（伝説のハウスキーパーマリリンさんには前日のうちに件のタルトをお願いしておいた。その足で奈尾が寝泊まりしている部屋にレモンのシールを（勝手に）貼ったなら、（勝手につけた）目印のおかげで部屋の名前が読めなかろうとお迎えも大成功。時間の約束を忘れていたがまあいいか！と、前回叶わなかった全力ノック5回を今度こそレモングラスへお見舞いする午前9時前後、ご機嫌丸出しの「おはよう！！」が響く。奈尾を厨房まで引っ張りサンドイッチをこしらえ、頼んでいたタルト引き取り、ピクニックっぽいバスケットへと仕舞い込んだら飲み物はメイソンジャーにみちみち注いだレモネード。鼻歌だってうたいたくもなるワクワクがこのバスケットには詰まっていた。）良い天気だな！ピクニック日和だ！どの辺りに座ろうか？（バスケットを振り回しかねない勢いの腕は実際大ぶりであった。「サブウェイみたいなサンドイッチを作りたい」だ「断面がオシャレなやつを作りたい」だ高い理想ばかりが口から連なった調理タイムに作り上げたものは、雑にもりだくさんの具を挟んだが故に多少形が崩れたかもしれない。砂を踏みしめながら歩く最中）う～～ん少し重いな！そっち側を持ってくれほずみー！（見た目重視でワンハンドルのバスケットを選んだために、この男が言っているのは“取っ手の半分を持ってくれ”である。絶対にかえって持ち辛い。）

（こういう時ポンコツの打率を顧みず率先してなんでもやりたがるのは大人しく当日を待てないからである。青空と海の境目がわからないほどの青々とした晴天、日差しを遮るサングラスを持ち上げたと同時に目を細めた奈尾が視界に入った。）そうなのか！？重たくならない持ち方というものが…あると…！？ハナタカさんだなほずみー！　はっはっは、具を見てたら全部挟みたくなってしまったからな！あれ、どうやって食べよう！？（こう見えて男子高校生なので自分で作ったサンドイッチがボロボロになっていようと泣き喚きはしない。腹に入れば一緒という大雑把さがあったものの男の心配は実食時に全振りであった。筋肉云々には「おお、ならこれを筋トレにしようか！」とバスケットから手を離し奈尾に全てを託す二転。）…本当だ！そうだな、食事をする時ぐらいは日陰にいよう！ほずみーは暑いのが苦手か？（彼の提案に乗っかっては空いているパラソルへとビーサンの爪先を向ける。視線に気づけば連動して言わんとしている事も察しがついて、）ああ、そうなんだよフリスビーをやろうと思って！よく分かったな！ピクニックといえばフリスビーだろう、ピクニックあるあるだ！（果たして正解なのかどうかもわからないあるあると口にし円盤を手にして掲げる。朗らかに笑いながら日陰に体を潜り込ませ腰を下ろすと、向こう側の明るさがよく映えた。）

ははは、欲張りだろう！やっぱり戦隊物もロボットが合体する時が一番アツイしてんこ盛りにはロマンがある！ほずみーは食べやすいように何種類かに分けて作ったんだろうなぁ。（振動に対する彼の抵抗もあってか大分落ち着いたバスケットの揺れ、その中にある奈尾産サンドイッチのメイキングは数度盗み見た程度なのでその佇まいを予想した。「天才か！？」の一驚突き抜ける声は勿論奈尾の提案に対してである。半分こしような！と誘いかける声音はご機嫌だ。名案のおかげで多少揺れても問題ないと思えるからこ奈尾の手元もフフフと笑いながら見守ることもできた。）へえ～、なるほどな！だがお喋りしたり動き回れば体はすぐにあったまるぞ！購買までダッシュでアイスを買いに行こう、真冬のアイスというのも粋だ！！（もう一つ季節を挟んだ先の話だろうと、目前にあるかのような明るさでやりたいことを描く。当然のように奈尾を連れ回す未来。）あっはっはっは　わかる！！居るな！！あるあるだ！！犬は8割の確率でゴールデンレトリバー！！（愉快そうに大笑いで肩揺らしながら広瀬香美に乗せてあるあるを歌い出しかねない。「任せろ、奴ら（犬）なんて目じゃないぞ！」と思いの外やる気を見せる男は砂浜の上の走りづらさに泣きを見るんだろう。）ああ、食べようか！お腹が空いている！　いいぞいいぞ、ほずみーは黄色のストローだ！（色まで勝手に決めてたので、迷いなく黄色の縞模様ストローをジャーに刺し奈尾に手渡す。バスケットの中を今一度覗いて、）…やはり僕のは…崩れているな！

