（8月9日時刻は正午前、昨夜唐突に持ち掛けた賭けの行方は玄関。開襟シャツの首元から足首が覗くアンクルまで黒に染まっているもの、昨日に続いて今日も主役の彼女が引き立つなら黒子で丁度良い。腰を落として彼女が現れるまでの時間を刻むよう踵を鳴らし、スマホでこれからの情報を調べてみるがなんも頭に入っちゃ来ない。なんせ今日は彼女任せ。例え主役であってもだ。それから振り返ったのは足音か、声か、はたまた気配だったかは分からないが変わらない光彩を映して目を細めた。）あ、来た。誕生日どうだった？おめでと。（挨拶代わりに問い掛けながら立ち上がれば彼女より数歩先を歩き、これまた全く落ち着かない強い日照りの歓迎を受ける。）ジュースとプレゼントどっち先に行く？心さんは好きなもの最初に食べそうだしジュース？（元々は前者が目的であったゆえ天秤に掛ければそちらに傾くだろうとは推察でしかない。）

（まさか三遍往来しているとも考えないから後ろで引っ掻く声に対する振り向きは呑気に。目弾きこそわざとらしさを多分に残し、いじけた表情もころりと明るく笑ってくれるなら唇の間から息が零れた。）心さんに少しでも楽しんで貰おうと思って。そっか、なら良かったてまたお母さんみたいなこと言った。（なにも気掛かりあった訳もない。彼女ならば当たり前だろう返答の内容につい滑らせた科白の指摘は自ら。弾む口振りの裏には予感かプレッシャーか、前者を森地も胸中で抱いていたもの選択の判断は面白さに寄っただけ。）なる？誕生日と同等する自信はそんなないよ。　嘘。けど心さんってほんと雨でも槍降っても楽しみそうだよな。（変わらぬ第一印象を口にしつつ、陽光を片手でシャットしながら並べ立ててくれた日程はありがたいと首肯すれば足先は第一の目的地へと向けた。矢先、肩より上げた腕を下ろしてまじまじ観察。）え、自分じゃ全く分かんないけど焼けてる？日焼け止めとか塗ってないし焼けてもおかしくないか…。（目線だけでなく顔を向けたのは改めて日焼け具合確認の行動。そんな間に彼女の肌もまあ見えるから。）心さんは焼けてないよな、焼けたくない？

（何度聞いてもまあいっかと思える純真な笑いに触れて、称賛を遠慮なく受け取った。）はいはい、俺が楽しくしてやるよ。満点？うん、知ってる。前から話してたもんな、ココナッツジュース。今日はスマホある？（授業のような音読の淡白さを自覚しながらも評点を求める。見上げるひとみを捉えれば口角を柔に上げ彼女との思い出を振り返りつつ、欠けてならない持ち物を確認。存じなかった豆知識の披露には影落ちた眼差しがたっぷり彼女に刺さるだろう。）はあ？それなら俺より絶対太陽浴びてる心さんが3mなきゃ納得いかない。（真に受けた訳もなければ戯れる母音の響きを残し、次ぐ自論は笑い交じり。紫外線をきらう白さを目にしながら質問への正解を知っていても口の運びは淀みなく。）黒ココを見たことないからどうとも言えないな。俺はガングロたまごちゃんも可愛いと思うし。（いつぞやのアニメキャラを土俵に上げながら行った仕返しの行方を見遣る。そして彼女の指先を追えば映えに相応しい品の数々に感心しながら最後尾に着くも、会計直前に「じゃあ任せた」なんてその列から離れる為、外につま先を向けた。任せっきりの有言実行。すぐの再会は彼女がジュースお買い上げ後が望ましい。）

（惜しくも頂けない花丸もすっかり空気抜けた頬の後へ引かない気さくさを見るから口端を緩め。）あれスマホってそのまんまだっけ。（あまり記憶していなければまっさら状態に違和感を覚えたもの伺う物言いで。）180の心さんか　あ、また違うじゃん、色。日替わり？明日は白？（脳内にて描くよりも先に視覚に触れた刺激が言葉となる。彼女の爪先をちょいと顎で示しつつ、一度として同色であった事がないと立てた憶測は果たして。まんま返された響きにくすぐられたような笑声を響かせて）さあ、それも分かんない。今んとこはツンデレも黒ギャルも好きになったことないけど。あーあ、だれかツンデレしてくんないかな。（不自然な動詞に当て嵌めては彼女をチラ見すればほぼ名指しだ。ややあって再会に鳴る拍手は無駄のない注文を後ろで見ていたから。）ありがと。はんぶんこ好きだな、了解。撮る？（スイカを受け取りつつ空港での一幕と変わらない流れに目が細まり、違うとすればすんなり頷けた事くらい。そうして彼女のタピオカメラで常夏満開の写真が収まるのを見届けてスイカを一味先に味わう。）ん、すごいスイカ。飲む？俺にもココナッツちょうだい。（スイカを差し出しながら持たない手でココナッツを欲した。食べ飲み可能ならばのんびりと歩みを進め、無理であればその場で飲み干してから次なる行先は。）ピンキーリング行くか。

