（すこやかな目覚めがブランチへの期待を駆り立てる。白のTシャツワンピはビッグシルエットでストレスフリー、アイボリーの麻パンツとのレイヤードスタイルで足捌きはたいそう軽やか。オレンジのバケットハットから覗く後ろ髪の外ハネはちょうどいい寝ぐせがそうさせた。ちいさなボディバッグに必要最低限のものだけを詰めれば肩は軽く、足許にポンプフューリーのゴツめサンダルをチョイスすれば徒歩23分の距離もつらくはないはず。所要時間29分の支度で部屋を出発すると電話からきっちり30分後にはロビーへ到着し、サイズの相性がよろしくなさそうなソファに寝転がるおおきな図体を見とめると、その背もたれに手をかけリラックスムードを笑った。）ばっちり。ちゃんと日焼け止めも塗ってきた。三国も塗る？（ボディバッグを二度叩いて持ってますよの主張。散歩への旅立ち前「あ」と思い出したような一音が抜ける。）「待った？」って言おうと思ってたのに。忘れちゃった。

稼働率70パーの吉沢亮かな。（起き抜けのまぶたを指すようにおのれの目許をとんと叩く。伸ばされた手を掴んだものの身長185cm超えの男を起こせる腕力は備えておらず、1秒持たず力尽きれば結局彼自身の力に委ねることになるだろう。肌を見て「日焼け痛くないタイプ？」と訊ね、サンダルの底を鳴らし一歩。）じゃ～～次こそ健気な三国をたのしみにしてよ。（電話越しの茶番計画は早々に次へと持ち越される。ときめく準備も必要なきゃブランチへの期待で胸がいっぱいだ。）いまのとこクロックマダムの口してるけどメニュー見たら迷っちゃうかも。三国は？アサイーボウルとか？（風を浴びながら何を注文するか相談するのどかな朝の散歩。蚤の市には「いいね～たのしそう」と反応するし「ここで迷子になってちゃんと帰れた？」と電話の話を持ち出したりもし、そして23分後の終着点。）わ、すごいよさげなお店じゃん……。おいしそう。絶対おいしいやつ。（まだメニューも見えてない距離のくせして期待にくちびるをきゅっと窄ませ、「行こ！」と歩幅をすこし広げた。）

あえての「三国に会いたくて早く来ちゃった」でキュンを狙ってく。ど？（いつぞやの即興コントを引き摺りわがままむすめを演じる言葉つきはノリよく軽快に、稼働率上昇を願って伸ばした指先が彼のまなじりをつよめに釣り上げる。「ほら、80パー」と笑った。）クロックムッシュがメイン、デザートにアサイーでどうだ。（名案だとばかりに告げたよくばりな落としどころは解決に程遠いばかりか、おのれの本能をくすぐるのも容易い。結果、）とか言ってわたしがアサイー食べたくなってきたな……。（掻き立てられた食欲を腹部に抱えて敗北。ぽんこつな地図を嘆くさまを見て「方向音痴なの？」と訊ねる口許からは堪え切れぬ笑いが落ち、こちらが広げた歩幅とあちらが広げた歩幅の差にもまた「縮まんないな～」としょうもなさに追加でもうひと笑い。メニューに注がれる視線は空腹をありありと呈し、悩む口はどうにも半開きだ。）やばいね、これ絶対おいしいよ。も～～初志貫徹だ。クロックマダムにする。　ね、三国ってシェアとか駄目なひと？大丈夫だったらワッフルちょうだい。ひとくち。（マダムとカフェラテのオーダーは無事完了。シェアが叶うかはともかく、テーブルが彩られるまでは「英語喋れるようになった？」から始まる雑談でも。）

はは、それじゃ日本帰るころにはぜ～～んぶバレてるんじゃない？いいじゃん、もっと好きなもん教えてよ。（一を知れば十を、十を知れば百を知りたくなる。更なる丸裸を望むことばはわがままむすめの延長線上、「猫100匹抱いた顔してる」とは詰まるところ千人切り顔の否定。）え～～どっちもやだよ。（まるで歩き疲れたこどもにするみたいな二択だ。「ほかにないの？」と適当なみっつめを求める調子はたのしげで、四字熟語を拾う鼻歌は店内だからちいさめに。）高1だけど6歳なんだね雪緒くんは。（それは6歳に対する会話だが、1秒後には元に戻る雑なフリ。）や、でもニュアンスでどうにかなるなら充分賢くない？　わたしはまったく。でもなんとかなってる。（悲しいかな試験結果と実践は伴わない。しかし意外とモノは買えるし意思疎通もできるからこそ、こうして注文した料理が手許にやってくるのだから人生捨てたもんじゃない。）うわあ　最高のビジュアル……。（クロックマダムに注がれるふたりぶんの視線。おのれのものは兎角、彼のものにこめられた意味を早々に察すれば手のひら突き出して「ちょい待ち、まず自分のね」と制止。ていねいにナイフを入れたらフォークをひと思いに突き立て、そしてひとくち。）うっ　　ま～～（感想はまるきり同じ。まんまるくさせた目は次第に細まり、額に手をあて「しあわせの味だ」と語るころにはもう完全に閉じていた。）

