（思い立ったが吉日、が裏モットーの女はLINEで誘った次の日の朝には「今日いけますか？」と声を掛けていた。もし予定が変わっていたのなら明日以降に同じ誘い文句でリベンジするだろうし、問題なければ「じゃあ放課後にお願いしますね！」と笑顔で肩をひとつぽんと叩くことだろう。そうして迎えた放課後は文化祭の準備で大わらわだが、全員がずっと忙しいわけでもない。最寄り駅のショッピングセンターに行くくらいは買い出しの一環として許されるだろうと連れ立って校外へ。クラスメイトの行き先書き込む看板には「買い出し」と一言だけ書いた。）お付き合いありがとうございます、橘鷹くん！びしばし意見お願いしますね！（然程時間をかけることなく到着したショッピングセンターの案内板を見上げて指先で辿るはもちろん眼鏡店の表示だ。とはいえオシャレな眼鏡を売る――あくまで琴平自身のイメージだが――店だから入ったことはない。）っと……３階ですね。（エスカレーターに向かいながら口を開くのは店に着くまでの他愛もない世間話。）橘鷹くんは視力いいんですか？それともコンタクト？

（放課後に制服で学校外で遊ぶということ自体が琴平にとってみれば特筆すべき大イベントだ。なにせ中学時代はがり勉中のがり勉だったもので。制服のスカートの裾はためかせながらショッピングセンターに足を踏み入れる足取りは軽い。）えぇ、忌憚なき意見をお願いします！あは、そう簡単には泣きませんよ？　でも橘鷹くんのスパルタはちょっと興味あります、意味分からなそうで……。（遠慮ない意見を求めて彼に声をかけた面もあるのだから遠慮はしないという台詞は大歓迎だった。選ぶ眼鏡に意見をもらうくらいでどれほどのスパルタが発生するのか往々にして疑問ではあるが、彼のスパルタとはどんなものなのか興味はある。エスカレーターに乗り込みまずは2階へと向かいながら、）2.0…！？　えっすごいですね、本当にそんなひと存在するんだ…。（聞いたことはあるがまさかこんな身近に居るとは予想外で、思わずエスカレーター上で仰け反ってからすぐに顔を寄せてその眼をまじまじと見上げる。たとえ近くで見たとしても視力の良さを感じることはできないのだが。なおバランスの点について言及を避けたのはわざとだ。）眼鏡はもう小学生のときからですね、今はもう視力0.3くらいです。パリピになりたい理由は色々あるんですが一言で言うなら人生楽しみたいから…？ですかね？（さすがに一言に詰め込みすぎたか。3階に降り立ったのなら右を向いた先に看板を見つけて指差す。）　あ、あれですね！

芋っ！？　芋、ほら……やっぱり意味分からないじゃないですか……というかよくそんな瞬発的に芋掘り出てきますね？もしかして橘鷹くん、芋掘り行きたいんですか？（意味が分からないだろうと口にした通り予想立てていたものの、その予想をはるか斜め上に越えていった”愛のムチ”にもはや混乱した。芋堀りなんて小学生のときに一回行ったかどうかだ。）えっ、2.0は珍しくないですか？そんなことないのかな……眼鏡だったりコンタクトだったりしますけど視力は全員悪いですね。（驚かれたことに再び驚いて、首を傾げる。まさか金太郎飴のような家族像が想像されているとは思わないまま視力が悪いのは家族揃いだと告げよう。「綺麗な二重だということは分かりました」との感想は結果として視力はまるで関係がない。）だから眼鏡が生命線なんですよ！ぜひ体験してもらいたいですけど、一回悪くなったら回復しませんからね…。（2.0から0.3の落差は凄そうだ。体感してもらいたいものだがなにせ失うものが大きすぎる。ぎゅっと圧縮した動機に同調貰えれば「でしょう！？だからそのためにもパリピに程遠い眼鏡は卒業しないといけないんですよ！」と改めて本日の目的確認を。彼の隣について回って一緒に店内を物色し、）細身……透明……、はいっ、どうですか？（差し出された眼鏡をかけて顔を向ける。評価についてはひとまず彼に一任したいところ。）

