おはよ。天気予報ばっちり。（皆揃ってテーブル囲んで朝食食べ終えて腹を満たした後。個別に手向けたおはように喜色が滲んだことは彼女だけが知っていてくれたら良い。約束の10時には安心の10分前集合で、オフホワイトのノースリーブTシャツに黒地に大柄の花が咲いたワイドパンツを合わせたなら、足許はバカデカスーパーを走ることだって余裕綽々ビジュー付きのスポーツサンダルを。シンプルなショルダーバッグの紐を握り締めた指は、少女との一日を待ち侘びたから急かすみたいに手招きひとつ。）仁希は、（漸く舌に馴染んできたと思い込んだ呼び名も本人をいざ前にすると未だに花恥ずかしさを伴うけれど、）みた？あそこのスーパー、車の形したカートあった。子供用の。わたしたち乗れる？（恐らくは親子連れが幼子をあやす為に用いる其れだが、異国の地ならばそれ位の羽目は外せるとたかを括って隣を見遣る。予期した通りの太陽の目映さが本日の心裡を反映している様相で巽の瞳にも反射した。）

たぶん曇り女。やからこれは仁希パワー。……今日、目がキラキラ。かわいい。（褒辞はぶつ切りの不器用さ抜群。歩幅合わせる算段などなくとも隣歩くことが自然であるかのように、街路樹から射し込む木漏れ日の影だけ踏む足取りはどこまでも軽い。）ほやほや４ちゃい。スキップも出来るようになり出す頃合いやから、サマリンの暴走族になったろ。（液晶画面のロックが外れて具体例を示すまでのあいだ、少女の整えられた爪先に瞳の奥の意識は移るから、インスタグラマーたちの前例への感嘆の唸り声はワンテンポ遅れた。）！　おお。いいやん。やろやろ。…でも仁希に値段はつけられへんから、売り物って勘違いされたらどないしよ。（大仰にハの字象った眉の侭に廉潔ぶって隣を見遣ったなら、「その前にわたしが買い取らないと…」の自己完結に似た二の句を宣う赤い舌はこっそり隠した。自動ドアがふたりを受け入れたなら、打って変わって一気に冷気が全身を包む。右、左、右。カートを探す視線と三編みは右往左往して、）あっちかな。（左を指差す傍ら、「お腹冷えへん？」洒落に疎いことを差し置いても、無遠慮に蛇足が続く。）

仁希はわたしをなんやと思ってるん？（喫驚は二度に跨って目弾きに乗った。瞬いたとて彼女のように光に煌めかない瞼で見据えては、「払うときは一括だけって決めてるから、待たせるけど…」は大袈裟に繕った困り眉で未来を強請る。三拍目と被せた礼讃の拍手で小走りで追いかけてよくできましたはふたりとも。）え、そしたらこれから髪切って金髪に染めて、　　いや、カジノは無理やな。現実味がない。弁護士か医者かIT社長。選んで。（絵空事をさも将来の夢の如く宣った。飽くまでその相手を自身としたヴィジョンを捻じ曲げる心算は毛ほどもなし。地元民に擦れ違いざま会釈するゆとりが生まれたのは、引かれた掌が自分のものじゃない体温を知ったから。先刻瞼裡に描きながら口にした其れがお目見えすれば、促される侭に車体に乗り込む160センチ。）そこのかわいこちゃん、俺のこれ、乗ってく？天国見せたげる。（腰を折り曲げて三角座りには似合わない口吻が口説く。とんちんかんの埋め合わせは得意満面のかんばせで叶うかは扠置いた。）

うぬ、ぼっ、　ちゃうな……。（図星である。透明なグラスに入れた気持ちをそっくりそのまま見透かされるような感覚で、血液が羞恥で沸き立つ音すら憶えた。柔く触れた攻撃に食らうダメージはゼロだが、縺れた舌はほんの少し腔内でだんまり決め込む。ようやっとの想いで二酸化炭素と共に「せやで、分かってるならいい」は遅れてやってくる自惚れ屋。）そのポテチ、仁希の顔よりデカイんちゃう。ピザるが先か血圧上がるが先か…。（神妙な面持ちで大きな菓子袋を睨みつけたのはパフォーマンスに過ぎないから、カメラマンの指示には従順に従って当社比1.5倍のかわいい顔をお披露目。両肘を車体の縁に小突いて顎を掌に乗せるのが精一杯の5割増し。）ちびっても気付かんふりくらいしたげる。だいじょうぶ。……今のはわたしと一緒に天国まで昇天キメてこ。の方が正解？（元より正答肢などない応酬に真面目を貼り付けたかんばせで大仰に問うた。ポケットから指先で取り出したスマホのノーマルカメラを起動したなら、丸いボタンを幾度かタップ。して、）見返り美人して。はいポーズ。うん。かわいい。（どう？と仕上がりをスワイプと共に確認。）乗ってるやつも撮るやろ？……だっこして乗せる？（はい。と両手を広げた。無論善意よりは冗談を好む底意が見え隠れするまなざしだ。）

