（適当に敷いた新聞紙の上で背中をまるめているすがたはだいぶん不格好である。部でいちばんうまいわけじゃないが書道部の肩書が時に重宝されるなら、看板にどでかく『縁日』を書くべく先ずは練習をと、風のよく通る窓際の一角で真面目な顔して適当な紙に落書き中。汚れることを見越したTシャツはペンキだらけ、なぜだかそのままのスカートはそろそろ危ないかもしれない。下書きを二種類書いたところで「あ」とちょうど近くにいた級友を呼び止めようか。）ね、いま1分ちょうだい。これどっちがいいと思う？（品評タイムを1分求めたら目の前に突き出す二択。お手本のような『縁日』とすこし崩した『縁日』。ペンキだから墨とはまた違う主張のつよさを持っている。）そっちなにしてた？（手に持っていた二枚を新聞紙の上に置いたらそんな世間話も。級友の近況報告を求めた。）

ひえ、ぼったくり。（ペンキで薄汚れた5本指を広げて「もうひと声」と半額まで値切らん心意気。級友とカラオケチェーンを比較する「まねきねこは良心的なのに」は価格交渉にはまったくの役立たずで、新聞紙にへのへのもへじを書いていじけた。）こう見えて案外うまいんだよ。じゃあこっちにしよ～～っと。（謙遜するでもなく素直に胸張ったら、彼の差したほうを「わたしもこっちのが気に入ってた」と採用決定し品評会は無事終了。）ニンテンドースイッチは用意できなかったか～～　　え。これ三国が作ったの？（理想ひとつ叶えるのに予算の大半が飛びそうな景品は夢のまま、彼の指差すほうへ視線を向ける。目をまんまるくし、しばたく回数も多め。さまざまな雑貨はチープであれど、想像よりもはるかに縁日にあって違和感なかった。）いまね、意外とくすぐれそうでびっくりしてる……みっつめの部活に手芸部を考えてたり？（彼の指におさまる指輪を差せば「こどものころ好きだったよこういうの」と懐かしさに笑う。揺れるキーホルダーを目で追えば、正座から足を投げ出しすっかり休憩の体勢。）夏の風物詩。満喫できそだね。（過日のよるの話題を拾えば、出し物『縁日』の偶然へ。）

やんちゃボーイは？（拭われた人差し指がくいくいと宙を引っ掻いてやんちゃにお誘い。カラフルに色づくTシャツを「見ようによってはおしゃれじゃん？」と見せびらかすのは仲間を増やすプレゼンで、スカートにはもうあかいインクがぽつんと跳ねていた。）あはは、やった。褒められた。（だらり緩んだ口許はうれしげに笑う。）三国もなんか書いてみる？うまくいったら本番で使お。（新聞紙の上に散らばる道具たちを指差し、さあさあとふたりでのお絵かきを期待。字でも絵でもと語る筆先は新聞紙に金魚の輪郭を描く。）それは欲しい。いちばん好きなアトラクションなに？ちなみにわたしはシンドバッド。（テーマ曲をなぞるくちは上機嫌。16歳のこころを擽る指輪を前に「いる。とっておきのをちょうだい」と目を瞑り、差し出す両手のひらを結んで開いて色えらびを彼に委ねた。教室の片隅を休憩ゾーンに変えたらおしゃべりへ腰を据えよう。）実行委員から徐々にすり寄ってこ。目指せ打ち上げ花火3000発～～　は、さすがに夢見すぎか。300発で。（1桁減らしてもだいぶん大きめなスケールの実現は到底不可能だが、高校に入ってはじめての文化祭は夢見るだけ自由だ。いつからか待ち侘びた誘いに笑って、）あした。（とは急なスケジューリング。）並べちゃえばどっちも関係なくなるよ、遊びも行くし誕生日もすんの。ど？（おんなじように笑ってから気づく。おのれの誕生日をねだる言葉つきにハッとすれば「わがままむすめか？」と自問した。）