あっ、これ墓穴掘ったな私…………。小学生のときから橘鷹くんは橘鷹くんなんですね…今も下手そうですもん、芋掘り。（自分のせいで意味不明なムチの実現可能性を上昇させてしまったことに気づいてぽつりと呟きがこぼれる。独り言に近いから癖の敬語もどこかに落っこちていた。いま目の前にいる彼をそのままミニマム化した男の子が土まみれになりながら芋を折りまくる様子は想像に容易い。想像のみであっさりと下手認定。）純血ってまたそんなハリポタみたいな。それなら私も視力の良い純血が良かったですけどね？生まれたときは良くても勝手に下がっていくものなんですよ視力というのは…。（低下しない視力を持つ男の前では説得力は皆無だが、自分だってこの世に生を受けてすぐはそれなりに視力が良かったはずだし。驚きの告白にはすぐに冗談だと察するも「え゛ッ、…あぁ、びっくりしました橘鷹くんの地雷踏んだかと」と結局笑えないままほっと息をはいた。）一巻の終わりですよ！今ここでなくしたら私学校に戻れないのでそしたらエスコートお願いしますね。（なお学校に戻ることが出来ればロッカーにスペアがある。かけてきた生命線は丁寧に鞄に仕舞っていた。何せ鏡に顔を近づけても薄らぼんやりとしかその輪郭を掴めないから、鏡を覗くことは早々に諦め顔を上げる。）いい感じですか？　どうせなら尖りたいですね（言われた通りにクリアフレームの眼鏡を試着して、）K-POPアイドル！？それは完全に盲点でした！橘鷹くんの好きなアイドルとかいますか？

えっ、見えますけど……？なんなら芋掘りを始めたはずなのにいつのまにか落とし穴作り始めてそうな気すらしていますが……。　　具だけ……にはならないですけど…それはもはやハンバーグですね……。（悪く言えば集中力が足りない、良く言えばあらゆることに好奇心旺盛。芋掘りのはずが別のことを始める様子があまりにも容易に想像がついた。すぐに切り替わる話題もまさに、と思いながらサマリン島で食べたハンバーガーを思い出して緩く首を横に振る。）待ってください私橘鷹くんに運搬されるところだったんですか？カッコよく最強な運搬な方法もちょっと気になりますけど、担がれて学校戻るのはさすがに…。（いくら文化祭準備で浮かれた放課後の雰囲気とはいえクラスメイトに運搬されて学校に戻るわけにもいくまい。鞄にしまったばかりの眼鏡が本当にしまわれているかどうか改めて確かめた。）やっぱりパリピになるためには冒険していかないと！なるほど、じゃあせっかくなので橘鷹くんオススメのこれにしますね。（彼曰く透明メガネを購入することとして一度外せば手持ちの眼鏡に掛け変える。そうしてようやくどんな眼鏡だったのか把握したなら自分では決して選ばなかっただろうクリアフレームのそれに「おぉ、」と感嘆の声を上げた。）そんなにたくさん眼鏡買えないですよ。服まで見始めたらもう学校戻る気なくなっちゃう気が……。（とは言いながらも通りすがった服屋に気になる服があったから帰り際に「ちょっと見てもいいですか？」と店を指差す未来があるだろう。さてストッパーが不在のこの空間で”買い出し”はいつ終わるのやら。）あっ、ももクロは私も好きです！はっちゃけた感じがいいですよね。私もあんまり詳しくなくて。Ｋ－ＰＯＰアイドル含めて勉強していかないとですね！（ぐ、と手に力込めてやる気アピールしながら早速購入すると決めた眼鏡をレジへ。度の入ったレンズを入れてもらうために一度預け、受け取りは数日後だ。）橘鷹くんも伊達眼鏡とか買います？頭良さそうに見えるかもですよ。（なんて軽口を叩きながら如何にもな四角い黒縁フレームの眼鏡を掲げてみせる。やっぱり学校に戻るのはまだまだ先になりそうだ。）