧噪に囲まれている自覚はあるけれど、行く未来が定まっていないならと、出来る限りの回り道をと願った提案が我ながら可笑しくてひとりでに笑みが溢れてくる。)はい、そんじゃ最初はグー。(此方の初手はグッドラックのグー。さて夕暮れの街並み、何処に向かうかは神のみぞ知るけれど、ふたりの距離がもっと縮まったら良いと願う気持ちは彼女にも存分に伝わってほしい。)
巽志真〆 09/29 (Tue) 21:25 No.980
志真の気配がしてゆ~~~っくり歩いてた、とかいうのアリ?(ねずみの尻尾みたいなひとつ結びをゆらして振り返る。首に触れる風すらも生ぬるかった夏も過ぎ去った秋のはじまり、冗談めいた言葉つきは自信満々の予言を語るのち「待ちくたびれたよ、はやく行こ」と即興の待ち合わせを演ずれば、自転車のうしろに乗って時かけごっこはスタート。)え~~~行きたいとこ? あるよ。ディズニーの新エリア!(一発目の提案は自転車で飛ばすにはだいぶん難しい距離のそれ。ないものねだりをする一方で物わかりよく「そういうことじゃないか」とあっさり引いたりもし、)行き当たりばったりもすきですよ、わたしはね。困難を乗り越えてこ。そうすれば10分後のわたしたちは10分前よりもずっと仲良くなってるから。(うしろで背中をつんとつついて「し」「ま」となぞるのは信号待ちの間のおあそび。行き先がじゃんけんに委ねられるならば、握り拳に息を吐いてやる気満々だ。)はは、たのしそう。名案だ。天才? はい最初はグー。(異国のグリコを思い出させるグッドラックのグーが彼女と被れば笑っちゃうのもしょうがない。「覚えてた?」「はい直進~」「あ、信号変わった」等々自転車のうしろでうるさく喋るくちは閉じることなく、風を切って進むふたりのBGMは今期ドラマ主題歌メドレーの鼻歌でも。)ね、志真。この次の角を右折したとこのカフェのミルクレープがちょうおいしいの知ってる? あ~~なんか次チョキ出したい気分だな~~。(それは「パーを出して勝ってくださいね」の意で寄り道を目論むひとりごと。行き当たりばったりの旅にちょびっとおいしいものをプラスしたらこの旅はもっと楽しくなるはずだった。)
高代晴可〆 10/01 (Thu) 00:34 No.986
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