（案外出歩く機会のなかった夜は、約束となれば殊の外するっとクロックスが滑り出す。時間5分前、白Tシャツに黒のスウェット地のハーフパンツのラフな出で立ちにてロッジ前へやって来れば男が現れたのは後か先か、どちらにせよ）こんばんは。晴れててよかったね。ここからでも東京よりきれいに見える気しない？（気だけかな？と空見上げたなら都会のビル街が邪魔をしない開けた空には、街灯の光があろうとも強い煌めきは視力の悪い瞳が捉えることも出来る。海へと歩みを進めれば心地良い夜風は徐々に潮気が混じってゆく。）そーいえばリストにいっぱい線は引けた？これが残ってるの意外だったんだけど……色々やりすぎて逆に残ったんだろーね。（道すがらの雑談は空港で話したそれ。「毎日寝落ちだもんね」と揶揄を付け足す頃には海岸まで間もなくか。）

（出会い頭快活に発されるもう馴染んでいようあだ名は、本来の立ち消えた第一声を捉えたならレンズ奥の瞳が細まって）ほんといちいち言い直すよねアンタは…。アホなこと言ってるのはいつもだと思うから恥ずかしがらなくてもいーよ。通常運転でしょ。（態々言い直されると引っ掛かりを覚え此方もいちいち指摘してしまうガキっぽさ。仕返しのように思えたかもしれぬ印象の吐露も、本来のイメージを舌先に乗せたに過ぎぬ為あくまで淡々とした口吻だが、感嘆が耳朶打てば「ね」と勝手に同意と解釈し眦が緩む。）やらなくてもよかった、ってやつはあった？（それはやらないでおこうという打算の逆質問。）…俺？そうだな…動物園はよかったよ。日本より動物元気だったしね。（寝てるだけのイメージ強い動物達の印象が覆ったサマリン動物園、「もう行った？」と共通項を探すうち、不服にぶすくれた音からポジティブが飛び出すから）ほんとかな。じゃあありがとうだね。（懐疑的な言葉も小さく喜色に色付いて。）海だと月明りだけになるからもっと見えると思うよ。ごめんあんまり詳しくないけど…なんかその星厨二臭いね。（サザンクロスに失礼な所感零し、どんな星なの？と一応詳細を強請ってみるが、曖昧さ表す疑問符を感じたからまともな答えはさして期待せぬ口ぶり。そうこうするうちクロックスが砂浜を踏みしめた。）あ、さっきよりいっぱい見えてきた。（街灯を背に感じれば見える星々が増えてゆく。より暗闇を求め歩む足は未だ止めない。）

まず俺のどこかの発言がロマンチックと取られたことも恥ずかしーよ……。（伝われこの羞恥心。此方はそれが通常仕様でないから、尚も快活に笑む彼女とは対照的に肩を竦めるだけに留めよう。ネガティブな質問が一蹴されたなら回答者の人選を間違えたと眉間に皺寄せる一方で眦は下がる「アンタならそーだよね」を滲ませて。）水族館もあったんだっけ。そっちの方が室内でよさそーかもね。（とは男の所感だったが）トラとかゾウがバテてなくてすごい動いてて楽しかったよ。ゾウは檻なしでエサあげられたし。（可愛いは楽しいと動議だろうかと勝手に位置付ければ、楽しいを軸に期待に満ちた瞳へと欲を煽ろう。望み薄だろうとした星座の詳細も文明の利器が助けて）へぇ、ほんとだ。クロスになってるの面白いね。日本では…ほとんど見れないんだって。見なきゃだね。（ハ？の意味は分かってしまうから素直な感想には笑いが混じる。向けられた画面を勝手にスクロールし、沖縄付近以外では見えぬ概要把握すれば期待値は彼女と同じくらいには高まったか。けれど人工的な光が遠ざかる折、クロスのことが片隅に追い遣られた感嘆は然して現実に引き戻される。星を見るには好機な暗闇がこの状況下では危機に変わり、運良く沈む彼女の手首を捉えたとて咄嗟に引き上げる握力を男は持ち合わせていないから）……ちょ、大丈夫？　　ははは、急にいなくなるんだもん、びっくりしたよ。（手首掴んだまま上から青を見下ろして、心配も程々に間抜けと揶揄孕んだ笑声がさざ波に混じった。）

