（さんざ満喫したバカンス明けの新学期は色褪せる日常どころか次なるイベントへ向けた忙しなさ。目下文化祭へ向け備品チェックに買い出しに整頓にと与えられた責務を恙無く熟していたが卒然と呼び止められれば一瞥をくれ、）あたしのピアスで輪投げするつもり？（軽口叩く程度には親密を抱く少年へ、フープピアスの垂れ下がる耳朶を覆ったら大仰に警戒する素振り。）それどういう意味？手先の器用さで言ってるなら失礼しちゃうけど当たってる。高橋くんこそ器用そうだよ。（態とらしい睥睨はけれど隣に座り込む所作で快諾と替え、スマホに打ち込む「輪投げ　手作り」のワード。SOSを掲げた割に着々と出来上がるさまを映じながら「これ立てたらよくない？」と備品の山からラップの芯を取り出して、カラーテープを巻いて装飾したらそれらしく見える筈と格闘開始。斯くして視線を感じたら小首を傾げたのも刹那、）やっぱり……！？もう恥ずかしくって誰にも言ってないけどね、ついこないだまで101匹わんちゃんみたいだったよ。（潜めた声は容易い絶望に塗れて鼻先を擦り過日の醜態を共有。うえ～ってと渋面したら「超大爆笑しそうだからなあ…」とはまじまじと眺めた末暴落した高橋の株を吐露。）

いっ　たぁ…。ちょっとまって、そう言われたらもうこのピアス怖くてつけれないけど…！？（ご丁寧なジェスチャーする指先をぎゅっと握り込んだら同じく真っ青の風貌で告げる恨み辛み。「高橋くんのピアスもぎゅって握って潰しちゃおうかな…」とみみっちい仕返しも人差し指と親指でプチっと潰す仕草を添えて。）真面目が服を着て歩いているあたしになんてことを。（どの口がと宣う台詞をさもそれらしく頷いて見せればまあ不器用なりの共同作業は形になっていくか。「わかる、円形だからなあ…。ガムテープに切り込み入れたら良いって書いてる。見栄えマシになるかな？」とGoogle様に頼りきり、カーブに合わせて切り込みを入れて貼り付けたら手作り感満載だが文化祭マジックということでひとつ。）ほんと？大丈夫？（少しだけ顔寄せたら鼻先の肌色へ確認を請いながら単純な胸裡はあっさりとその言葉を信じるか、ドンドコ上がるハードルへ「あなたそいうとこあるよね」は過日とラインの印象を照らし合わせてきっと大袈裟な評で無いはずとしれ～っと視線を手向けるが、ポケットからスマホ取り出してサマリンで過ごしたカメラロールの内部屋で撮ったと思しき一枚をタップ。）どう？これで笑われなかったらあたしだけ恥ずかしいんだけど。（どっちにしろ大火傷も覚悟の自棄ぱっち。スマホには鼻先だけ綺麗に皮がズルムケてつるんと白い逆ピエロみたいな小田が不機嫌な表情で映っている筈。）

どっちにしろ流血沙汰。明日からあたしが小粒のピアスしてきたらそれは高橋くんのせいだからね。背後には気をつけな。（悪役宜しい捨て台詞は新学期早々に行われた席替えを鑑みてのもの。「華やかって？やだ褒めすぎ。」といけしゃあしゃあ宣うのは決して称賛でないと理解した上での馬耳東風。出来上がりつつある輪投げは辛うじてGOが出るかどうかの出来栄えに違いないが、）ね、これ完成したら先にやってみよ。あたしのピアス使う？（ラップの芯をこつんこつんと床に叩きながらの軽口。輪投げの輪っかもカラーテープで画用紙を縞模様に巻いていけばそれらしくなるかと赤いテープを渡しながら。鸚鵡返しみたいな揶揄へ鼻面寄せたむくれ顔は耳朶打つ笑声により助長される確定未来、）ねえー！ぜったい笑うと思った！（詰る言葉じゃ足らず破顔する頬をみょんと抓る指先は力加減を知らず、半分拗ねた物申しを名残らせた侭制服から伸びた足をやってらんねえってばかりに投げ出した。）朝起きてこんなんなってて、よりによってこの日友達と会う日だったから絶望してる、って感じの顔。泣きっ面。（ぶつ切り単語は悲惨だった過日と想起して、けれどもすっかり元の風采を戻しつつある鼻先を掻けば）ほんとに直ってよかったよ。文化祭までなおってなかったらあたし一人でヒキってたし。楽しみなのに。高橋くん浴衣着るよね？（持ってる？与太話はきっちり働く作業の傍ら、とっ散らかる話題は目先のイベントへ向けて。）

