（ホームルーム終了するや前の席の少女の肩を掴んで、空いた片手の親指が廊下を指した。“オモテ出ろ”のポーズは冗談に過ぎず、きっと大仰に貼り付けたかんばせもそう持たないから制鞄を提げた左手もスカートの裾も雀躍隠しきれずゆらゆら揺れる。）豚玉くらいしか食べたことないんはマジでもったいない。（不服を帯びた言葉尻と裏腹、自信満面だったから行く道すがらはきっとあっという間。学校からそう遠くないお好み焼き屋の暖簾を潜れば、ぎゅっと充ちた匂いに鼻先くんくんと動くのはきっと無意識だろう。）心、きらいな食べ物ある？わたし的にはモダン焼き、　　えっと、お好み焼きの下に焼きそばがついてるやつとかもおすすめで、（メニューをふたりで共有しながら、注文は少女の好みに合わせる算段で希望を盗み見。そんな時間すらも愉悦が彩るから、）コーラはふたりぶん？（LINEで伺った希望の変更がないかの確認も先走る。）

ほれ、そこで飛んでみい。（原始的な喝上げ文句を宣う口振りは可笑しくって震えたのもご愛敬。肩並べてゆく道すがら、ずっと気付いていた隣で揺れるおさげを左手が掬った。「心のはおしゃれ」は羨望よか純然たる褒辞に似て、ご機嫌は足取りが告ぐ。湿気孕んだ風がスカートの裾靡かせるとて、ふたりなら、異国でなくとも汗ばむ首裏も気にならない。）しょっぱなからプレミアム食べちゃうと、この先の人生、巽プレミアムしか食べられんくなるかも…。（神妙に声音下げて宣う冗談は自身で耐えきれず笑みと成り代わって、ゆるむ頬も店内の熱気の所為にしたい。）わたしも心のお腹の音で５限は集中できんくて……、（大嘘かまして少女の相貌見遣れば「ま、うそやけど」と赤い舌をぺろりと覗かせた。パスされたなら、「明太もちチーズ豚玉と海鮮モダン焼き。それからコーラ２つお願いします」で注文は華麗にゴール決めたつもり。おしぼりで手を拭きながら、視線が真っ直ぐ彼女の双眸捉えたのは無意識。）お店ほど上手に焼く自信はないけどなあ。おっきいのやと、くるって綺麗に回すんが難しくて。（人差し指を立てたまま手首をくるりと回す所作ひとつ。現今の共通の話題のそれに思案巡らせたなら、）ダンス部のステージとかもある？ヒップホップ？ガールズ？ジャンルも分からんしどんな感じか分からんけど、心が出るなら見に行きたいな。

実は家業やから…。（声音顰めて内緒話の様相繕った大嘘、けれど「うそ。バレた？」の種明かしは１秒後。小首傾いだのは尊敬の二文字への照れ隠しにも似るけれど、）お好み焼きの気分じゃなくたって、ハッピーにもブルーにも心になら付き合うやん。（冗句の応酬に織り交ぜた本音は然りげない口吻で、我儘彼女に従順な彼氏は雀躍のままにおさげが揺れる。彼女の破顔一笑につられるようにして唇は震えて笑みの音が漏れた。）ええ、焼いてんのずっと見てるん？飽きん？せっかく隣で焼くならアツアツのまま食べてほしい。（「当番の時間まだ決まってないもんなあ」と想起したなら、未来への喜悦を持て余した指先が机の上を遊ぶ。斯くして彼女の小さな液晶がきらびやかなサウンドとダンスを己に教えてくれるから、幾度かの目弾きの果てに「すごい」「心絶対似合う」は新たなものに出逢った感覚と彼女との互換性がおもうままに飛び出た。コーラと具材の器が運ばれるのを視界の隅で確認したなら、かち合う視線の熱に眦が溶けて）あは。まずは乾杯しよ。（はい、とふたつのグラスをぶつけるサイン見せて軽快な音が鳴るや、ひとつの器からまずは豚肉を鉄板の上でジュ～ッ。その間に器の中身をぐるぐる混ぜては、鉄板にまあるく広げゆく。焼ける音が響き渡るさなか、彼女の双碧を捉える眼差しと彼女の手許に近付けたへらで伝う。）これで形整えて、固まったら引っ繰り返します。……やってみる？

心はなに着る？ポリスとかもいいけど、ジャスミンとかも見たいな。（彼女なら着こなしてしまうのが眼裏に容易に想像出来たから、提案はきっと止め処ない。きゅるんが似合う輝き放つ眸にずっと惹きつけられてることは言うまでもないから、もちろんは首肯ひとつで伝わってほしい。コツ問われれば瞬時の瞠目こそあれど、小首捻って明後日の方向に投げた眼差しが思案すること幾許か。）わたしがフーフーしよか………？　　ってのは冗談で、たぶんちょっと穴開けて中の熱を逃がしたら良いんちゃうかな。（掌中にない楊枝を摘まむ所作でツンと宙を突く。乾杯の音頭ののち、調理が録画されてると知るや耳殻は含羞によって熱帯びるけれど、鉄板の熱気として誤魔化せたかどうか。視線はカメラとかち合わぬようにとずらしていたけれど、それも宣言が鼓膜打てば終ぞ彼女を捉える。）あはっ。ホットケーキよりちょっと分厚いだけ（OKの許可と共に心裡でカウントダウン。惜しくも綺麗な引っ繰り返りとはいかないけれど、此方は緊張の糸が解けたみたいに眦が柔く落ちる。）大丈夫。任して。（差し出した両手にへらを託してもらえれば、崩れた形を戻すみたいに押しつけてジュ～。へらで徐々に形整えたら少しでも歪さは隠せるだろうか。上からソースをたっぷり塗って、「青のりとかつおぶし振っていい？」は彼女の好みに合わせる心算で）よし、出来上がり。食べよ。（へらでカッティングしたら、きっと餅とチーズがとろっと伸びるはず。）