（商品の棚にすらカラフルな異国情緒を感じたなら、視線は右へ左へ、上に下に。満更でもない風采の割に「これ以上の露出は追加料金かかるんで…」と宣う身勝手さを露見した。）わたしそんなに分かりやすい？一応自分としてはクール売りなんやけど。（異議ありとばかりに眉を顰めるけれど見解を押しつける心算もないから、「くちゃくても好きやで」は二指で鼻翼摘まんだ鼻声で戯けてみせた。第三者の気配しない通路は背景にお誂えとばかりにインスタントドリンクの粉末をビッグサイズでアピールしていたから、）うん。海外ぽい。どんどんイキってこ。（撮影ボタンを押下する人差し指はご機嫌に。対極に位置する体型をご所望とあれば口先尖らせて喋々しく、握り拳程度じゃ盛り上がらない二の腕を擦った。とはいえ、最高のモデルが決めポーズしてくれるなら「かわいい」「こりゃ全国の富豪で競りになるわ」と恵まれたシャッターチャンスに此処ぞとばかりに一瞬ごと切り取って、）投稿するなら、ハッシュタグ銀河一かわいい、ハッシュタグサマリンガール。エトセトラ。（抱き上げること叶わないとて、カートから降りる際に差し出す掌に迷いなし。）聞いて。テイクアウトできるお店調べててん。ここのフードコートにロコモコとかガーリックシュリンプとかボックスに詰めてくれるとこあった。（人差し指で上層階示しては、「あ、でもチョコレートチャンクピザとかクレープとかそういう甘いのもいいな」は少女の希望への予防線。詰まるところ、君と一緒なら何でも美味しいの意訳。）

わざわざ嘘つくんってめんどくさいからな～。そうそう、1組ナンバーワンクールガー…　　えっ？（眉間の皺は解除され、代替として度肝を抜かれたとばかりに頓狂な返し。暫しの逡巡の果てに「それは仁希がわたしと居てオモロ！って思ってくれてるってこと？」の曲解は大真面目の風体で思案投げ首を装った。客もまばらな時間帯であったから、通路を歩く足取りがなんちゃってモンローウォークを気取ればここはパリコレ。けれど、そんな夢想から現実に掌引いて帰らせてくれるのは少女の笑顔らしい。）え、そしたら鏡全部叩き割　　るんは痛そうやけど。てかそれ、そもそも“気付く”ん？真実じゃないのに？（言葉尻をひっ捕らえたのは天邪鬼の性根よりは神以て賛同しかねた所為。お買い上げ予定としてシャボン玉がカートに一足先に忍ぶならと、近くの棚の海外フェイスのクマが微笑む、大凡対象年齢一桁のマラカスを掌中に。クマと見つめ合うこと３秒、無言でカートに放る。エレベーターが揺れるさなか、一貫して食欲をそそるフレーズに我慢しきれぬ盛大な腹の虫がアンサーソング。ぐうう。）わたしはガーリックシュリンプにジンジャーエールのきもち。それからお腹に余力があったら、デザートピザワンカット。にんにく臭くなっても、No5が誤魔化してくれる？（肩にかかる三編みを指先でくるりと回したなら、「仁希はどうする？」の問い掛けは財布の準備と共に。）

（少女の口角筋の怠慢ではなく己の甘えが産んだ応酬と覚えたからこそ、「やった。」の現然たる喜悦は平素より踊る。さりとて芸能人の名言らしい一言が胸裡を貫けば、脳髄で噛み砕く数秒こそあれど、）わたしの前だけなんか、そんなん一瞬で終わるもん。そのうちすぐに仁希が世界一かわいいって分かって、仁希んこと世界一好きっておもうひとが出てくるんやろ。ふん。（冷静の皮かぶった相好に一抹のミスマッチが口吻として宿る。証拠として僅か尖らせた唇は暫く戻らないから、カートの中でベアがわらった気がした。淡々と喉元潜った「そうこれ振って忘年会で踊るねん」はスケジュール帳に記載こそない予定であるけれど。宇宙規模のお腹を満たすためのハッピーボックスも、こんな非日常じゃないと手を伸ばさない玩具も、指先で揺れるさまは現今の心情そのものである。海のさざなみをBGMに開くメインディッシュは鼻先を擽ったりなんかして、五感全部のせいで今にも踊り出しそうだったから、）最強まちがいなし。今日が一生続けばいいのにってくらい、まだまだ遊び足りへんから大歓迎。（手を伸ばしたって届きそうにない青に向けて、大きな伸びをひとつ。一生続く今日はないけど、きっと一生、）仁希とあそぶん、めっちゃすき。（随分舌先に馴染んだ呼び名を聞いた太陽が、また一段と照りつけた気がした。）