（黄昏時を迎えて尚紺碧の浸食を許しきらぬ黄球が玻璃色を照らす。数十秒の通話終了後スマホとサングラスだけを片手に部屋を出ればつっかけたビーサンが足に馴染む頃にはやわらかな砂の侵入を許す海辺へ辿り着いている事だ。カナリア色したリゾートワンピの裾を捌きながら周囲へ一瞥くれればその度揺れるフリンジの麦藁帽子の内側から目当ての少年を見つけよう。）あのね、次に月が丸い日は8月5日みたい。（それは通話の続きみたいな軽やかさで、挨拶もそこそこに掌に視線を落とす。）忙しくなかった？旅行雑誌の表紙イキりする準備できてる？トリックフォトってなあに？葉邑くんってバイトしてるの？（腕に散見される黒い文字列を朗読したら思ったよりも質問攻め、一息で述べた後誰より驚いた顔して視線を持ち上げた。）はやく喋りたくって、聞きたいこといっぱい纏めてきたらこんななっちゃった。（天井知らずの知りたいへ含羞交じりの笑声を零したら奇癖塗れの腕は後手に組んで隠蔽。）

あらお兄さんとびきりオリジナルな柄ですね。（どの口がと言わんばかりの軽口は変な柄と評したシャツへ向けて。あはと小さく噴き出す皺くちゃな眦が無遠慮な掌に依ってたそがれに染まる。）石油王の息子なの？これ最後「確定しました」ボタン押しても平気？（見上げた先へ悪戯な指先がぴんと立つ。帽子の落下を防ぐ掌を後頭部へ宛がえば揶揄めいてなぞるオソロへ睥睨、隠した右腕を恐る恐る差し出す様相はバツ悪そうな3歳児宛ら。）いつもそこらへんのペンで書いちゃう。癖なの。これは　　マッキーかな、よかった水性だ。（ポケットを漁って取り出すペンに水性の二文字と見留めたら奇癖の話題は強制終了。次いでええと上げた声は隠す事ない不満気な口吻で手前勝手な「あたしはこんなに暇なのに」「あんまり忙しくならないで」の内訳は明白か。斯くして卒然たる申し出と目前の掌へ目弾きふたつ、頭上へ疑問符浮かばせたら隠されている何かを見透かすような視線を落として）火傷しちゃわない？ゴキブリでもない？（存外“ちゃんとしてない”らしい少年へ印象を塗り替えた過日があるからびっくり箱を懐疑したとて峻拒の選択肢なぞ持してない。変な薬があれば秒で飲む好奇心を湛えて落書きのない利き掌を突き出した。）

（素知らぬふりして互いをアゲる一幕は笑声弾けるオチにて帰結し「可愛くしたのは俺ですよってか」は揶揄めいてあてずっぽうの代弁。）酒屋の息子なの？（架空のボタンをポチ。満月宜しく期待は膨らみ次なる提案へ「やりたいことどんどん増えさす」と喋れば喋る分足らぬと訴える時間へ渋面構えてみせようか。）腕にカッターで「我命柊捧♡」とか彫るようなメンヘラにはさすがに。（さも期待へ答えられない罪悪感を眉間へ取って付けたら被せ気味の「探す！」はせっかち極まりない性情がいつと重ねなかっただけ自制と言えるか。）ゴキブリとかフナムシはギヤア滅！って感じだけどバッタとかカナブンなら割と平気。自己紹介する？好きなもの嫌いなもの、LINEで超長文でおくろっか。（掌委ねる傍ら冗句めいた台詞は”メンヘラはLINEが長い”の定石に習ったお戯れ。斯くして「？こんなかんじ？」と位置調整の風采で離れゆく少年へ向けて放てば受け身一辺倒に屹立したまま戦ぐ髪の毛を耳にかける。はちみつ色に照らされて表情の伺い知れぬ少年の台詞が耳朶打ち一拍、意識の適応が遅れて現状把握叶えば）あたしの？（レンズに収まる己が如何様な顔をしていたかはうまく想像できなかった。嬉しいむず痒い照れ臭いこんなに嬉しいのが子供みたいで悔しい、沸き立つ情操を潮臭い深呼吸一度で昇華したら）……あたしだけの！（含羞孕んだ満面の笑みはカメラアピも相俟って掌の位置をずらさぬように片手がピースサイン。）すごい葉邑くん　なに　もう動いていい？嬉しいからそっちへ行きたいのですが。