レリゴーの練習せな。心は扉開けての練習な。（強要するような口吻とてふたりの間柄とは暴君よろしく。「おいしいもんは穴あいてもおいしい」は巽の持論だけれど、隣にいる笑顔の君を想像したらきっと世界の総意。突貫工事の修復もソースで隠してしまえば、彼女のオーダーには忠実に歯についたって可笑しくないたっぷり青のりとエアコンの風に踊る鰹節が応えてくれる筈。一口目は彼女より先、大した所感も落とさずに咀嚼しながら彼女の相好に視線は一直線。斯くして天才の称号頂いたなら、嚥下と同時に嬉しくて眦が溶け落ちた。）やろ？この組み合わせがいっちばん好き。（自信ありげな口吻と共に二口目。スマホ取り出したならカメラ起動して、彼女の喜色を切り取らんとして。）あは。毎日心と食べられる条件つきなら毎日でもいいで。（肩竦めて戯けてみせたなら、「購買のパン毎日でもいい」は暗に仄めかしたお昼休みのお誘いとなったらいい。次なる一枚を目指すべく、今一度炭酸で喉を潤したなら）はい。それではまず、エビ、イカ、ホタテを焼きます。（ボウルから海の幸を取り出し。油引いた鉄板に乗せれば油弾ける音が鳴り渡って、）それでは心さん。このボウルの中身を混ぜてください。（ボウルまるごと手渡したなら、先刻の己の真似を指示。その間に焼きそばに火を通すべくして鉄板に乗せてジュ～ッ。）

（「敢えての無音動画？」とかなんとか、与太話は尽きないけれど笑顔もまた右に同じ。スマホを脇に置いたなら、一口ずつ進む食事に小さな上機嫌の呻り声。彼女の興味を宿した人差し指の行方を双眸で追えば、咀嚼の中身を嚥下すると同時に首肯を二回。）牛すじ絶対おいしいやつ。また来よう。…追加で食べられる？キツいかな。（次なる約束を乗せた唇はワンテンポのあわいののち、彼女の腹の虫に問うた。「午後の授業の前に青のりついてないか確認してくれる？」と戯けた口吻で齧歯類みたいに前歯見せたら眦が自然下がる。彼女の手元にボウル渡ったなら、此方は海鮮と焼きそばの調整にヘラを動かすこととなるけれど、）うん。そんなもん。上出来、センスあります。そしたら鉄板に乗せよ。（先刻と同様にを省略したとて、彼女にもしも躊躇の色窺えれば手伝う算段だし、ひとおもいにいくならば崩れぬようサポートすべくヘラは携えたまま。パチパチと油弾ける音には意識は奪われず、彼女の注視の的に己が眸も注ぎ込んだなら）炭水化物テロって感じ。たこ焼きをおかずって言う理論と一緒やから、……関西人って…。（大仰にそっと伏せた哀愁帯びた視線は、じきにかたまりゆくお好み焼きに移動。彼女の眼前にヘラを揺らしては、「リベンジ？」はもちチーズの仇。成功すれば焼きそばと無事ドッキングの結末迎えるが、結果はいかに。）

アツアツ食べたあとのアイスは絶対おいしい。ので大賛成。（この後の予定も彼女と過ごすとだけ決めていたから、無論否定する理由なし。見せた歯への指摘に慌てて掌が口許覆うけれど、冗句と知るや「もう」に怒気は一寸も孕まない。）いっちゃえいっちゃえ。なんかあっても何とかしたげる。（ゴーサインのち、広がる中身を流れゆかぬように此方からもヘラでサポートしたなら「ばっちり」は空いた親指と人差し指が円を描いてかち合う視線もそれに共感。）あっはは　さすがにソースで飯は食わん（戯れ言と知るから、己の笑い声が響いて、「先入観がすごい」は責める色合いなど把持しない。）わたしのほうがだいすき。（大仰な膨れっ面で眉根寄せた癖して、口吻が告いだそれが本音のすべて。リベンジ宣言に息を呑んで見守ること数秒、くるんと反転に「わっ」と感嘆あげるが先か彼女の喜悦に弾む声が響くが先か。）心、センスある。最高。（褒辞は止まらぬまま、焼きそばとドッキングさせてヘラで鉄板に押しつければきっとじきに完成。ジュ〜ッと響き渡る音がその合図。）いっただきます。（切り分けて自分の皿に運べば、彼女にも促して「どう？」は感想待ち。炭水化物のコンボへの反応は期待に満ちる。斯くして彼女のお好み焼きデビューを頂いたから、お腹も満ちに満ちて、心も満腹。）心といると楽しいから美味しさ倍増でなんでも食べられちゃう。ごちそうさまでした。（両手を合わせて大感謝。さりとて此処で終わらせる算段でもないから、）よっしゃ、アイスいこ。（ずっとずっと共有していこうね。）