はい、もうお口あけていいよ。（それは朝食後直ぐの事。自室へ帰ろうとするなら一声かけて待ち合わせた玄関前で、少女の口元へ指先充てがいジッパー開く所作はライン応酬への戯れだ。ショート丈の白Tとミニ丈のスカートは双方揃いのジャージ素材で襟口とサイドに黒ラインのセットアップ。白スニーカーの軽装はツナギを作ったら即着用の前のめり具合を物語り、「お誕生日おめでと」は先んじて告げるが吉と本日への期待を寄せて。）歩いて5分くらいなんだけど、途中くだんのエッチなエステ屋通るからその怪しさ共有して。大丈夫、小糸だけ突っ込んだりしないから。（真面目な口吻で告げたとて中身はおふざけも良いところ。早速と爪先踏み出せばレモンカラーのビニールトートを提げた肩が弾む。）ツナギさあ、デニムの色から選べるんだけど小糸どういうのがいい？白もインディゴもあるし、薄くてちょっとダメージあるのも可愛いなって思ってるの。（道すがらは下調べしたインスタの画像をぽちぽちとスマホで引っ張り出して共有しながら。）

ありがとう。　え、以心伝心？（ジッパー開けて無事解放と相成った唇が弾む口吻を抑えられずに自身と少女とを交互に指差す。「あたしも秒で脱げるやつにした」と簡素なセットアップはツナギを被って脱ぐだけの設計で、くるくる翻る白い裾をつまんでみせる。色鮮やかなマーケットストリートを縫うように歩く最中も喋々回る唇は休息知らず）袖はないタイプがいいよねえ、夏はチューブトップ着とけばいいし、冬はスエット着てかわいいし。オソロするじゃん。（やっぱ王道のインディゴに程よいダメージタイプかなあと写真をスクショする傍らにあは、と噴き出したのはレーシングスーツを身に纏った入江を想像した所為。）ピッタリしたレーシングスーツきてめちゃイケ出てる小糸想像しちゃったじゃん。もじもじくんしないで。（想像するだに笑みを引き摺るも暫く、見るからに怪しげな看板掲げる店の前を通ればひそめた声で隣をつんつん。）ここ、ここ。エステだと思って入ったらまさかの貞操危機。どう？怪しげ？（勇んで踏み入って命辛々遁走果たした過日を笑い話にしてみせればうっかり興味本位で入っちゃいそな小娘の指先を引いてほら行くよ。斯くして数分後、一見して工場みたいな解放感溢れる倉庫の一角へ辿り着けば）あった、ここだ。（アプリと睨めっこして確認後、ツナギの種類がカウンター越しにずらっと。その隣には各々リメイク出来るようにと作業台の立ち並ぶショップのお目見えだ。）うわ　楽しい。どんなんにしよっか。

ていうか今度文化祭あるでしょ？そこで着よ、準備にツナギってぴったりすぎない？（目先のイベントへ双眸煌めかせたなら突き立てた人差し指がゴキゲンに翻る。「あっはっはもうだめ想像させないで！」少女の台詞が想像掻き立てるから全身スーツでプールにドボンする入江が笑えちゃって大変だ。斯くしてあぶねえあぶねえと体躯を引き摺る傍ら「この小娘ほっといたらヤバいとこに迷い込みそう…。」と冷や汗もんの一幕を経て早速生地選び。特段器用でも不器用でもセンスがある訳でもないが逸る胸裡が声を弾ませる。）もちろん！でも小糸も、あたしたちカラーリングもそこそこ似てるから選びやすくない？あっ、これいい。（同じく程良く色落ちしたインディゴを少女の身頃に宛行ったら暫く吟味の末、「これにしよ」と告げて。）緩めにきてロールアップしたら可愛いと思う。うわ、自分でスプレーとかペンキとかワッペンロゴとか貼れるよ！（みてみてとツナギ2着を手に取れば隣の作業台へ移動し、カラースプレーにペンキにロゴからワッペンにわんさか装飾品の揃い踏み。序に布用ハサミも手にとって）もちょっとダメージ入れて玄人感出すのもあり。（にやりと口端緩ませたなら次の所業を少女任せ。）「KOITO」って後ろにでかでかワッペン貼るのもありだよね、迷子防止に。（これは揶揄。選択肢は無限大だから迷う指先が颯爽と太腿と膝部分に加工を施しはじめよう。）

