（PM11:14、早めの夕食終えた男の腹が小さく鳴いた。普段ならベッドへ潜るところだけれど、未だ冴えた頭では予告めいた共犯者を巡らせ僅か弾んだ指でラインを送信。リビングへ移動し腰降ろせば机上に南国らしいポップなデザインのシュリンプ味限定カップ麺を鎮座させた。待ち人が現れたなら黒髪が其方へ揺れる。）こんばんは。共犯の誘いなんだけど、お腹は空いてる？……空いてなくても俺が目の前で食べてたらアンタはお腹空いたって言いだしそうだし共犯になれる気がするよ。（失礼ともとれる勝手な予想を口にし免罪符として「そうならなくても付き合って。」と半ば強引にお誘い。せっかくの初海外麺の感想は分かち合いたいところだろう。お湯を入れんと席を立ち、ラインの通り彼女がカップ麺を持ってきてくれていたなら「それはおいしいやつ？」と問いかけるし、どちらにせよ手中のポップなパッケージを掲げ「これは？」と寄せる眉根は、己の購入したカップ麺の味への不安がありありと滲む。）

（言外の是を感じ取れば小さく胸をなでおろし同意の笑声が唇を割る。）もうあと1時間以内に寝るってわかってるのについ我慢できなくて食べちゃう時あるよね。ソーメンとか罪悪感ゼロでおすすめだよ。（今から食す罪悪感100％を差し置いて己の偶の作戦をおすすめ。わかんないやつと突き出されたカップ麺を眼鏡の柄を掴んで凝視するも独特のフォントと習っていない筆記体ではお手上げだと首を振る。）でもパイナップルの絵描いてるからやばい気しない？酢豚的な嫌さ、あり得るよね…。これ買ったの勇気いりすぎでしょ。（既に何個も食している彼女だからこその挑戦だとは分かれども冒険心の薄い男ではせぬチャレンジにある意味感嘆。今度は己のカップ麺を見せては）……ええ…エビならおいしいかなと思って買ったのにアンタがそんなこと言うからもっと不安になってきたよ……。でも海外って食文化違いすぎて変なのあるもんね…。（安心感を得ようとしたが二人分の不安が膨らむばかりではどうしようもないと眉尻を下げる。蓋を開け、日本程小分けになっていない雑多に混ざった具材やスープの素が更に不安を煽ってちらと彼女を見遣る。）これ、夜中ラーメンの背徳感で誘ってるのにまずくて結局全然食べないパターンあると思うと笑えてきたな。（雑多な素の袋を破いて麺に掛けながら、まさかの未来を描いてどうしようもなさ気に笑った。）

そんなスペシャルトッピングソーメン、昼にも食べたことないよ俺。いつもそんなトッピングしてるの？（なんならシンプルな素麺ばかりの高橋家では考えられぬ程のそれは最早深夜食関係なしの興味。）絶対入ってるね。でも逆に乾燥パイン入ってなかったらそれはそれでがっかりするよね、もう。（不安募る中で新たに生まれた妙な期待が綯交ぜだ。小さな楽しみ一つ付随させたところで、無理くりにおいしいと思わせる口吻に乗る舌先は饒舌で「エビがマズかったって実績人生でないもんね」と二人での祀り上げを完了すれば多少不安は除けたか。）そうそう、あれたまにすごい変なもの巻かれてるの見ない？絶対鉄火巻きとかの方がおいしいと思うもんね。（同意示したのち、突如始まる睨めっこに口元は緩み、連続していた不安顔は少しずつ蓄積した"大丈夫"の努力によって軽減されてゆく。病は気からならぬ、美味しさも気から、だ。）ええ…本気…？なんでそうガッツあるのかな。ほんとに無理だったらポテトでも買いに行こーよ。（どうしようもない笑みが少々青い顔に早変わり。深夜食の共犯を意味あるものにしたい気持ちだけは同じだから新たな提案はするけれど。乾燥パイン入ってる？と覗き込んだ後、几帳面にセットされたアラームに意外な一面を見たと半分揶揄を落としたところで運命の鐘が鳴る。）あ、俺のいい匂いするよ。おいしそーじゃない？（蓋を開けると海老出汁の香りが鼻腔もお腹も擽った。期待上々の滑り出しと顔は喜色に溢れよう。）