ビールケース担いだりしてるの？　ぷ、店番してるとき遊びに行ってもいい？アイスボックスに瓶ラムネ突っ込むとおいしんだよ。（勤労少年と労わる素振りして冷やかしちゃおの内実、激暇JKのやっすい差し入れは通じるか否か。）ある！えっとね（掌拝借して指を折る、まず一本。）レイをねこないだ作ったんだけど、へったくそで。練習してもっと上手に作りたいでしょ。あとフォトフレーム作りたくて、額縁に使う貝殻も集めたい。それと…（五本きっちり数えた所で「え、あたし夜明かすつもり？」は唖然とした自問自答。）アマゾンでお取り寄せるから「我命柊捧♡」よりマイルドな文言考えておこ。葉邑くんもたまにならメモ帳代わりに使っていいよ。（奇癖塗れに擦る腕は今んとこ葉邑への質問以外まっさらなので自己基準でセーフと判じた。）　ふ　ふふ…。どうしてそんな恥ずかしいこと言えるの？きや～～って変な声出るかと思った。（嫌悪感を毛程感じさせない傲慢は面映ゆさばかり引き連れて、緩む頬隠しに帽子の鍔を鼻先まで引き下げる。「毎日送る」は生真面目な性分を思えば強ち虚言とも取れぬ愚直さだ。）でも秘密にしときたい気持ち、（招かれるまま爪先が砂浜の上を弾んで数歩、隣からスマホ覗けば「うわ、超可愛い」「カメラマンの力ですかね」は戯けた口吻だが）わかるよね。（と先の句へ繋げ）葉邑くんも撮ったげる！上手に場所合わせ？出来るかな、（早くとその背を押す。「太陽食べる？」「ジャンプでもいいけどできる？」と撮影会の幕間は太陽が沈み切っちゃうまで。）

その時はね、プルメリアとハイビスカスとそこらへんの葉っぱで作ったんだけど。葉邑くん手先器用？（今度誕生日の子いるからチャレンジしたいとは折った人差し指分の役目に任命。「ビーチコーミング？」と聞き慣れぬ単語が耳朶打てば知らないと首を横へ一振り、水性ペンで腕に書き付ける単語は帰ってからのTODOだ。ムーンビーチでラムネとアイスボックス持って星煌めく夜の砂の温度を確かめる未来が待ち遠しい。まだ今日を結ぶ前なのに。）時と場合と内容によるかな。飢えてる時ならレスカ一個で手を打とっと。（まるでダブスタ使いこなす悪徳金融業のような悪辣が笑みを象る。毎日上っては沈む太陽を独占だなんて笑止千万とは言え、須臾の熱情をふたりじめの贅沢へ共感を得られたら弾む爪先が止まらない。）勇者みたいに勇ましそうな顔してね。宿屋の主人になるにはちょっと垢抜けすぎ。（もっとくたびれた中年じゃないとと無駄口は一歩ずつ距離を空ける傍らで。「ちゃんとかっこいい顔もしてー！」とトンチキな指示出しながら位置調整をすれば数度音成らぬシャッターを切る。加工すら野暮な真似と判じる唇が弛んで）さっき葉邑くんがあたしにくれた太陽だからあげれないけどおすそ分け。みんなには内緒　あっ！みっけ、（まるで5才児にお菓子あげて特別だよって言うみたいな他愛無さ。大股数歩で隣り合えば見て見てとカメラロールを陣取る数枚は黄昏に染まって、ふと柔らかな砂浜に落ちるきらめき掬い上げたら指先に透き通るラムネ色のシーグラス。）はい、これは葉邑くんだけの。

イタッ（想像して一声。）それはあたしのが1000％器用で勝ちが見えちゃう…　　？意外だね、何でも出来そうなのに。（ピアスが千切れる未来を予想して渋面も束の間、過日の印象反復したら「余裕そうだから？」「ちなみにあたしは結構多芸。」と分析がてらに首を傾げて序に自己アピ。）宿を使ったら最後帰ってきた者はいないとうわさ　　？の、（卒然と降ってきた掌へ亀宜しく首を窄め離れてく帽子へ峻拒唱える間もなく、短な声を上げ戦ぐ髪の毛を掌で抑える。「ずっといちゃう多分。世界を救う任務放置するダメクソ勇者だ。」体たらくを自ら吐露すれば太陽を迎え入れる光景へ破顔一笑。シャッターは予告の有無に構わずこっそり盗撮ショットまであるってまだ内緒の悪戯だ。斯くして「ひとりだけ頑なに笑わない審査員誰だと思う？あたし伊鶴。」と数ｍ距離の会話は垂れ込める微笑にうわあと驚嘆の感想。曰く、「顔面偏差値、高…。」との事。）ロマンと現実の高低差がすごい。中に真珠入ってない？（ロマン把持せぬ指先がぱかっとホタテ貝を引っ繰り返しつんとつつく。人魚の尾鰭は見つけられないけどビーチコーミングの予習とばかり今日の収穫にちょーだいの掌。水平線とキスする太陽が沈み切って紺碧に呑まれるまではもう暫くの戯れが許されたくて帽子を取り戻しがてら近付いたら、波打ち際まで引っ張ってくその背中をどーんと押し出す悪戯が叶うか否か。煌めく飛沫に道連られたって構いやしないから悪食めいた舌先が笑って紡ぐは名残る橙に染まった）ざまあみろ。（に違いない。）