秋山さん。……あ、秋山刑事？でもおれが犯人なら刑事って呼ぶのは変か。（海の方へ向かう可能性を踏まえた上で、選ばれたのはサンダルではなくニューバランス。動きやすさ重視の出で立ちは何をするにも対応できるようにとの心懸けの表れで、戯れみたいな玄関出たところで落ち合えば日射しを厭うて目を伏せた。）断崖絶壁も、まさかすてきなって形容詞が付けられる日が来るとは思ってなかったと思うんだけど、場所に心当たりある？（物珍しさ満点の非日常が徐々に日常に変化しているとは言え、冒険心に乏しい男は近くのショッピングモールやビーチに足運ぶ程度がせいぜい。新境地の開拓には足踏み状態だから自然聞き手に回りつつ）おれより秋山さんの方が出掛けてそうだな。刑事と犯人が対決しそうな場所、探しながら歩くのもいいかも。（彼女の意見も聞きながらひとまずは歩き出す折、唇が言葉発する前に小さく笑った。）おれ、自分で言うのも何だけど、かなり人畜無害だと思うんだけどさ。何やらかしたんだろって思って。（空想上の罪の候補を指折りながら）

上の階級狙っていくあたり貪欲なとこが透けて、る？…それ、すっかり秋山さんのになってるんだ。（与太話の一側面から為人暴こうなんて、無理難題とする思考とは裏腹に当たりを付けた疑問符は正解狙って窺うような視線を向けた。見覚えある南国カラーを認めれば「おれ、てっきりなりたはマストなのかと思ってたよ」とLINEを想起して思い出し笑い。）あ、…あるんだ。いや？秋山さんが行きたいかなって思って、おれは場所に見当ついてなかったから聞いただけ。秋山さんはいいの？断崖絶壁。（普段まるで口に出す機会のない四字熟語のリズムが癖になって、最早言いたいだけの確認は楽しげに「高いところ平気？」と問い掛けを一つ足し算。フェードアウトしていく声に思わず隣へ滑らせた視線は俄に懸念に塗れていたけれど）……わけじゃ、なくもない？（期待値込みの問いは日本語の破綻を見せていた。）そ、れおれのせい？でも確かに、将来絶対に連帯保証人にだけはならないって決めてる。……おれそれ、何の罪になるんだろ。そそのかされて殺人幇助とか？……流石にそれは、しないと思うけど。流石に。（絶対と言いきれぬ不安が押し寄せ首振って思考を散らしながら）秋山さんはあわあわしないから、共犯にはなれないんだろうな。する？

え？あ、ごめん、違う。取り上げちゃって…みたいに思ってないよ。ううん、なりた連れて撮影会はまた今度にしよ。（即座の否定に目弾き。次いで溢れたごめんは口癖に似て、予測有りきで柔らかに首振った。端からUターンを請うつもりはなかったが、口だけで問うマイペースに窃笑する口許を拳で覆って、素知らぬ顔はやや失敗のオチ。）もう南国っぽいことって何かした？海は行ってそうだし、それ以外で。（視線巡らす必要もなく、自然視界に入る青を少女越しに眺め）バレてる。うん、ちょっとリズムが好きかも。ジェッ……ト、コースターかあ…。おれ最後に乗ったの小学生のときだ。……落下するならジェットコースターの方が速度的に一思いにいけそうではあるかな……。（遊園地の代名詞に途端端切れが悪くなり、お陀仏コースを想像して遠い目。本気でない声色には気付いていたから頷いて「今度かな」と返したのは、別段その場凌ぎでもなかった。）万が一おれがテレビに出たら、かつての同級生探す番組で秋山さん指名するよ。（空想に重ねた仮定と予定は戯れめいて「でも秋山さん、結構突飛だからな…」の杞憂も俄に笑い混じり。唐突な連行にえ？と呈した疑問符は暑気に溶け、砂に埋まるシューズが前よりの重心を形どった。ここに来ての問いに先んじた戸惑いが笑みに揺れ、脳裏で流れをおさらい3秒。）あわあわしてみる挑戦？……ど、っちが先に相手を突き飛ばせるか、とか？（透明度高い青を縁取る白波を一瞥。まさかねの色を宿した双眸が正解を待って彼女の顔を窺った。）