（高橋目線で題を付けるならば“田舎に帰った時におばあちゃんが作ってくれる素麺”の豪華さであるから、彼女と別の意味で目を丸く瞬く驚愕、温泉卵なんて「考えたこともないけど、おいしそうだね」を発せばこの件に同意は中々難問だろう。信条を青く語る口ぶりに）そのモットーはいいことだけど、俺は合わないもの食べるとお腹壊しそーだよ…常備薬ある？…ありそー。（今日までの彼女の印象の一つは心配性だから、予想繰り出す自問自答の声音には笑いが滲む。それでも此方が呈した悪魔的な誘いは、けれど彼女が常時乗り気であれば悪魔でもなくなるだろうから「ラーメン食べたあとにマックは女子的にいーの？大食いだよ」と前述と異なる悪魔的な揶揄飛ばす小食男。湯前に判断仰がれたブツには彼女の数ミリの期待を打ち砕くよう首を横振りとする判決：パイン。そんな死刑宣告擬きが寄せられ湯気を手で仰げばこれは案外）…あ、ほんとだ。匂いは全然。おいしそーだね。いけるんじゃない？（鼻腔から感じる希望の光に口端歪めて薄笑い。「いただきます」と手を合わせて一先ず自身の海老ラーメンから恐る恐る啜ってみる。）……あ、おいしい…。ラーメン食べてこんなほっとすることってないよ…。まあちょっと味濃いけど。（マイナスからプラスに転じてしまえば多少のマイナス面には目を瞑ろう。あからさまな安堵の傍ら、どう？と横見れば乾燥解かれてふやけたパインが目に入った。）

あ、くさいやつだ。（予想通り彼女に常備されている薬に失礼な所感零したのち心配賜れば「うん、無理だったら食べてね」とはレストランでよく見る男女逆転の様相。その台詞に別段羞恥孕まぬなら眼鏡奥の瞳が撓ろう。優々繰り出されるセーフ持論は、けれど何故か「わかる」と首肯を落としてしまって）俺もマスタードの方が好きだな。ナゲットなら2人で半分にもできそーだしね。（しかも乗り気になってしまうから恐るべしマックだ。一度味わってしまえば空腹の胃はもっとと強請るのでずるずると手は箸を止めない。）うん。むしろしすぎだよってくらい。まずそんな不安あるラーメン屋行かないもんね。ガリガリくんの謎の味とかだとゲテモノの不安感で食べたこともあるけどさ。（よく知っていたとて此方はそれを売りにした商品だから意味が違うけれど。「ナポリタンはむりだった…」と付け足す眉間は想起して皺がのさばった。さて大本命の実食は、さながら大御所の食レポ感さえ漂う暫しの沈黙後、それ破る美味の感想にへぇと漏らす息は次ぐ曖昧さにすぐさま笑声に形を変える。）ははは、どっち？…………まあ、パイナップルがあんまりってことはわかったよ。（口ほどに物をいう声音と双眸捉えれぬ反応でやっぱりダメかと困ったように笑んだけれど、然して興味は止められようもなく）俺も食べてみていい？酢豚のパインとどっちがましだった？（実食の前にもう少し情報収集。「俺のも食べる？」と交換叶えば先ずは曖昧だったスープから一口いこう。）

（掌返しの裏切りは無理いった自覚はあれど「残さない信条はその場にいる人の分も食べてだよ」と揶揄い半分に行方を委ねたものの、案外悪くなかったラーメンではその心配もなかろう。ナゲット同様もしも話は未来へ飛んだ。けれど何故か止まらぬ食への話題は食べている時あるあるかもしれない。）わかる。あれは素直なヒット商品だったね。レモンスカッシュもあっさりしておいしーよ。（ナポリタンの苦い記憶から美味しさの波動が流れては自然顔は綻ぼう。依然微妙な食レポはテレビならマイナスだが対リアルでは正直すぎる感想に心構えができて丁度良い。追加情報に少し箸が勇気半減と惑っている間、高橋お墨付きのラーメン啜る彼女を一先ず捉えた。）ね、超エビでしょ。濃すぎな気がするけどおいしーよね。アタリだ。（超の部分が濃いを表していようともまずまずの合格点賜れば意を決しスープから一口。）あ、よかったいける。（安堵の息吐き続いて細麺を啜り）うん、おいしいね。（酸味と塩味の麺を咀嚼の間、不安と期待要素のパインを探し出しつんと弄りながら漸くそれのみを口に入れた。）………うん。……うん。言ってる意味わかった……。早く俺のラーメン返して…。（箸置き、右斜め上をレンズ越しに見てようく味わい、出した結論に渋い顔。口直しと海老ラーメンを返してもらえたなら中盤以降は「濃い…」と甲殻類特有の濃さと戦いつつも完食となるだろう。さて彼女の方は信条とどう折り合いを付けるのかだが、万が一の時の一言が必要なら）パインだけは残してもいーよ。俺以外見てないから。