部活お疲れ様、上埜。

(太陽が傾き始める頃合い。部活終わりで汗ばむ首裏を嫌がる毛先は頭上でひとつに束ねた。下駄箱を開けて上履きからローファーに履き替え、彼との教室ぶりの邂逅を果たしたなら踏み出す一歩はどちらが先でも良い。夏と比して短くなった昼との別れに視線仰いだのも束の間、隣の相好に投擲した双眸は揺らがなかった。)なんかさ。こないだ。(伝うことを迷う素振りこそなけれど、脳裡で最適と思しき表現を探す数秒。信号が赤のあわい、眉根を寄せて爪先をアスファルトに打ち鳴らし)上埜の言わんとしたことをわたしなりに理解しようとおもったんやけど、そういうの、勝手にそこから分かろうとするよりちゃんと聞き返すべきなんかなあって。(腕を組んだ侭に小首傾げば、毛先のしっぽが揺れた。)好きやから、逃げるよりちゃんと上埜のこと分かりたいなぁとおもった。   好きが違うってのは、わたしの言ってる「好き」が、上埜にとって他の子に対してはっきり分かってるとかそういうこと?(解を知ることを恐れた唇が小さく震えるけれど、それでも特段恐怖心を孕まぬ眼差しが諦念にも似た色を帯びる。漸く青に変わった信号を渡り出す一歩は左足から。)
巽志真 09/26 (Sat) 20:54 No.969
(用件のみ遣り取りした通話を終えて、帰り支度の速度を上げた。遊びに熱中した夏を過ぎ、未だ余韻を持ち越す部活仲間から寄り道を誘われるもあっさり断り下駄箱に向う。プール独特の匂いはシャワーで流し、何ら教室で見せる様相と変わらぬ姿で徒行の末。目当ての姿を見つければ「お疲れ」と平生の声音で以て労おう。)うん。(下校風景に低音が淡く溶ける。会話を求めたのは彼女であったから、話し始めを遮らない程度の相槌落とす傍ら赤から青みがかった旋毛に視線を移した。無思慮に尋ねる迂闊さは黙して封じる。独白の様に必要性語る口に耳を傾けて、)まあ巽さんが逃げたとは思わねーけど、(空白の狭間。仮に未来がそうであれ、好意を理由に逃避嫌う気配に添える己の了見。運動による疲労の反動か、脱力していた顔貌が変わるのは疑問を投げ掛けられる頃。眉根を微動させるが逡巡せず、)いや直感だった。(湧き起こすは嘗て胸裡に奔った想い。一拍置いて言葉不足を俄に感じては首裏を掻きながら、)俺が巽さんに言いてー「好き」は特別扱いしてどうこうじゃねーなって。他の奴は関係ない。(メロディが流れ立ち止まっていた人々が一斉に動き出す。向かい来る会社員に肩が触れかけるや感覚で避けつつ、目線は揺らがない。)
上埜新太 09/27 (Sun) 20:02 No.972
(歩道のアスファルトを踏む爪先はルーチン故に意思を持たず、同じ制服を纏った生徒たちもまばらな通学路に投擲した視線は刹那。彼に向き直った眼差しは面持ちの物語るところを察するより、唯双眸だけを捉えていた。白黒の線に踏み出したなら、擦れ違う人波にぶつかる手前の会釈のひとつこそあれど、脳髄は彼の返答を咀嚼するのみ。信号渡り終えて漸く二枚の唇を割ったなら、理解の声音と共に漏れたのは端的な笑みだった。)あはは、そっか。(腑に落ちる感覚に伴って先刻より随分軽くなった足取りで肩に引っ掛けた鞄が揺れる。夕暮れが色濃く空を茜色に変えてゆくさまを仰ぎ見たなら、頭一個上に向けた眦は柔く溶けゆき、持て余した両手が髪の結び目を引き締めた。最寄り駅に向かう道程、歩道橋を一段ずつ登る足並みは彼と揃える算段だが、最後数段はほんの少しの駆け足で先に登り切ったなら)──嫌われてるんじゃないならよかった。(胸裡に渦巻いたたったひとつの情感を何でもない風采で振り返りざまに冗談みたいに告いだ。橋の下を行き交う乗用車に視線落としながら、鼻から外気吸い込めば秋の気配。歩道橋渡りきるより先、クラクションの音に掻き消されぬ程度の声量は隣に届くのも容易いと信じて、純然たる謝辞と好意だけが飛び出した。)わたし、上埜の直感でこうって考えられるところが好きやったから、教えてくれてありがとう。すっきりしちゃった。
巽志真 09/29 (Tue) 13:39 No.979