じょ、乗馬？（先ず自発的には選ばないアクティビティーが耳朶打てば、必要ないと理解しているのに思わず彼女の四肢を確認。）なるべく普段しないことしようとは思ってて、外でご飯買うだけでも楽しんでるつもり。してみたいのはシュノーケリングとか。あとは…順番に言うけど、美味しいものは好きだよ。料理ちょっとするから、どうやって作るのか考えたりする。秋山さんは？（歩調に見合うテンポの口吻はきっと彼女よりもやや緩慢に、一端返した回答権に「好きなもの」と繰り返してはエアマイクを添えた。肩揺すられながらも首振って、）しないしない。…あ、メリーゴーランドって高校生になっても乗っていいものなんだ。おれコーヒーカップは割と好きだよ。（突然幼児レベルにハードルが下がった乗り物の選択理由は憂慮のど真ん中を射抜いているからにがわらい。彼女の辞書にはないらしい反応を横向いて見届けていた双眸が僅かに瞠った。）おれ、驚かそうとされてたの？……にしても、オン・オフできるなら素質あるよ、たぶん。（何で？の意を込め事実確認。予想だにしない行動は奈尾目線では突飛な発想に違いなく、笑いながら持論の端っこをしっかと握った。挑戦の内容を聞く視線は足元を注視、相槌を数度繰り返して、）足が濡れたら負け？あわあわって言うよりは、びびりだってバレそうだな、それ。……本気？これ海に背を向けてる方が負けるゲームだよ。きっと。（冗談か本気かの判断つかぬまま、移動範囲を定めぬ押し相撲の様相で両の手のひらを晒した。）

秋山さん、料理するんだ。おれは殆どご飯。昔から普通に手伝いはやらされてたけど、一人で作るようになったのは中2かな。親が帰り遅くてさ。お菓子はなに作るの？（意外な共通項に目をまろめ、柔く戻されたマイクで答えたなら、さっきと同じようにマイクを疑問符と一緒に差し向けたときには戯れに唇が撓んでいた。）謝らなくていいよ。なんならおれも驚かされるよりは驚かせたいけど……。役立つかな。時と場合によっては心配になるけど、楽しいよ。（推量込みの物言いを追及することなく単に曖昧なまま受け止めては、仕掛ける側の展望を語って横目で窺いながらの「手強そうだな」は先手を取られそうな予見ゆえ。彼女の突飛に刺激受けて去来する愉楽を端的に示し、一人では来なかったろう波打ち際での戯れに下がり眉。図星だった。）本当に本気で、恨みっこなしならやるけど。にしたっておれにハンデないとじゃない？（一押しでよろめいてしまいそうな体躯を前に、改めて性差を意識する必要なんてない。高を括った先に見える勝利は心境読まれている手前おあずけ食らっているような感覚だ。）考えとくよ、秋山さんがあわあわしそうなこと。苦手なこと教えてくれる？…本当だ。また今度、ってやりたいことあるのは、おれは結構安心するけど。今日も楽しいよ。　　ッ、はは、はあ…、びっくりした。もしかして、ずっと押したがってた？（安穏とした会話に確かに油断はあったろう。片足が半歩よろめくけれど、立位は保ったまま。そうして、砂浜に新しい足跡をつけながら、）アイス食べる人？

…なんで今一回おあずけ食らった気分にさせたの？おれお菓子初心者だけど、一緒で平気？なんなら見学係しようかな。（小さな裏切りに不服そうな物言い。素直に頷きかけていた頭は次なる誘いにだって首肯するのが常の態度だったけれど、僅かばかりの意趣返し。つれない態度は不慣れゆえ何処かぎこちなかった。）ううん、脅かされて寿命縮めるならする側で…って思ったけど、驚かす魂胆持って狙い定めてるときの方がじわじわ寿命縮まりそうだな……。（巡らす思考は結局ループ。彼女の不得手に相槌打って「あわあわタイミング思いつかないな」、首捻っては算段に諦念が顔ばせに滲んだ。）座禅一緒にやりに行かない？って言ったら焦……る？……へ、下？いや、煩悩くらいある、っていうか、皆あるものじゃない？帰りたくないな、とか思うよ。夏休み、もうあと半分だし。（念押しに「どこ情報？」と笑い混じりの疑問符揺らし、お辞儀の要領で頭の天辺晒しては見えた？の問いも戯れの色が強く出た。）あ、違う。えっと、……いや、次も遊びたいと思ってもらえてるんだなと思って。安心。（すれ違いを精査したい感覚はあれど、自己評価の低さを晒したくない小さな矜持が暫時唇を重くする。明朗な返事に「おれも」と返し見覚えある店へ寄り道。視線落とした先、水分が足跡に染みていた。）帰って干したら、明日には乾きそうかな。……遊園地かクッキーか、なりたか、…選び難いな。なにが良いと思う？（体に悪そうな色のアイスを珍しくチョイスして、帰路辿る最中の問いは指折り数えて自然に落ちた。）