（夏休みの始まりはつい先日のことのように思えるのに、気付けば帰宅までの日数を数える方が早い。実家宜しく居心地良さあれば玄関の隅で腰を下ろして彼女を待つ。夜が明ける度にうら寂しさは増すけれど、陽だまり少女との一日は楽しいばかりだと弛むお団子がゆっさゆさ揺れる。白いブラウスチュニックの袖は手まで隠す長さだが、生地が薄めであるから暑くはない。指先と足先を薄赤に塗ったのは彼女に感化されて。サンダルを履いたり脱いだりの暇潰しも、お目当ての声が聞こえるなり踵を踏み締めてまずはご挨拶。）心。上手に巻けた？ねえ今日のメイクはどんな感じ？目つむって見せて。（すぐ出発進行とはいかず、豊富なパレットを自在に操る今日の彼女を見たがり要望がその場で引き留めた。そんなやり取りを終えた後、雑貨屋が並ぶ通りを目指して出発だ。）可愛いのたっくさんあると良いね。欲しいのは、クッションにカバーでしょ、お皿にコップ。時計も欲しいし飾るだけで雰囲気ぱっと変わる置物もいいなあ。心はお目当てのものある？（言うだけならタダだと挙げたなら彼女にも同様に問う。）

（元気をこちらに贈ってくれる明るい声が耳打てば、返事よりも先に笑みが落っこちた。先取りお揃いを淡くも期待していたから、彼女の爪先に塗られた甘い色合いに喜色があらわれる。手振り返しながら）う～～ん……（鼻先くっつくほど近くで巻かれた髪を凝視。鑑定団の眼差しを作ってやる。）120点満点！わ、わ、わっっきれい可愛いなにこれ、キラキラが可愛い。心のメイク本が出たら絶対買うからサインしてね。あ、文化祭で出しちゃう？（毛先から瞼へと上げた視線は釘付けと言わんばかりに熱く注ぐ。笑い合う未来を予見した言葉であっても本心でもあれば閃きは戯れの色を薄めた真顔に近かった。「今日のうちは睫毛を見て」の瞑目は予防線か事実か、光りは控えめに桃色が薄付き。彼女のラインナップに対して一つ挙がる度に同意の頷きが浅くも幾度と首を動かした。そんな最後、茶目たっぷりの笑顔を前にして）心ってマウント女子だったの？いいよ、取っちゃって。けど高いのばっか欲しがったらごめんね……高級志向みたいで……（新事実に小さく笑って、安いも高いも気に留めないだけを真っ赤な嘘と変えたなら白々しく目線を落とす。それも一瞬で、彼女の声に誘われてやって来た一店舗目に来るや目が足りなく忙しなく。）あ、見てこれ可愛い。でもこっちも可愛い。分かってたけど可愛いのばっかだね。（ミニバスケットから手乗り人形、見たもの全てを可愛いと指差す。）心はすぱっと決めちゃう？買い物するとき。

塗ってくれるの？うん！あ、じゃあ今日はみんなで一緒に寝ようよ。小糸も呼んで四人で。（夢みたいな提案には即座の頷きを見せて、調子に乗った口がシンデレラ越えても消えない時間の約束を交わそうとする。着想に自信があったもの彼女の言葉を受ければ考え込むように。）じゃあうちのための心メイク本が欲しい。心はメイクしてる時がいちばん楽しかったりする？（仕切り直しだって欲まみれ。次ぐ質問は頭を悩ませてしまうだろうか。道すがらの戯れが治まることなんてなく、軽く引っ張られたならどうかなとわざと首傾げるも口端は満悦に緩む。何となくでも“可愛い“が重要であろう年頃、見渡す限りにあふれる空間であるからそわそわと気が急く。彼女の手中を眺めるなら）あーーそれもほんと素敵。割るまでを楽しも。ちょっとこの辺りは危険だね（慎重な手付きに一笑したけれど、彼女の腕を軽く引いて割れ物がないひとまずの安全地帯へ。）大正解。じゃあ今日もし心がちょっとでも悩んだらうちが後押しするね、買っちゃえ買っちゃえって。ほらだって次いつ来るか分かんないし。財布が軽くなっても気にしない、思い出が増えるから。（抱いてくれた印象に違いなければ花丸だと笑みを向けた。すらすら語る内容は助言ではなくただの悪魔の囁きだろう。そうして彼女の茶目っ気たっぷりの行動に対して）売り物で遊んじゃいけません。これ可愛い。うちこっち買う。（余裕ある注意は作った顔で。同じ商品のパフェを取るなり宣言しつつ）お揃い、タンブラーがいいな。違う店行ってみる？

