（簡潔な通話を終えた後ロビーのソファに腰掛け、鼻歌に合わせて爪先を跳ねさせる一人遊びも少し。間もなくやってきた姿に顔を上げれば）おーす！　塩♪でもご当地オリジナルの味とかも気になる人〜はいっ！（彼の手が挙がるかどうかはさておき、真似た挨拶と共にソファから弾むように立ち上がれば駆け寄る。早速向けてもらったスマホ画面をどんぐり目いっぱいに映し込めば、感嘆の声を溢しつつ勝手に人差し指でスクロールしてラインナップを順に見ていき、降りてきた声に再び顔を上げ）何軒行きますっ？おれ今わりとお腹すいてるので、二軒くらい行けそう…！（自分の腹部をぽんと叩いて胃との相談は即終了。一見淡白に映る彼とは対照的にわくわくに笑顔の絶えない表情は、されど内心を比較すれば大した差はなさそう。平常運転だと分かった上での「もっとテンション上がってるぽくしてみてください！」はクラスメイトとの単なるおちゃらけ戯れ。玄関を出れば、そろそろ折り返しを始めた太陽の柔らかな日差しを浴びながら）ここきて、あーあれ今んとこ一番美味しかったな〜ってやつあります？

二人で一皿もアリ♪（二本指を立ててVサインする様は食い意地を手放せない育ち盛り。爪先を鳴らして踵をスニーカーにおさめている最中、突然追い抜かれたかと思いきやその歩幅と速度が機械的に速められたのを見て思わず噴き出し、声を上げて大笑いしながら急いでその後ろに続かんと駆け出したところで、今度は急停止をキメた大きな背中に衝突。）んぶッ。……あはは！じゃ〜食べ物しりとりでもしますかっ♪にたまご！（ちょっと赤くなった鼻をさすりながら提案したのは、空腹を更に煽り来たるラーメンに向けてコンディションを高めていく遊び。歩幅は彼に合わせたら普段より多少大股になろうか。）美味しいのはどれもですけど〜あ、コオロギ食べました！でもあれはあんまり口に合わなかったです。上埜くんむしろ食べられないものとかは？（受け入れこそあれど拒否する様をまだあまり見かけた事がない気がしたから。「苦手なものは？怖いものは？弱点は？」好奇心全振りで傍らを見上げる視線は、目的の通りへやってくれば意識は再び前方へ）辛すぎなければ？（店内は日本のそれをフィーチャーするかのようにカウンター席とテーブル席に分かれた仕様。隣に並んで前者の席へ座れば、こっそり小声で）か、海外仕様ですかね…！？椅子が高い…！（ギリギリつかぬ爪先をぷらぷら。）

大丈夫…！　あっ、はいごはん！上埜くんの負け〜♪（聞き逃しはしなかった。しりとり開始一往復目で勝敗を決すれば、平生トーンの低い彼の声に重ねるようにきゃらっきゃらと笑いながら「罰ゲーム考えないとですね！」と意気揚々足取りは軽い。存外少なくなかった苦手な食べ物のラインナップに彼を見上げた意外そうに瞬く瞳は隠さず）得意なことを共有するより、弱点を知り合った方が距離が近くなる感覚ありませんか？やっぱり弱いところとか恥ずかしい一面って他人には見せたくないじゃないですか♪（コオロギはイヤですよ、と返したのは実際の有無はさておき変なトッピングのくだりへ釘刺しのつもり。座ってしまえば高さも気にはならないから、足をぷらぷら揺らしながら笑顔で首を横に振ってメニュー表を一緒に眺めれば即決。一番大きな写真が貼られているどうやらおすすめらしい塩味玉チャーシュー麺と海老餃子は二人で一皿、彼の分も含めて注文を終えれば暫しの待ち時間にて）こんな異国の地でのデビューもあれですけど、おれ友達とラーメン屋さん来るの初めてです！上埜くんは部活帰りとかよく行ったりするんですか？

恥ずかしかったこと……（自らそれが歩み寄り要素の第一歩と謳ったにも関わらず、いざ考えると存外出てこない羞らいの入口。視線を宙に漂わせながら記憶を遡る事少し、あっと声を上げれば再び傍らを見上げて）ここに来てからですけど、朝寝起きのまだ支度も何もしてない寝癖ぼさぼさのぼんやりしてる状態でお手洗いに行こうと思って廊下に出たら、クラスの女の子と鉢合わせかけた時ですかね！？心臓もばくばくで、その瞬間一気に目が覚めて…終えてすぐ、急いで部屋に戻りました…。（「見られたらと思うと恥ずかしくて…！」見られたくない、という羞恥心は果たして彼の共感を得られるものかどうか、語る顔は思い出してうずりと一人でまた赤面。）あーコンビニ…いやいや！事前にお約束すれば全然行きますよ！？……あ、そうだ、じゃあ学校戻ったら部活帰りに買い食いしませんかっ！？そしたら僕、前もって親に「この日は買い食いしてから帰るので」って伝えますから！そしたら行けるでしょ！？ね！？（つい熱くなる語気はどこか悔しさと必死さを抱えるようで。その熱を遮るようにやってきたラーメンに一時中断。両手を合わせて同じくスープを口に含めば、美味を表す唸りは分かりやすい、が。）……お、おれのこと、伝説の芸術家か何かだと思ってませんか…？（聞き馴染みのない形式で求められた感想に、思わずぎょっと歪めた顔を隣へ）そんな高尚な言葉残せませんよ。おいしい！！（カウンター越し、店員と目が合えば頬に手を当て笑顔で「デリシャス♪　ね！」と彼にも同意求め）

