上埜、おめでとう。

(あさま祭前日。授業そっちのけで浮き足立つクラスメイトの囂然たるさまには意識は宿らない。シャープペンシルを指先でくるくる回しながらタイミングを計れど、逃しに逃して放課後。彼が自主練に向かうなら太陽が眠りにつく寸前に靴は脱ぎ揃えて屋内プールに裸足で忍び込む算段だし、文化祭の準備をするならひとりになったタイミングを見計らうつもり。いずれにしたって邂逅が叶えば、先刻自販機で手に入れたばっかりのペットボトルを差し出したい。)はい。アクエリアス。(彼を知りたくて山道で問うた一個のジャンルが役立つ瞬間。此方のオレンジと乾杯したがって手を伸ばしてぶつかれば、音が響かなくとも眼差しに喜悦が滲む。)上埜の誕生日に乾杯。(一口喉を潤してペットボトルを地に置けば、「それから」と追随するのは手頸に引っ掛けた紙袋の中身を取り出す所作とともに。)誕生日おめでとう。(二学期始まってすぐ共に出掛けた店先で手に入れたタオルを、彼が許すなら少し背伸びしてレイみたいに彼の首に引っ掛けんとして)実は二枚買ってた。(種明かしは鼻から抜ける笑みが告ぐ。踵を返すか悩む僅か0.5秒、彼が後ろを向かなきゃいいな。)──これでそいじゃ!バイバイ!ってなるの、イヤやから、一緒に帰ろ。(主役に無理矢理ねだる口吻は我ながら出来が悪くて眦が溶けた。それでもきっと。帰り道、夕焼けに染まる世界は主役の君が生まれた日だからどうしたってどうしようもなく美しい。)
巽志真〆 09/11 (Fri) 00:00 No.724
(今日という日が何の日か。毎年周囲の祝いによって実感するのは今年も例に漏れず。朝、昼、と文化祭前日の多忙の中にあって有難くも自認に至り都度言葉を返す時を過ごした。夕たる現今、明日明後日の催しのため水泳部の練習場として機能していないプールに足を運ぶ事はなく、クラスの準備及び前日の打ち合わせに流れのままに参加。一旦解散の頃、1人帰り支度を済ませた視界に馴染み深い銘柄が視界に飛び込めば、うおと声発し微動する面差しを持ち主に向けて、)まじ、くれんの。(嘗ての口約束且つ、まるで強請りの一言が思い起こされる。加えて乾杯の動作に従うならそれぞれの表面がかち合い、ふたつの水滴がひとつになる。)なんか俺達、乾杯すんのが当たり前みてーになってるな。(彼女の口吻を懐かしむよう、鼓膜に収めながら気づきを零す。蓋を回して飲み口に唇触れては喉を鳴らし、後は礼を述べて帰路に着くかというところ。『それから』の言葉に噤んで、そして齎される物感知しやや眼を見開き、)気づかなかった。すげーな、いやありがとな。(驚きと感嘆孕んだ謝意を彼女に。折角の装いを維持する傍ら、帰り道同行の誘いを掬う3秒、柔和な面持ち映じて断る理由も無く首肯し並んで教室を後にした。「もう明日が文化祭とか実感ねーわ」「卓球部なにすんの」好物、サプライズ滲む贈り物、愉楽を共にしたクラスメイト。他愛無い会話を彩る欠片達を温い胸懐に閉じ込めてゆく時の果て。)巽さん、じゃあな。たくさんこれ使わせてもらう。(別れ際、首元のタオルに柔い手付きで触れ口端を上げる。如何なる過程があれ、純に感情吐露できる彼女の双紫を捉えるや踵を返した。当たり前の夕暮れはどうしてだか美しい。)
上埜新太〆 09/21 (Mon) 09:08 No.934
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