なるほど、ああいうのか！あれも凄く面白かったよな、夏には必ず見なければと思ってしまう。そういう事ならジャンプ漫画を勧めたい所だが、さて何が良いか…。…半分？意外に少ないな…。（彼の好みの傾向を知れれば引き出しから何を出してくるべきだろうと腕を組み考え込む。彼が引き合いに出したのは例え話だとしても、控えめな数字に思わず首も傾いた。）僕だけ！？何故だ！？声がデカいからか！？…なら両方買ったら…、と言いたい所だが、楽しそうだ受けて立とう！ジャンケンの銀ちゃんと呼ばれた僕の実力で毎日アイス三昧だぞ！（始まる前からの勝利宣言とも取れる自信でグーを掲げる。「いっそ飼い主役犬役もジャンケンで決めるか！！」だとか纏まりかけてた話にさえ影響が及ぶほど自称でしかない肩書をひけらかしたがった。）ピザ？新しいな！（そうして水平に差し出した手の平。ピーマンは抜いて、サーモン多めエビも欲しいエトセトラ…本家のような注文でパンがどんどん自分の好みに沿ってめかしこむのを見ながら、出来上がる頃に双眸は輝ききっている。）ありがとうほずみー！！慎重にだな、了解した！美味ーーーい！！ほずみーこれも！美味いぞ！（慎重にといった0.5秒後豪快に頬張りにいく考えなしはシートの上に若干葉っぱを零しながら、お気に召したサーモンアボカドの組み合わせを勝手に奈尾のパンに増量。奈尾の言葉にそそられてレモネードを一口飲めば次の興味が向かうのは）…これが本物のドッグか……。（写真通りの仕上がりなタルトの上、鎮座する“DOG”を指差した。）

確かに完結してないとほずみーは主人公達がどうなるか気が気じゃなくなってしまいそうだ！　…！じゃあ！それじゃあ！帰りも飛行機は隣じゃないとなっ！ふふふ、むしろ絞れなくて困りそうだ…飛行機、遠回りをしてくれないだろうか…。（言葉裏に潜む意味はきっと思い違いじゃないから、ルビー色の瞳が南国の日差しを取り込んでいっそう煌めいた。そのまま弓なりに細まった双眸はニコニコ笑顔で、彼を空に拘束したがる鬼のような発言と対照的。）…確かに甘いものを食べたらしょっぱいものを食べたくなる心理には…抗えない…っ！最早交互に食べるのがベストな気さえしてきたよ…（ころころ意見が転がるのは影響の受けやすさ故でもあるだろうから、結局犬決めジャンケンもその単純さで敗北した。文字通り負け犬。男に二言はないので潔く受け入れてしまえば、友人とサンドイッチを食べる楽しさに容易く上書きされてしまう程度には取り留めもないことだった。）あっはっは、ほずみーがそんなに大きい口で食べるのは初めて見た！ギャル曽根だ！（今この瞬間なら、きっとただの食パンだって美味しく感じるだろう。隣人の心いざ知らず呑気な男は砂浜へ視線を奪われて）…ゴッドだ！？なんだと！？逆立ちしたら神になるのか、奴らは！（俄然犬役にやる気が漲るようなからくりは鮮烈に橘鷹の脳内に刻まれる。何気ない帰国後の約束に、否のつけいる余地はない。）うん！行く！！ほずみーのベッドは広いか！？（ビスケットの屑が砂粒に紛れる。泊まり込む心算を暴露したら、チーズタルトで予習をしよう。）