（―――ん、と引かれた意識の方向に視線と声を投げ打った放課後。）清水。席替えしてみて一番前の景色はどう？俺は左半身だけ日焼けしそうっていうのが自分の席の感想。後は快適。（会話を自分のペースに持込むのは口を衝いて飛出る「手伝いは面倒臭いよ」って性根素直な感想と席が離れた彼女との他愛無い雑談を興じたがる本音とを綯交ぜにして、頑固な爪先を地面に縫いつけ傍寄ろうとはしなかったけど。こっちにおいで染みた彼女の誘い文句が数度投擲されれば諦めない姿勢に絆されて前席の椅子に腰を下ろすんだろう。）人を見る目あるね、おまえ。うちは酒屋だよ。　…でも（前衛的な桜餅カラーのポップを眺めて首を捻る男は正直言って役には立たないのが事実だってことを今にきっと彼女は知ることになる。）清水の担当イカ焼きだっけ？画用紙の隙間に、屋台にちなんだものを折紙でも貼っ付けてみる？（棒イカゲームに影響された当てずっぽうを捏ねて唇が笑う。手当たり次第に引っこ抜いた折紙を丁寧な手つきで角と角を折る。　　不器用が邪魔をして角と角はズレていた。）言った言った。清水はマリリンさんのオムレツ恋しくなってる？

それはいい方向でのヤッバイな？映画館だと前過ぎると首痛いって嫌がる人も居るって聞くけど。（全席を満喫しているんだ？と解釈の方向性を探るみたいに首を捻る。）いいよ。サマリンで焼けきった感じがあるし、なんだかんだで動いてないくせ外には出てたから、俺の方が清水より焼けてる気がする。おまえは？どのくらい焼けた。（ほらと対面上で差出した腕は彼女のものと比較させる為のもの。純粋な疑問が投じられれば、その問い自体は否だった。「さっき、下手くそだからって切り絵班を追い出されて俺拗ねてんの」工作事に不得手な力量故、本番だけが楽しみだなんてそういう立場だった。）やれば出来る筈なのに本領発揮出来ないんだよね。不思議。まずここが鬼門、鶴の羽の先がとんがらない。（角と角が合わない羽の先端を無理に尖らせようと指先で摘まめば羽が捩れる。クチバシがうつくしく尖らない以前のかんばしくない進捗状況察知しては、）出来栄えの雲行き怪しいな。清水、手本見せてよ。おまえの器用さはどう？（完成までの工程にサボリを挟んで赤い鶴の行方を見守る。此方は凄いブスな鶴が出来そうな気配がして、こんなつもりじゃ顔だ。）っは、発想が妙で笑った。なんだそれ。それじゃ不定期に通われてるサマリン島は花島にとっての愛人？

清水って授業中は携帯どこに放り込んでるの。机の中？ポケット？おまえがうたたねしそうになってたらスタ爆してやろうと思った。（要領の良さを自負する男は教師に見つからずに悪戯を仕掛けられる自信を把持した笑みを深める。）映画でパッとおもい浮かんだのは『コードネームUNCLE』っていうスパイ映画。夏らしいとか秋らしいとかそういう感性持って聞いてくるあたり、清水は女子らしいね。（自分には不向きな癖に掲げる好みはドシンプルなアクション映画だったなんて滑稽な話。「どんな映画が好きなの？おまえは」「立夏だから夏？」あまりにも捻りのない質問が口を衝いて出るけれど、からりと晴れた青空の権化みたいな彼女を見ていればばか程まっすぐな思考だって本気で生まれた。）浴衣着ろって、それ装飾班のやつらにも言われた。男の浴衣姿より女子の浴衣姿の方がよっぽど価値あるだろうから、ひとまず清水も着たらいいと思うよ。着ないの？（着る選択肢を厭う気はないけれど、目に潤いがあるのは野郎どものそれよりは断然彼女らの和装。彼女の装いの如何には当日の楽しみに取っておくとして。）俺の思考がばかになってんならそれ絶対に清水のせいだ。おまえと一緒にいると脳直で会話しちゃうんだよね。妙な相乗効果でてるじゃん、俺ら。（軽口は親しみを込めた情の表れ。見栄えする赤い鶴の羽先に突かれた頬を押さえて大袈裟に痛がってやれ。）鶴ってさ、仕上げに顔描いたりするっけ？（園児時代の記憶掘返して、たどたどしい手付が握るマッキーで鶴に瞳を入れれば一層ブスが加速した）