（朝食時間に余裕のある目覚めはそれよりも前の予定のため。寝惚け状態は着馴れたシャツに袖を通す間も椅子に腰掛け来訪者を待つ間も覚める事がなかった。ノックの音を拾い扉前までやって来れば”俺”が待っている。）………………（対してまた”俺”からの反応来るまで無言を貫き、ドアノブにも触らないイジリは寝起きにしたら上々だろう。そんなやり取り交わした後、扉の向こうのウクレレに「おっ」と発見は掠れた声。）おはよう、江坂。分かってるって、大丈夫。ウクレレ持ったこともない俺からしたらヘロヘロでも凄いし聴きたくなるよ。あ、てかアロハシャツありがとう。色が涼しそう。（その胸中を汲み取っても慎重な張り巡らしに朝の空気が軽快に揺れる。求めた服装へのお礼に添える素人ファッションチェックは道すがらの茶番。互いに陽に吹っ切れた性格でもなければ早朝の静けさは心地良く、腰下ろし背伸びしてしまえばリラックスを抜けてもはや自室か。）俺それ昨日の電話のときから思ってたよ。眠気覚ましって弦切れんじゃんって。言えばよかったな。（一夜明けての合致を笑い話としたところで口を閉じて彼の指先を追って見る。聞き覚えある旋律に驚きを瞬きに交えて溶け込む音を耳に届けた。そうして指が離れたなら）思わず歌いそうになった（控えめな拍手を送って。）

（言った通りに眠気覚ましにするには優しすぎる音色はしかし鼓膜に深く深く沈んでいく。目にする事も聴く事も初めてゆえに聴き馴染みない反面、静けさに広がるメロディーに快然と顔が和らぐ。）あ、そういうこと。江坂って校歌そんな好きだったんだってなったけど違うか。（美徳と言ってくれた記憶は新しく、心遣いに瞬いたのち内心が喉を難なく抜けて転がった。ウクレレからなんとなし視界を彼に流すと悪戯大成功みたいな笑みが映り、森地の口端もやわに上がる。）はは、良い笑顔。よっウクレレ大魔神。髙木ブーの弟子入りも夢じゃないな。（このバカンスが始まって彼と言葉交わす事もきっと両手じゃこぼれる。級友からランクアップした自惚れが礼儀欠けた大向こう染みた掛け声を発せた。それから後学の為ならばと愉快な口を止めたなら穏やかな曲をバックに考え込む。）朝食の時にちょっと話題になったけどバンプとかあとは菅田将暉…ってそうみんなが口にしてるの聞いてる感じ。為になった？弾けそう？（そう聞きながら浮かべた笑みは茶化しの類はなく漠然の回答を自虐するようで。）江坂が好きなやつも教えてよ。俺も後学、ライブ誘うための。

あ～……、江坂は中学の卒業式泣いた？（二年先を見るよりも半年と経たない過去の探りにずるくも自らはまだ明かさず。）褒めてんのと面白く呼びたかったが半々。っはは！それは江坂の想像力が豊かなんじゃない？俺のせいじゃない。ウクレレの先生って日本人？……触んの禁止？それ。（呼称に潜めた割合の開けっ広げもとぼけた責任転嫁だって親交具合を振り返ろうともせず、柔い響きの指摘に調子乗りが生み出す。それからまた疑問を連続した後、こそあどに落とす目線は彼の手元のウクレレ。奏者のスペースに一歩足を踏み出そうとの興味がはたと芽生えた。）いいよ、てか俺ばっかが得する目標だけどそれは大丈夫？あ、じゃあ、うん。そうだ。目標達成したらラーメン奢るよ、学校近くの行列店。行ったことある？（迷う口振りに笑いながらきっと平等ではない関係性を彼に確認乞うたが、真似するよう途切れた言葉の先に引っ掛けた平等性は500円でお釣りが来る。音楽関連の共通点がなくとも構わないのは質問自体が本題であったから。ポケットに沈めたスマホを取り出すなら彼が挙げてくれた歌手を検索しながらの談笑は今時高校生に相応しい図。江坂の手にはウクレレだが。）でっかいとこでやってるよな、海外って。行く行く、フェスとか。江坂……ってライブの時は眼鏡どうしてんの。（おうむ返しはレンズを見るなり引っ込めた。）