サマリンでは結構他のピアスもつけてたんだけどな。秋だしイメチェンしちゃおかな。（ちゃちな変身願望を唇に乗せたら「消しカス飛ばすかも」は流血から大分レベル下げた3歳時の悪戯を目論見。着々と出来上がりつつある輪投げの完成図も残すところ仕上げといったところでその指摘へ噴き出せば）ふ　っは、高橋くんてさほんとうに他人をよく見てるよね。大体聞かれること図星なんだもん。恥ずかしいよりいつも嬉しいが来ちゃう。（過日ラインで指摘されたいくつかを想起したら感心混じりの呼気を打ち、「いいよ、チャレンジャー募ってがっぽり稼ご。」と悪徳業者宛らの笑みを浮かばせたらピアスを外して隣に掲げこのくらいだよとサイズの調整を助力。斯くしてひしゃげた声が耳朶打ち漸く溜飲を下げたら促される侭指先を放してからふんと鼻を鳴らす。非難めいた台詞はその視線毎素知らぬふりして）男の子って着ても甚平くらいだし、あたしたちには花島様がついてるからレンタルもしてくれそうな気がするよね。高橋くん、大人っぽいから渋めの浴衣とかでもきっと似合うよ。（落ち着き払った外見を映じてからの評は首肯ひとつで説得力を増すか、続く言葉にはもちろんと待ちきれぬ風采で笑った。）今年買ったばっかだけど夏に出番なかったからね、超うきうき。可愛くてびっくりしちゃうかも。ないか。　　着付けも出来るよ、あんまり複雑な帯結びは出来ないけど…。（過日揶揄された休憩中の一幕を想像したら「伊鶴の浴衣何色だとおもう？あたしねえ紺色。」と同じく俎上に載った級友の姿を浮かばて。）

そうかな？顔怖いとか表情に出ないとか逆に言われるから意外だったかも。サマリンで一皮むけたかな。（自分の頬をぺたぺたと触って不可思議な表情浮かばせるもそれが悪くない変化なら頓着せず、関心は軈て渡された三つの黄色い輪。）良い点取ったほうがわがまま言えるってやつ？あたしは決まってる。鶏白湯奢って。（尚早過ぎる勝利宣言を手向ければ普通に外れた一投目を「ぷぷノーコン」と揶揄する無鉄砲さだが次いで勢いよく狙い定めた割っかが誰ぞのクラスメイトの足元へ転がれば盛大なブーメランを食らって撃沈する姿もある筈。二投目を投げる高橋を横目に見遣るや脇をつんと擽るスポーツマンシップ丸無視の妨害行為だってお手の物。）男の子は色が選べないからなあ。でもちょっと掠れた手刷毛の模様とか、ちょっとえんじ色入ってるのとか。似合いそう。（隣合う姿を上から下まで映じてから「やっぱ似合うよ」と太鼓判。）うん、店番とかどこかで顔合わせるときあるでしょ。超褒め言葉用意しといてくれていいよ。おほほ。（ごっちゃになった末の笑声は北村の真似っこで「答え合わせしようね」は未来の少女を賭け対象として。）ほんとは赤が好きなんだけど鏡見て「え？極妻？」って思ったから泣く泣くやめたの。当日のお楽しみしてようっと。それまでたくさん「小田の浴衣どんなのかな」てワクワクしててね。（自意識過剰極まりない台詞だって今を楽しむテンションの末路。輪投げ対決の結果の行方はどうあれいずれの鶏白湯の旅を待ち侘び、日常の幕間をもう暫くだけ続けさせて。）