令和の神童って呼んでいいよ。（ふふんと得意げに笑うさまは勿論指きりげんまんもお茶の子さいさい。絡めた指を上下に揺らせば「小糸はほんとうに針飲ませてきそうだからなあ」はしみじみと。各々の趣味をふんだんに詰め込むツナギが徐々に形作られていけば吹き出るピンクに嬉々歓声、己は太腿部分にレモンカラーのペンキで態と掠れたような一刷毛をひいた。）小糸が中にピンクのTシャツ着るならあたし赤にしようかなあ。でもクラスTとか作るならそれでもいいよね。わっ、超派手。（装飾品のジッパーとダメージ加工へ心血注げばベースは同じだとて互い互いのツナギがお目見え。解りやすく怒気露な少女を横目に、ぷぷと笑いながら）悪戯前提？逃げる後ろ姿にでかでか名前書いてたら確かに頭隠して…ってやつだけど。あ、頭文字だけとかならセーフ？（KとNのカラーワッペン手に取りながら）だ～れがスポーツも万能な才色兼備か。（過剰な自アゲで入江の笑声へ乗じたら次なる興味はピンバッジ。カラフルビビットシュール何でもござれのラインナップを映じたらまず指先が摘まんでみたのは）見てみて、超シュール。（色黒現地人がサーフィンしているバッジはご当地じゃなきゃ誰も買わなさそうな代物。次いでじゃらじゃらと箱を弄ったら）うわ、これは可愛い。（虹モチーフに動物モチーフ、土星にチャームが垂れたバッジに目玉焼きまで。）なんか一個おんなじやつの色違いとかつけたいな。でかいやつ。（入江のツナギに当ててみたのはビッグサイズの齧られたりんごのピンバッジ。）

美術センスは壊滅的。そこらへん小糸はどう？美術部とかうちのクラスいたかな。（壊滅的センスをしゃあしゃあ露見したら期待混じりの視線を差し向けながらロゴは他人任せ。意味なく開閉されるジッパーに笑ったりすっとぼける様相が小憎たらしくて頬をぐりぐり小突いたりじゃれ合いの隙間にも着々と完成の近付きつつあるツナギ二着は、いざ出来上がりを映じたら互いの性格嗜好が如実に表れていることに気付くだろう。）ねえ太陽のやつあれに似てる、岡本太郎の。大阪万博のやつ。（シュールな絵面に一頻り燥いだ後「じゃああたし青りんご。」とオソロのバッジを手に取れば丁度胸元にポジションを据えて、目玉焼きのチャーム尽きと土星に垂れ下がる三日月のバッジも欲張っちゃったらいよいよと完成。）ほんとだ、可愛い！早速着ちゃう？（会計までを恙無く終える頃には逸る爪先が化粧室へ颯爽と、互いに脱ぐだけの軽装なので5分と立たずにお目見えする姿を映じたら第一声は決めていた。）似合う。あたしたちもう立派なダウンタウンキッズ。（小癪に唇の端を釣り上げて笑えば無許可でシャッターを切って、すれば「一緒に撮ろ。」は自然の流れで暫くの撮影タイムとなるか。真新しいツナギに体躯を包んで辿る帰路も喋々止まらぬこと請け合いの、愉悦極まる昼下がり。）ね、帰りアイス食べてこ。そのまんま帰るのもったいないもん。（突き立てた指先が上機嫌に翻って今日の延長を強請れば、玉響の如きひとときをもう暫く堪能させて。）