はや。俺もべつに。ちょっと目が熱くなったくらい。（期待も込められない即答への茶々入れだってコンマ数秒だ。気の抜ける音の後に連続した無味乾燥を笑えば「高校はどうだろうな」とひとまず話題の幕閉じ。）ポケモンってやっぱ世界で流行ってんだ。別れのときポケモンのなんかあげたらすごい喜びそうじゃん。それか手書きイラスト。（各国共通話題に改めて関心見せたならなんとなくの提案はひとり言にも似た声音。そうして彼の手から渡るウクレレをまるで赤子抱くように慎重になるのは人様の物であるから。重量や質感に「へえ」の声を零す最中、向けられたレンズにいやいやと眉を下げた笑いが浮かぶ。拒否ではなくてちょっと待ったの意。）なんで撮ろうとしてんの。森地はじめてのウクレレ的な？じゃあ、はい（口はよく回るが、最終的には片手は弦に添えてもう片手でピース向けたカメラ目線でシャッター音を待つ。爪先で弾きにも満たない弱さで弦に触れるからそりゃ音にもならないけれど今はそれで十分。一石二鳥と言ってくれるならすんなり納得の首肯のちにウクレレを返す。スマホ画面に目線を落としながらも鼓膜はそのメロディーに揺れたがったが、衝撃の事実に真っ先彼を見た。）は？え？（あまりにもあっさりしてるからこっちがパニック。）あ、ああ、そう、伊達なんだ、伊達か…。ほんとフッツーに外したな。ウクレレよりもこっちのが眠気覚ましになったわ。あーびびった。（平常心取り戻せば一瞬の一人騒動に肩を揺らす。）

最後の教室っていつ？俺も着いてって別れの感動シーン動画に収めようかな。てかいつ行ってんの、毎日？（傍迷惑も半分冗談であれば躊躇わず口にしてみるが、サマリンの高木ブー見たさも捨て切れなかった。こちらでの日常を垣間見るような質問は今更過ぎただろう。）まあ必要か。江坂って自撮りとか……しないよな。今までどんな写真撮った？枚数的には俺と良い勝負してそうじゃん。（小恥ずかしさは彼の言葉で納得に落ち着かせ、ふと湧いた疑問だって自己完結してしまう。代わりの問いに暗転した画面に目線を落とすのはカメラロールを共有出来るとの慢心から。蚊が飛ぶよりもほっそい音に拍手が送られるならばお礼とともに鼻を掻いた。）…クラスで俺だけ知らなかったとか？とりあえず暫定で今日一の驚きだけど。（淡々とした流れに一つの仮説を立てながら一驚の期間がそこまで長くないのは静かなボケのつもり。彼の自問自答に小さく笑いの息を洩らし、伊達メ事情にへえとの首肯は納得ではなくただの相槌に過ぎない。）泣かれるって子供に？……ああ、江坂のこと入学式で初めて見た時はなんか身構えたかも。（赤の他人であった過去のイメージを吐いたのもその記憶が曖昧なのも、早朝に肩並べる今があるからこそ。それでも彼が気にする所を触れてしまったから「ごめん」の謝罪は自然を装えたか。）あれテスト何位だっけ。俺の方が上だったり？やば、もうすぐ7時。そろそろ行くか。（会話を続ける最中、時刻に気付けば先に腰を下ろして彼を待つ。）

暇だし行く。俺のが会ったばっかの先生との別れ惜しんでたらウケんね。（閑暇を建前に本音は胸中に埋め込んだまま、未来の交わしに眦を下げた。）ねえのって、ないよ。なにそのちょっと期待したような言い振り。……あれ、江坂のほうが枚数ある？（過剰なまでの勘ぐりは見当外れを構わず揶揄いの調子を滲ませる。思い出の共有には穏やかに首肯を見せていたもの、枚数こそ知らぬが埋め尽くす具合にはたと首は倒した。そうして徐に掲げられたスマホを目で追ったなら）撮るか。（簡素に返せばまた思い出が増える。先程同様に作ったピースがバリエーションの貧しさ表しても、携えた笑みは自然と浮かぶ。これを振り返る時、彼はどのように語ってくれるだろう。）あ、安心。てかなんならクラスでいち早く知れたの、俺ってこともある？それなら黙っとこ。（省かれの憂心は元よりこれっぽちもなかったが彼の言葉には安堵の息を洩らし、少数派の優越感にさて何秒浸れたか。過去を許容してくれた彼の窺いに返す仇も一瞬。）さあどうかな。　はは、ないない。身構えちゃうやつに電話しないしアロハシャツ着ろなんて言えない。（引っ繰り返して見つけるのが容易でないと構えた心は跡形無く溶け去った現今を詳細に口にした。気付けば静けさも隠れてどこかから誰かの歩く音が聞こえる。）昨日はフレンチトーストだっけ。今日は米が食いたい。江坂って好き嫌いあんの？（起立を促したもの存外緩やかに歩み始めた。その間も絶えず質問を飛ばすから朝食の場にていつかの体たらくが顕在。）江坂、俺に水…。