一番はね…、今だよ、心と話してる今。フフ惚れ直させちゃったかも、責任はちゃ～んと取るからね（狙い過ぎた発言も処理を彼女に任せるなら透くひとみを窺う。底が知れる学生の財布事情であるもの、彼女の前向きな返事にこちらも同様に財布の紐がまるで最初からなかったよう溶けるのを感じた。）それなに？飲み物？うちも買いたい。あ、さっそくお揃いだね。（飲料とするなら珍しい色合いに置き場所を聞くなり手に取って。そして彼女の後ろに並びつつ、人懐っこい挨拶交わす場面を眺めたなら）心こっちでお友達てゆうか知り合いは出来た？こっちに来てからクラスのみんなとも仲良くなれて、本当に楽しかったあ。次は国内もいいかも。北海道とか。（朗らかに手を振って見送る店員に振り返し、片手に増えた幸せの重みを揺らしては日照りの下に出る。）ここかーして（発すと同時に指先は彼女の胸元に下がるサングラスを拝借しようと。成功するなら満足げに掛け、失敗でも「反射神経抜群」なんて手を引っ込めよう。）あっちー！（指差した左には圧倒的何となし。けれども勘が冴えていた。ショーウインドーに飾られた南国色の濃い様々な雑貨が来いと手招くから、背ける理由もなく入店。小物から大物まで種類豊富に彩りも鮮やか。）あ、心。タンブラーあった。ポーチに手鏡も。（グラデーション様々なお揃い候補一つのタンブラーの置き場に足先を向けたも、付近にはそれ以外もたくさん。どれもがハワイアンだ。）ここで全財産使っても悔いはない…。

（思いを汲み取ってくれたような花丸リアクションに転がる笑いは、あやされた赤子さながら軽く弾けた。願ったり叶ったりの落とし前ならば迷いもなく頷くだけ。青色を傾けかちあう音は幸せを鳴らしたみたいで。）心、朝ランしてたの？もはやサマリンに住めるね…？したいしたいめちゃしたい。花島に聞いてみよーよ、北海道に別荘はないのって。あったら可愛くおねだりしちゃおっか。最高の冬はわたしたちに懸かってる。（過去形の尋ねが残り僅かな滞在期間を物語るも、寂しさよりも彼女のめいっぱい楽しむ様と順応性に笑みを浮かべて。並び上がる冬の遊びにけろっと人任せの思考を彼女にも傾け、勝手に設けた突破口はどこまでも軽い調子。）あっ、写真は事務所通してくださいスミマセン…。フフン（持ち主ご本人のお眼鏡に叶えば、曰くトップモデルの気持ちでカメラを避けるも一瞬、次にはつる部分を指で軽く押し上げポーズを決めた。そうして隊長をご案内した店内、彼女の言葉で上機嫌より遥か高らかな心地は映るもの全て購入したって後悔ない程。弾む声音から一転、すがるトーンに彼女を見たけれど）心も天才じゃんか～…それ置くだけでも可愛いやつ。決定、買いましょう。（気付けば持つカゴにネイルオイルを２本入れてやろう。これがスイッチとなり、タンブラーはもちろん、アンテナに引っ掛かる物があれば彼女に見せてから反応の良しあしでカゴか棚か。）これでマウント取り放題。始業式にうち持ってく！（また一日過ぎようとしても名残惜しさよりマウント取るべく日の期待が勝るから。）