（頭も余裕も同級生の中では抜きん出た印象は出会いの当初から知り合うまで。今ではすっかり年相応で3歳児にも見える背中を探そうとも、着馴れぬ棒縞黒の裾が邪魔をして慣れた廊下の歩みも鈍足に。それでも捜し当てた姿に掻っ攫ったヨーヨーを壁代わりとしてバウンドさせてから、挨拶交わす口が開く。）誕生日おめでと。（早かろうが構わない祝いは抑揚無しに喉を通った。二言目の「お待たせ」こそが本来掛ける第一声であっても彼との間で萎んだ配慮と遠慮が話題を途切れなく被せる。）3年の先輩に声かけた？無理か。もじもじしちゃうもんな、三国は。（返事待たずの結論付けは知ったような顔で笑いながら。上下に反復するヨーヨーの動きは保たれたまま、浮き立つ心地を少しでも抑えるような。そんな暫しの立ち話を経て足先を向けたのは1年3組エリア。）先どっか行きたいとこある？31は後でいい。

はい。んではい。（一言目で強請られたヨーヨーを彼に差し出したまま、空く片手は手相見せる形でパーの開きもまた同様の強請りである響き同じの二言目。）俺への誕プレは？（対面の表情を窺う前のネタ晴らしはまあ弾む口振りであったが、知らぬ一幕のオチとなったナルシストは事実だからこそ脇腹に見せ掛けグーパン。）へえ、それも面白そうじゃん。景品ってなに？てかこういう時部活と言うか、違うクラスに知り合い居たら楽しいよな。挨拶がてらそこも行くか、三国が程良くお世話になってますつって。（幽霊だろうとも無所属よりかは顔が広い交友に羨望を言葉交じりに、早々に追加した目的は通常通りの茶化しとして。言葉通り老若男女行き交う廊下で高低差ある肩並びは歩調を合わせるよう。）2年のVRコースターも気になってるけど、行列になってるって聞いたしそれなら数多く回りたいってのもある。ステージも見ときたいよな。お化け屋敷の中で考えよ。（到着した1年3組の扉前にてのっぺらぼうが手招き。閉ざされた扉は自ら開く仕様で彼を見遣れば）行くぞ。（彼が開くべきとの考えは胸中の呟き。）

（プレゼント交換を無事終えたなら貰い受けた券は帯に押し込む。明かされた豪華賞品とやらは十分に釣り込まれるから浮かべた笑みの真意は対決が弱者であるようにと神頼み。バンドの単語に横目の窺いは顔を向けて）最後だし派手にやりそうだな、見てみたい。てか三国なんでベース弾けんの、昔バンドに誘われた？（探った切欠も惜しく3組到着とほぼ同時であれば、暗闇で明かされてもまともに聞けやしないだろう。後に続いた暗闇で目が慣れるよりも行けと命じた彼の声が真っ先に響き、なんだか冷たい上に妙にじめってる物体が見事に頬に当たるなり叫びとはいかずとも声量は増した。）うっわ！！？……うわあこんにゃくじゃん…。（思わず掴んでしまえばその正体はあっさり判明される。それからお化けよりたち悪い笑声が耳に届く頃にはシルエットだけであった彼を表情まで捉えられ、してやられた感に横を追い抜きざまに）俺の味方はこんにゃくだけ。後ろ…、ケツ狙われないよう気を付けろよ。（一転して先を歩く形としたから。持ち帰り可能かも分からぬ一発目の脅かし道具を相棒として幾つかの仕掛けに掛かった先、真っ直ぐな道に横倒れる人影。ゾンビか。足先をぴたり止め。）三国。あれ動くと思う？

（何を引っくり返そうとも見られない中学時代は事新しいようでそうでないような。青っぽい結成理由に同じく眉を下げたものの鼻先の笑いは、彼のサイアクが面白かった為。そんな長閑な時間も今となっては過去に過ぎず、曲名やらバンド名やら知る問いはすっぽり飲み込まれる。2メートルも満たぬ前後歩きの終了には視界前方にゾンビ、高くもひっくい声を耳が拾った矢先に一人しか知らぬ体重を僅かに預けられた情報量の多さを客観視。）欲してると思う？ハート飛ばすな。（声音でハートが可視化されるなら首をふるふる振るう一瞬の余裕。そうして彼の行動をただ見届けて、それから、噴いた。）ぶ、…はは！あはは！転んで…、ひ、むりむり腹いった…。…あ。あーあ3歳だ。（お化け屋敷に不釣り合いの一人爆笑を惜しみなく四方八方響かせながら腹を抱えた折、南国のとある一日がフラッシュバックして徐々に引く笑いと変わるよう記憶が鮮明に映し出される。今みたいに爆笑の後にお目見えしたいじけ虫が、正にそこに居るから堪らず茶化す。）うん、かわいそう。帰るか。帰ろうな、俺たちの教室に。ほら立てって。ゾンビは蹴るもんじゃないってこと学べて良かったじゃん。（少し膝を曲げて片手を差し出すが自力で立てるならそれが一番。とにもかくにも泣きべそ級友を隣に連れて扉を引けば見送り同様のお化けに迎えられ、最後に肩を跳ね上げた。）よし31。このままじゃ三国があんまりだからお前が食うアイス、俺が選ぶよ。

（どんな言葉を浴びようとも渦巻く笑いは止められない。普段は上げる目線故思いっ切り下げた感覚の心地良さったらありゃしなくて、どっぷり浸りたい沼から引き摺り出す手が襲う一瞬の鈍痛は自業自得。立たせるべく張力は彼の肩外れも構い無しまで全て神様が見ていたのだろう。誤魔化しようない一驚を見られ茶化しは早急過ぎる罰とも言える。重ねて唐突な大声仕掛けられるなら）わっ！！？　………。（富まない反応をお披露目した後、間に降った沈黙の破りは健康体による咳払い。それを身勝手に転換と判断しては話題は31へと見事切り替わり、浮かぶ疑問は彼が作りだした傲慢で塗り潰してやった。）俺が選ぶんだから機嫌直るだろ、三国に限っては。好きな味なに。（考えようともしない間髪であったが、数種類のフレーバーと対面した際には思案で即注文とかいかずそれなりの間を経て、抹茶とストロベリーで3段を完成とさせた。チョイスによる言葉がどんなものであるにせよ3歳児への宥め方はもうお手の物であるから切り抜けたに違いない。元は時間制限付きである文化祭男二人回りの幕閉じを窺われ、ないよねに含まれた心理を量る前に意地が前に滑る。）あるわ。あるわけあるかないわ。（張ったトーンと同等の声音で事実を曝し、後夜祭より前に「もう限界。脱ぎたい戻るぞ」と教室に足を向け、彼はともかく軽装となったなら片付けにしけ込んだ。そうして再びの祝いに目弾きの二度目が落ちたのは反射的に受け取った袋を目にして。許可無しに開封すれば贈り物を手に取って眺める顔が緩む弾みの理由は幾つか。）スマホリングちょっと欲しかった、これは本当に。あるとやっぱ持ちやすい？三国のスマホに付いてたっけ。（すれば脈絡のないと思われる問いの意味合いだって容易に理解出来るから抜ける息に笑みを交ぜ、勿体ぶる巡りを挟んだ後。）一番遊んでるやつはとっくに三国だった。（数えても数えなくても分かり切った結果であると答えは敢えて湾曲させ、リング引っ掛けた人差し指を軽やかに回しながら思い付きの言葉を落とした後には馬鹿みたいに歯を覗かせた。）少し距離置こうか俺たち。