(雑踏に構わぬ道中。もしも視線の強さを温度で表すならば、ひりつくような真夏の熱が込もっていた。差し向けた先で彼女が零す笑声は涼やかに空気に馴染む。何度か映じた穏やかさには覚えがあり、やや伏した両の目かち合わせては薄汚れたスニーカーの踵を硬く鳴らして。段差を踏みしめる傍ら隣の気配を感じたが、それが不意に失せたなら目で追い無防備に一言を聞く。秋運ぶ風に乗った恰も気安い響きはしかし、瞬刻眉間に皺を刻ませて、)おい俺は1回も巽さん自体が嫌いとか言ってねーよ。(口吻は些か怒気孕むがごとく。後引かぬ深刻さとてへの字に結ぶ唇は暫く残るだろう。間を置かず倣って平らな地に辿り着くや肩を並べながらの歩行が続く折、隣より齎されるは程良い音量。)どうも、って言えばいいのか。  つか、俺の好きなところ初めて聞いた。(短音と共に瞬き、そういえばの言い草で以て今に至るまで意識に登ってこなかった部分に言及を。己が理解していなかった可能性を考慮しきれない無神経が、改善される未来は訪れるのか。そんなことより薄い眼差しは近い目先を見据えようと、)またどっか遊び行けるといいな。(機械音鳴らす改札を目視叶う頃。現今広がる景色と異なる賑やかさに身を任せた日々を思い、彼女にかろい提案を投げ掛ける。)
上埜新太 09/30 (Wed) 03:11 No.983
うん。(言われていないという事実は、意地の悪さすら孕む端的な二音で肯定。彼の唇が示すへの字と裏腹に持ち上がる口角は、此れまでの思惟のひとときが杞憂であったことを知ったからとて、それを説明するには至らない。彼の目弾きに追随して自身の双紫も二度程の瞬きに至れば、至極当然のことを伝うような口吻で息を吸い込んだ。)他にも色々あるけど、聞く?つんけんして見えてほんまは優しいとか、何気なく話した内容よく覚えてくれてるとか、困ってると助けてくれるとか。結構たくさんあるけど。好きなところ。(傾いだ首に大仰に大真面目なかんばせ繕った癖して、重りを失った如き足取りは軽やかでちぐはぐ。改札潜る人波にぶつかることなく擦り抜けて、Suicaをタッチ。残金は1746円。きっと都外でも往復できるくらいの額を示した改札を一瞥したなら、)行けるといいな、くらい?個人的にはどっか遊び行こう!いつ行く?くらいの気持ちやけど。(臍曲がりが口先尖らせたところで、いよいよプラットホーム。電車を待つ数分くらいしか残されていないとしても、)今から行く?って言って断られたら凹むなあとかまぁ考えてるんやけど、付き合ってくれる?ちょっとだけ遠回りして帰るん。(せいぜい山手線逆回り程度の回り道の提案、Noなら相応に沈むかもしれないがそれはそれ。反対方面行きの電車が到着のブザーを鳴らした。)
巽志真 10/01 (Thu) 01:08 No.987
……なんか、いざ言われっと知らねー奴みたいだな。俺。(シンプルな告白より余程労力要しそうな言の葉は至極滑らかに舞い込んでくる。細かに己を形容される不慣れさが先立ち、やや眉を顰める面差しは僅少の羞恥にも淡い困惑にも見えようか。足取りは迷わず改札通過待ちの列に混じり進んでいけば、等間隔に鳴る定期のタッチ音のひとつと成る。空はすっかり茜色失せ、夜色のグラデーションが滲む頃。まばらに人工の光が生まれだす様子をぼんやりと眺めながら、)どうせ行くし。なら明日?(言葉の重みに触れられたとて、響きの意味にそれ以上もそれ以下も無いゆえ粗雑な口吻は前向きさを含んでいる。頭上の電光掲示板が動きだし、ベンチで悠々と待機していた他人も立ち上がる。自らも続くべく車輪の音を探す傍ら隣の彼女へ視線移すなら同時に届く誘いと、端的に覗く懸念。双紫を捉えて口開き、)明日。(つい先程問うた未来をもう一度。)凹む巽さんを見ようと思った。…まあ、だけじゃなくてクソ眠いから帰る。(何処までも欲に忠実な性を露わに、今更彼女相手に繕うのも無駄を感じ気の抜けた欠伸を放った。そうして別れ際も弛緩した顔貌を晒し続けるだろう。)明日部活ねーしすぐ行ける。  じゃあな、気をつけろよ。(口角上げて、運動しない分のエネルギーを翌日へ注ぐ気概宣う。爪先方向転換するや彼女の肩に片手を置いては離した帰途の末。仏頂面と、ぱっと見ガリ勉おさげの彼女。どっかに行く予想図を胸にすこぶるよく寝た。)
上埜新太〆 10/02 (Fri) 22:39 No.989
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