ふうん、新しいの買うチャンス出来たじゃん。そのまんまにしたら次落としたときお陀仏じゃない？（思い入れだとか彼女の前向きも考えない勝手な持論が口を割る。ただその曇りを晴らしたい気持ちはあった。）モデルみたい（何度目か分からない真似はもう我慢ならないから笑いながら）ケガしてくれるんだ心さん、まあ俺がケガさせるよう仕向けたけど。男子ってどこの男子なんだろ…（太陽を背に輝く指先が次に示す場所へと目線を追い掛け、スクロールする度に様々なツンデレ台詞がでかでか書かれているものまだこれっぽちも弾まない。ただ応えようとしてくれる健気さだけに薄くも笑みを作る。健気の表現も柔らか過ぎるか。）じゃあこれ。（そして指差した10位。一体どんな風に演じるだろう。好奇に瞳が揺れた。彼女がシャッターを鳴らす間は動かずただ見守って、その終わりに「俺の分も撮った？」空港と全く分からない台詞はその記憶があればやはり故意に楽しげ。緩やかに足を向けた先は活気溢れた場所に辿り着く。）ここは初めて来たてか多分、今日来なかったら知らないままだった。（目移りしながらもメインの屋台を目の前にするなら「心さんこっち」と隣に居ながらも手招きして）俺のセンスで選ぶならこれ。（売り物であるゆえ手に取らず指差したのは、編み上げたレースのようなデザインのゴールドリング。そして口を結び彼女を見て判定待ち。）

（嘘がつけない人という印象は変わらない。あくまで心証に過ぎないが、それでもどこか確信得ているのは彼女の言動を受けるたび。素直な口が天の邪鬼を放つのはやはり不自然で、しかし新鮮でもあれば一瞬たりとも見逃さず聞き逃さずにしかと傾聴した。不慣れな口振りと丸まった姿に零れた笑声はまあ穏やかに。）ありがとう、心さん。けど…てか知ってたけど、心さんはツンデレってキャラじゃないよな。寂しいって思ったらすぐに会いに行きそうじゃん、フッ軽だし。…案外我慢すんの？（つらつら語るどこにも事実なんてない。それでも彼女と重ねた時間を振り返れば躊躇いもなく口にした最後、未だしゃがみ込んでいるようなら片手を差し伸べた。）大丈夫？お疲れ様。ツンココはここだけの秘密にしとくから。（彼女をリンゴにさせた当事者であっても涼しげな面で空いた手は真っ赤かに向けて扇ぐ。さてリングを目の前にして普段の溌剌は尻尾を巻いてしまったよう。）ほぼモデルの心さんなら似合うと思うけど。あ、つけてみても良いって。試しに嵌めてみたら？もちろん他のが良ければそっちでも。（ジェスチャーにて店員の意思を読み取るなりあっさり掴み彼女に手渡す。試着は本人次第、どうなるにせよ16才なり立ての意志だけを尊重してリング選びを終えて会計の最中。）ピンキーリングって幸運のアイテムだって知ってた？俺からの誕プレだし今期絶好調確定だろ、羨ましい。（そんな風に茶化して笑えば、リングが入った透明の小袋が手渡される。プレゼントと称した包装ではないだろう。）他なんか見る？

（言い切らない続きを逃さぬよう腰を落として耳を寄せた。見えた慎ましさは正に健気と表現するに正しく、上から降らす声は和らぎの笑い交じり。）心さんは会って良かったって思わせてくれる人だし大丈夫だろ。あ、でもやっぱ男から会いに来いっつうのが女心だったりする？（軽い口振りの説得力薄くとも体感者の一人であるから断言とする。入口はからかいだったもの今や立派な恋愛話にも表情変わらず興味を覗かせた。一方通行の引力によろめきを見せたものすぐに立て直せば無事故だが、彼女に注ぐ視線はまあ平穏じゃ済まない。）仕返しすんの早過ぎ。ほらもう立てって。（構わず今度はこちらが引いて立ち上がらせようか。すっかり元通りになったご機嫌に釣られて口元に笑みが浮かび、快い即断に眦は下がる。）うん、可愛いよ。似合ってる。（いつもの真似ではないから一度っきりをそのこころに向けて。傲慢も彼女に渡るなら溶けて向けられた純朴を真っ向に浴びれば、生じた照れ臭さが首肯を精一杯とさせる。）どういたしまして。落とすなよ。名前書いとく？心って。（ちょっかいを挟みつつも彼女の指に飾られる瞬間を見届けた。夏の光りに輝くリングを見るなり安堵が胸を包む心地を受けながら、ふと問う。）俺のセンスどうだった？（面倒だと認識しながらも気付けば衝いて出ていたから。次なる目的地へ向けた足先の正確性がゼロに等しくても全く問題ない。）心さん、学校始まってもよろしく。（虹色に彩られた日々が多かった。すればすっかり植え付いたスペンサー本願を摘まれてたまるか。）