おかえり。（おくゆかしさとか恥じらいとかを履き違えてる気がするとスマホ片手に疑問符浮かばせるも束の間、やってきた放課後を前に昇降口で待つこと数分。片手を翻せば背負ったNORTH FACEのリュックが壁代わりにした薄汚い下駄箱から離れてスタンスミスが踏み出そう。「心ってチャリ通だったの？」「俺は成人です！ってドヤ顔することとあとはちょっと校内じゃ言えない」と与太話に終始する姿は互いの呼称だけが数日前と違えている風景だった。）ノった。え、俺が後ろ？（ダブルミーニングを含んで唇に笑みを掃けば一も二もなく乗じるが次なる所業へ覚えずツッコミ。それでもまあ運転席を取られるなら恐恐後部座席へ腰掛ける姿はこれまたジェットスキーの思い出を想起させ、「帰りは俺が前」とだけ念押し。斯くして行先を尋ねずにいた爪先が催事場を前に屹立するや、なるほどと合点がいく迄時間はかかるまい。）いいけど俺のセンスで大丈夫？100％俺の好みになっちゃうけど…。（拒否というよりは憂慮を覗かせて眦の奥から伺えばそれでも食指伸ばす姿は快諾の意を以て、色彩の洪水へ身を投じる事で明白となるだろう。ハンガーをひとつひとつ繰りながら）今の俺の予定知りたい？森地、以上。寂しすぎない？（余っている時間しかないと拗ねた物申しで己のスケジュールを吐露したらその身頃にまず小手先調べで宛行う浴衣は）色でいうと何系が好き？ツモリにふりふ、レトロ系かふわふわ系か。俺はビビットなのが似合うと思ってるけど。（ふりふの「花とあんみつ」。）

ちょっとアヤカとは似ても似つかないけどなあ…。（スペンサーの影響で見始めた某芸能番組の推しメンを俎上に乗せたらじっくり見比べて「ふわふわビューティーとは系統が…」と値踏みする双眸は揶揄交じり。プレッシャー交じりの台詞が朗々と背を打てば「どうせ何着てもかわいいんだからいいじゃん」は自分のセンスへ一抹の不安を抱くが故の保険。斯くして身頃に宛がった一着目へ悪からぬ反応であればほっと安堵も否定できまい。）でもピンクでふわふわなイメージないかも。俺はレトロモダン？みたいな感じが好きだけど…。（とりあえずは候補とそのハンガーを掬い上げた指先がそのまま隣に並ぶ数着を漁る。）え～…どっちもかわいい　けど…　好きと似合うを両方加味したら（暫く少女と浴衣を交互に見てから、序に数歩下がって遠目で眺めてから真剣そのものの様相にて逡巡の末。）こっちかなあ…。（選択したのは梅椿。）これにちょっとアップヘアで漆っぽい　なに、バレッタ？とかで止めたら可愛いかも。こないだのおだんご見たとき思った。（アップヘアを幾度も目にした訳ではないが過日の姿をまなうらに描いては素直な感想、許されるなら試しに少女の後髪を纏めて掬い上げてみて「いいじゃん」。）普通にチェックとかもいいけど。（現代っぽいライムグリーンとオレンジカラーの格子柄も試しに充ててみてから。）

え？なんて？（卒爾と引っ繰り返る声に聞き返す様相は半笑い、レインボーカラーを手放して同じく候補から外れたハンガーを戻しがてらの「いるよ」は目弾きひとつで御名答と告げる感嘆を孕んで。）結構年の離れたねーちゃんがいるけど。慣れ……　　慣れ…？？（斯くして意味を探るに数秒のタイムラグの内、頬の赤みへ釣られて気不味さが先行したら「そっかこういうのか。ごめん。」はあまりに馴れ馴れしかったかとの内省も込み。今までの距離感を思い出せない指先が手持ち無沙汰に頬を掻いた。）水色も似合いそうなんだよな、水彩柄っていうのかな。千鳥はちょっと学祭じゃ浮いちゃうくない？どうなんだろ…。（提案ひとつひとつを吟味する姿は真剣そのものだがセンスに一匙の自信も無ければ逐一少女への確認は必須。どれも似合うよとてんで当てにならない感想は味気ないから嚥下して、マイフェアレディごっこに似た遊びに興じる事幾許か。）決まったのに見せてくれないの？寝れないじゃん。どんなのかなって気になる。（透けぬショッパーへ目を凝らせども無駄の所業だから尖塔と化す唇はアイスひとつで立ちどころに上機嫌。）31がいいな。もう雪だるまってやってないの？（ただ隣で口喧しくしていただけの礼にしては棚からぼた餅の心地だが畢竟「楽しみだね」と括る今日の日はもう少し延長希望。帰り道は出来るだけブレーキを握りしめた蛇行運転で、後ろから悲鳴が背を打つ顛末が待っているなら花丸満点の放課後になる筈だ。）