むしろ生まれてから今日までの中で恥ずかしいと思った出来事、これくらいですよ……（「上埜くんは…」元来あまり表に機微が見えてこない級友の顔を見つめて数秒、幾らかの思考を巡らせた後に開いた口からはまた別の問い。）上埜くんって緊張することあります？（何にも縛られずにフラットでいる印象が強いからこそ。全力の口約束に返ってきた色好い返答へ、表情は忙しなく安堵から喜びから驚き。）意味分かんねー？！（声を上げるも、これに関しては手練れであろう彼の言葉を素直に聞き入れておこうと肯きつつ「アメリカンドッグ！アイス！」と早速溢れる案は小出しに）そうですか？そうかも？あ、でも聞いてみてーって思ってもらえるのは嬉しいです！俺も上埜くんの考えてることもっと知りてー♪最近一番楽しくて笑ったことは？（真似るような口調は半分意識的に、半分は釣られる心地良さに抗わない感覚。二人のデリシャスを貰い気前の良いサムズアップを見せる店員に笑いながら、受けた指摘に自然彼の丼を見て）早！（間もなくやってきた餃子共二人で食べ進めれば、ご馳走様まであと少し。）そういえば、（グラスの水を飲み干して、会計へ向かう道すがら。）来月は文化祭ですよね。どういうのやりたいとか考えました？

っぷ、あはは！いい顔っ♪上埜くんちのご両親は成績にきびしい方ですか？（思っていたよりも数段親しみやすい返答は、本人の表情も相まって耐え切れず膨れて破裂するような笑いが溢れた。）ま、学ばされますね…！そういうものなんだ……（麺をすすり咀嚼しながら頭の中で彼の言葉を反芻し、再び向いた傍らの先、また一つ見たことのない表情が窺えたなら「うわっセンパイ顔してる！」と面白がるような笑いと共に指差し指摘。似合わないと斬られた口調はされどまだ懲りず、そうかい？と首を傾げて続けるが早速怪しい。）え！？笑ってる？！わらっ、て、る……？！（何度目になろうかその横顔を凝視する、がやはり現時点の秋吉にはまだ上埜の笑顔をそう掬い取ることは出来ないらしい。）おれはむしろいつも笑ってるせいで、笑ってる自覚がない時も口だけ勝手に笑っちゃってることがぼちぼちあるみたいです。（人差し指を片側の口角に押し当てればV字に持ち上がる口元を示すように。互いに丼の中が空となれば、彼のご馳走様に動作を付け足すように両手を合わせて店員へ笑顔。グラスの水で喉を潤しながら）あははっ！えーでもタコ焼きはせっかくなら液体？から作りたくないですか？くるくるってしたいもん♪上埜くんはタコ入れる係ね〜（人差し指をピック代わりにくるくるっと丸めて返すイメトレそこそこ、会計を終えて店の外へ出よう。）しょっぱいのきたら次は？

やらかすんだ…（思わず落ちたかわいた笑いは他意なく素みたいに低め。大変そうだと印象を返されれば、否定するように首を横に振った後平生の笑顔で「うちは放任♪楽ちん♪自己責任♪」とピースサインで即興ラップ。）ねーーーえっ！それは我慢してるでしょっ！流石に分かりますよ！？（不満よりもおかしさが優って上がった笑い声と一緒に、手の届くところにあるからと遠慮無くその肩を手の平で数度はたいた。尋ね返された言葉には驚くように瞳を丸め）えっありますよ！？そんな温厚に見えてましたか？あんまり怖くないとは言われますけど…、えー例えば…（クラスメイトに子供扱いされた話、きょうだい喧嘩して数日口をきかなかった話、エトセトラ挙げていく直近エピソードを共有していけば彼の中の秋吉かもめ像が多少は深まってくれるだろうか。）それで上埜くんの屋台では、タコなし焼きとタコ三個くらい入ってる焼きが出来上がるんですね♪（「運試し屋として案外繁盛するかもしれませんよ」とは笑い話。しょっぱいの次は辛いの。返答を聞いた途端口の中がそういう風になった。握った拳を小さく挙げて）イェー！四分くらいかな♪時間経つとどんどんいっぱいになってきちゃう、早く行こ！（足取り軽く次の店舗へ向かうその道中、美味しそうなアイスクリーム屋さんを横切ればきっとまた隣と顔を合わせるんだろう。）デザートはあそこかな？（さて、欲望の赴くままに。）