（打ち上げの宵、白くけぶる一角の中にひときわ賑やかそうな存在を見つけたら近付く爪先は早かった。手に乗せるのはBBQには凡そ不釣り合いな真っ白い陶器の皿。空いているほうの指先でその背中をノックしたら）食べてる？見て、俺の靴紐のセンスやばくない？（そのまま指先で指し示すのは自分の爪先。ビッカビッカとけばけばしく存在を主張するLEDの靴紐がスタンスミスに絡まって、かくれんぼに興じたら秒で死ぬレベルの目立ちたがりを呈している。）この靴紐あまったんだけどオソロしない？するでしょ。（いざ紐をつけてみたら思った100倍の羞恥心を呼ぶが然し使わないという手を端から却下するから、拳5週分くらいのけばけばLEDをブレスレット宛ら手首に光らせて問い掛ける。ついでに）目ざといきっくんは俺の手にある皿が何か気になってる筈。（ツッコミどころ満載の逆手首には白いチーフがかけられた角皿。どっち先にしようかなと、橘鷹とやりたいことをたった一つに到底絞れなくてちゃんぽん気味の現今だった。）

夜中にじじばばが散歩してるじゃん、こういうたすきかけて。そんな感じだろ？マジで恥ずかしいけど俺は明日からこれで登校するよ。（見せびらかした癖に笑われたら笑われたでおまえのせいと言いたげな睥睨は然して直ぐに瓦解し、釣られて屈めば爪先の紐を摘み上げて。「さっすが！」と思い立ったが吉日の背中を追従する視線は然し駆け出さんとする足取りを引き止める右手の皿へスライド。）だっはっは、ごめんね俺がちゃんぽんしたばっかりにきっくんの好奇心センサーを出刃包丁でぶっ刺しちゃって…。（態とらしく伏せた睫毛に憂いを乗せてみても胡散臭さ100％の所業にしか映じられないだろうか。斯くして「ドラムロールください」と強請る唇は飽く迄勿体ぶる心持ちで、「じゃーん！」と自らシンバルの音を盛大に打ち鳴らしたら指先が真っ白いチーフ摘んで、横着にも出鱈目方向に放り投げた。）昨日の昼に食べた硬焼きプリンが超美味しくでお持ち帰りしちゃったんだけど、きっくんの庶民舌がこのおいしさをわかるかどうか怪しいなと思って、それで。（無礼千万な印象はけれど過日を想起したら説得力を持つか。白い更に乗っかるのは全く同じかたちをしたまあるい硬焼きプリン。一見どちらもがカラメルのとろける様相を呈するが然し）かたっぽは俺が作ったやつ、かたっぽはお持ち帰りしたやつ。どっちがどっちか当ててみて。（BBQ会場に態々不釣り合いなデザートを持ち込んだ理由は言うに及ばず、右左どちらを選ぶかは橘鷹に委ねてスプーンをへたっぴなマジシャンみたいに翻した。）

でもさあきっくんはす～～ぐ迷子になりそうだからある意味正しい役割果たしそうだよ、この紐。（飛んで火に入る夏の虫を迎え入れて耐え切れず破顔一笑、「方向音痴だと思ってたけどあたり？はずれ？」何かと先行するイメージであれこれ判じる唇が短い夏で得た橘鷹の情報を補うように問い掛ける。時折つっかかるドラムロールに感興を孕んだ指先から軈てお目見えするプリンは日常の環に返ったのちお取り寄せ会を催す迄我慢しきらなかった早漏ぶりが露呈するが、――そうそう、その顔が見たかった。）そう！俺って結構器用なのかもって思った、これ作ってるとき。いい旦那なるかもしんない。（みなまで言わぬ「どう？」は目は口ほどに物を言うを如実に体現していることだろう。月明かりに微睡むスプーンを片手に「人生変えるプリンがもし俺の手作りの方だったらきっくんは俺なしじゃ生きてゆけないってことに…？」と自意識過剰甚だしい台詞とて滑らかに唇を割り出るのは今宵楽しいハイテンションの所為。斯くしてその唇がゆっくりたまご色を飲み込む頃合い。シン―――………ともったいぶった沈黙はミリオネアのみのもんだをゆうに飛び越える長さを呈して、両方を吟味しきったタイミングを見計らって。）どっちがどっちかわかった？（一匙湧き出た悪戯心――例えばプリンにわさびを仕込むとかタバスコ一瓶ぶちこむとか――はなんとか押し込んだおかげで両方のプリンに甘みと言う点では相違ないだろうが果たして。味覚が突出しているのかいないのか味覚音痴っぽいと印象づけた男が選ぶ解答はどちらか。）

今俺のフリフリエプロン想像して萌えた？（絵文字で表するなら汗っかきの苦笑い。コミカルな動きで「作ってきた身でなんだけどきっくんの答えが戦々恐々だよ」と未来を決める一手が目の前に差し出されている事へ気付いて大仰に肩を掻き抱くも無論冗句の範疇であり何なら冗句でなくとも構いやしない軽率さだった。神妙な面持ちも悩む姿もまるっと感興深く眺める様相は愉悦を抑え込みきらない瞳で明白だが、斯くして思惟の末の答えてに「えっ」と頓狂な声が溢れたのは手に汗握った末の顛末としてはあまりにお粗末の。）なんでわかったの！？（閃き煌めき自身満々な表情を前に「え～～～っ」と不満たらしい物申しは相手が悪かったか否己が悪かったかそのどちらもか、まあ結末に重きを置くつもりではないのが構わないがそれにしても。）どっちも俺が作ったプリンなんだよね。そいえば戻ったらお取り寄せ会したいって言ってたの思い出して、はたしてきっくんはうまいプリン食ってもちゃんと解んのかな？って疑問だったとこからこの悪戯思いついたんだだけど。（なんのことはないただの絡みたがりを明け透けに吐露したらその指先からスプーンを奪って左右両方一口ずつ。まあ味はきっと普通のプリンだろうがあっさりと正解を弾き出されてしまえば「俺の修行が足りなかった…」は悔しそうというよりは今度こそのリベンジを語る物申し。）プッチンプリンと超高級プリンの食べ分け出来なそうな俺らだけどね、東京帰ったら一緒に行きたいとこは見つけた。今日はそのお誘いができれば満点の日。（詮ずるところちょっかいかけたがりの胸裡へ付加価値として「帰ったら」の誘いは曰く超絶バズってるらしいプリン屋。どうせなら打ち上げの夜遠く離れた地で未来への種蒔きをって伸ばした食指の行方は目の前の男だけが握ってる。）