（羞恥孕んだロマンチックも彼女に掛かればそうでもないらしいからこの場限りはそう受け取っておくとして。案の定好奇心を煽ることが出来たなら予想以上の興奮に口角が上がる。）あと餌は自分の口に、チップは象使い？の籠に入れたりしててすごい賢くてさ、チップ弾んじゃった。（案外暖かいとか、感触の感想は自分で体験した方が良かろうと反応の良い彼女に言及するのを我慢しまごついた唇は代わりに「いちいち楽しいだろーね、アンタと行くと」と音を変える。何だか象を見ている気分――は中々失礼だろうが、象でなくとも彼女を見ていれば楽しくなるはきっと誉め言葉だ。）……失礼だな。サザンクロスはすごい明るい星みたいだから眼鏡してたらちゃんと見えるはずだよ。（見たこともないので言葉尻は弱めだが、件の眼鏡をくいと上げてジト目向けるうち、直ぐに湿った瞳は心配に、そして笑みに成り代わる。）ないの？（とは御転婆な彼女への所感。甲高い笑声が夜空に響いてそのソプラノが今度は手首から自身へ向けられれば、少ない語彙でもその通り真上を見上げると）……ほんとだ。すごい。寝転がった方がもっときれい？（問いかけると同時に腰下ろし、そのまま彼女の真横へ寝ころんだ。引き上げようと握ったまんまの手首は用無しと解放して砂を触る。視界が開け更に星が瞬けば問いの答えは容易だった。）これがほんとのロマンチックなんだろーね。まあ、今日は俺で許してよ。他にカップルもいないみたいだしデートの実践かっこ仮だね。（LINEでの話題を引っ張り出し視界には星空映したまま）

（全部食べのスペンサー象は案外想像に容易くフォローよりも笑声が空気を揺らし、正直な感想言い当てられたなら「うん、褒めてるよ」が素直に口から滑り出た。）2本だし爪はオレンジでしょ。見えてます。（指を視線で追いかけ不貞腐れた口吻で追加情報も添えれば「いーけどね」と流すさまは本気の謝罪を求めていない表れ。弾かれたような否定はどうかなと曖昧に濁してみて、下の彼女の感想横目に砂を背にした。熱が冷めた海岸では冷えた砂が逆に涼しい。）うん、潔癖じゃないし。でもお風呂後回しにして正解だったかな。アンタはいーの？　って今更か。（転倒での汚れを気にするより笑いが込み上げていたこと思い出せば無意味な心配だったかとふっと口元が緩んで息を吐く。掴めないと知っているくせ伸ばしたくなる腕は2本。一面の星空は遠近感だって狂ってくる。）二人占めっぽいね。子供の時何で太陽はずっと俺ばっかり付けてくるのかと思ってたし。（その頃なら迷わず二人占めと発していただろうと暗に告げ、空気しか掴めぬ手は腹へと退却。）いや、ないけど…。デートで来たいって言うからさ。たぶん、好きな人と来たらなんかこう、いい感じになるんじゃないの。場所より気持ちの問題。（結局知らぬ物同士のIF話。曖昧な表現で暈したが、濃紺の煌めきから虹色のブルーへ視線遣れば納得しただろうかと様子伺い。してあ、と短い音が空気を揺らす。）星空観察会なのに、サザンクロス見つけられないね。あるかな。星多すぎない？（理不尽な文句も垂れた。）

最近海来る機会多くてベタつきも慣れてきたよね。うん、入り終わってるしなんならアンタはもう寝てるかもしれない時間だしね。（首を傾いで双眸細めるは冗句めいた口吻で。クロックスをぽいと足先だけで脱ぎ捨て本格的に砂浜へ身投げした真意はきっと長居の予感がしたから。）やっぱり子供の時あるあるだよね。怖かったの？不審者じゃないけど、付けられてるみたいな感覚だった？（共感はあれど驚嘆も然りで、本意を予想するのはその気持ちを経験しなかったゆえ。自信のないもしもの恋バナに対する返答が彼女の声色でなければ、不意を突かれたその臭い演技も相俟って「っ　げほっ！！」と咽るには十分で）ちょ、やめてよ…。（笑声混じる待ったは効力を特に有さないだろうが）それってさ、実際自分がほんとに言われたら嬉しいものなの？（殆どネタのようだったそれも使い古された男女の常套句であれば純粋な興味で真意は解明したいもの。口緩めて「ちなみに俺はたぶんおもしろくて言えない」は余計な一言だったか。）ははは、俺たち本物も見たことないのに偽物と区別つかないよね。あ、あれ十字に見えない？あ、でもこっちも…？（あれ、こっち、と指し示すも広大なキャンバスであれば彼女が指先を辿ることは可能かどうか。方位磁針無しで方角も分からねば南のアドバイスは無視し目を瞠り十字を探す。けれど月明かりも弱ければ無数に散らばる星々が一段と瞬こう。「もうあれってことにしない？」ロマンチックとは程遠い投げやりを、夜空に浮かぶ三日月が笑っているようにみえた。）