こう見えて気は長いんだよ、案外ね。（忠犬よろしく待てますよの意は威勢よく放たれた途端、「でも二輪なら16歳よ、ど？」と短縮図るせっかちさで翻るもんだから説得力も無に帰す。身長186cmのおこちゃま相手に「おねいさんは寛大だからね～」と宣言する一方、彼のおこないによってはやいのやいのと往生際悪く前言撤回を要求するかもしれない。）あ～～っ　というま。だね。（英語力をさておけば異国でひと月暮らした感想。月日が過ぎるのは早い。）にしたって環境に揉まれればもうちょい話せるようになると思ったな……。　や、もうやめやめ。料理がきたなら問題ナシ～～。（能力値を問うたのはおのれだというのに、ぱんと手をたたいて料理の話題へ早々切り替える。マダムのあじわいを堪能すればシンクロしたひとくちめの感想に笑うだろう。ほかの客の迷惑にならない程度に笑声を重ねて。）はは、with高代のブランチは3割増しでおいしく感じる？（もうひとくちを切り分けながら語るのは自己評価高めの冗談。ナイフの切先で割った黄身がたっぷり乗ったおいしいところが攫われていく。）あ゛っ　……取られた。（元々シェアの予定だから怒るわけない。感想の共有が叶えば「ね！」と笑い、期待値高めのパーツを奪われた仕返しに彼のワンプレートからもおいしそうな部分を見極めてフォークを差し向けた。）うっま。（食レポのセンスが皆無なふたりのテーブル。食後のアサイーまでも完食すればきちんと手を合わせる。）ごちそうさまでした。

ずる！（目をまんまるくし驚愕した自己負担額の差、凡そ30万。）いつでも呼んだら来てくれる権でとんとんじゃない？永年乗車券もそのまんま。（さながらタクシー扱いのよくばりな要求でフラットな関係を狙う。「やり残したことは？」と残り1ヶ月の予定を尋ねながらの「もうひと月じゃなくてまだひと月て考えよ」はたいそう前向きな解釈で、彼のため息をなかったことにしようと目論んだ。カフェラテひとくちをストローで啜るなか予想よりも2倍の割増具合に噎せかけ笑う。）それは光栄～～。（ご機嫌なくちはカフェラテを一気に飲み干し氷をからんと鳴らす。「うっまあ」とカリッカリのベーコンとチーズを存分に堪能したなら、破壊力満点の太陽のもと生き抜く準備は万端だ。）三国、塩タブレットあげる。（個包装のそれはボディバッグのポケットに常駐。アーチを描いて放り投げ、噛み砕くしょっぱさにきゅっと口先を窄めたら、肩口押されるがまま蚤の市に足を踏み入れる。店先にしゃがんで置物の正体を探るふたりの雑談もたのしげな喧騒の一部となれば、「沖縄でいうシーサーみたいな？ほしい？」と購入意思を問うのも市の空気に浮かされてのこと。会話の最中となりでアクセサリーの物色を始める自由さで花のピアスを手に取った。）お祭りみたいな空気ってさ～～ついつい買いたくならん？あれもこれもって。それであとでちょっと後悔しちゃう。（語られるお祭りあるあるはおのれの主観的なもの。オレンジと白の2色の花をそれぞれ耳たぶにあてて聞く。）どっちが似合う？

（断固拒否を想定していたから、範囲はともかくOKを得ると「いいんだ」とやさしさに笑う。）2回に1回はわたしが運転して、うしろに三国のっけてあげる。一緒に免許取り行こ。（永年アッシーに見合うお返しに運転手を買って出れば、細まるひとみは16歳になったあとのたのしみを物語る。「じゃあ全部やりきんなきゃね」とぎゅうぎゅう詰めのスケジュールを提案し、そのうちのひとつやふたつにおのれの名があることも期待しておいた。）わっ　かる。あとで考えると「これなんで買ったんだっけ？」て思うもんばっか。でも思い出だからさ～～捨てらんないじゃん……で、どんどんものは増えていく、みたいな？（あっちもこっちもと物色しながらの同意だから信憑性は高め。どれにしようかなと指先がさまようなか手首に通されたバングルに「かわい」と笑えば、それをじゃらんと鳴らす。）はは、そんな迷う？　うん、じゃあ白にする。（かわりばんこに宛てがわれる最中マネキンのようにじっとしていた。急かすことなく視線だけをさまよわせ、彼の最終決断を聞けばそれに従ってピアスは白、ついでに手首に通したまんまのバングルも購入決定。今度は彼のどっちを聞く番だ。）キリンがいいな。（どちらにしようかな、のように指先がゾウとキリンの前を行き来すれば最終的に片方のへんてこをつつく。バングルの音ひとつで蚤の市の喧騒があざやかになるみたいに捨てられないものはまた増えていく。別荘までの徒歩23分を倍にする寄り道。帰りこそはおんなじ歩幅で、むしろ抜かしてやろうと意気込んだ。）