こういうのは思いきし楽しむが吉だよ、容赦ないくらいがちょうどいいの。（ほどほどを好むたちも時に枷は外れるもので「シャワー浴びれるならアリなの？」はやんちゃの許容範囲を探る。たとえばペンキで水鉄砲、おそろの自作T、フェイスペイントのまねごと。おふざけを指折り数えたくちは笑った。）う～～～ん　………金魚鉢から、（眉間にしわよせ悩めば指先が金魚鉢から波線をたどって、）海に金魚が逃げたところ。ファイナルアンサー。（およげたいやきくんから着想を得た回答は四流だ。）お、ピンキーリング！しあわせが逃げないやつだ。（手のひらへの落下を待ち侘びた結んで開いても小指にオレンジの花を咲かせるころにはぴたりと静止。おとなしく嵌ったライムグリーンに「かわい。新進気鋭のアクセ職人の登場だ、ありがと」と称賛を送れば、16歳のこころを存分に擽ったそれを満足げに眺めよう。）はは、後夜祭期待しとこ。（夢見るよるに300発の花火が上がるのなら、たとえばそのうち100発が級友の家紋を描いていても拍手喝采だろう。凡そ24時間後の約束がすんなり決まれば「即決まっちゃった」と笑ってしまった。）完璧。スタバとミスドは究極の選択だけど　ん～～～　スタバ……かな……。（ふたつ並べたうちのひとつを選んで、しかし期間限定の魅惑はまだまだおのれを迷わせる。）意外てなんだ意外って！　そうだよ謙虚だから三国に「こいつ誕生日すんごいねだってくるやつだな」って思われてたらどうしよ～～～って思ったんだよ。（すこしの大根演技は相変わらずで笑えた。）

はは、影響されちゃった？　やんちゃボーイ誕生おめでと。（ともに過ごした夏は彼に枷を外させるに充分な時間だったから、並び連ねたおあそびに付き合ってくれそうな気軽さに笑う。マジック手に取るさまに「なに描く？」とおのれの頬を二度三度つついてペイントをねだる傍ら、自らも筆を構えておんなじように施す準備。）まっ　じか～～～ちなみに1級はどんな問題が？（下がる眉尻を指先で押し上げ「難易度高すぎ」と不満げなくちが文句を垂れた。）たぶん入るよ中指も……。（冗句への攻撃はしかし彼の先手を打った後退りによって空振りに終わり、早々に仕返しを諦めてしまえば「ネイビーに白椿。三国は？」を契機に浴衣の与太話へ移ってしまおうか。）栗の前には人はみな無力だからね、スタバに決～～めた。アールグレイはまた来年。（明日になるまでもふたつを乗せた天秤はぐらぐらと揺れることがあるやもしれないが、しかし今はこれと決め「焼き栗モンブランもあるって」と期間限定フードへの期待も上乗せ。待ち合わせに対する「チャイム鳴り終わったら0.1秒で教室出よ」は凡そ24時間後に控えた約束をたいそう楽しみにしている証拠だ。）え～～ほんと？そうだなあ、（考えてみるのは最上級のわがままというやつ。ああでもないこうでもないと思案の末、出した結論は、）三国、お手本ちょうだい。誕生日の最上級のわがまま言ってみて。（結局のところ出なかったから、試しに彼のを聞いてみようと思った。彼を倣ったひとこと「大丈夫だよいくらねだられても」のおまけ付き。）

いや～～～な予感。（額をなぞる感覚は絵というより字のそれ。頬まで差し出し鏡代わりに近くの窓を覗けば、キン肉マンの顕現を目撃した。）待て待て。これフェイスペイントっていう？　まあいっかあ、（不満げなくちを尖らせたのは一瞬、手にしたマジックは彼の前髪を避けて「中」。ほらお揃いと言わんばかりの笑みを携えた見様見真似の中国拳法は書いた文字を物語り、ついでに猫のヒゲも三本ずつ。）難易度たっか！合格率何パー？ジャンプはあえての巻末コメントから。（ファイナルアンサーTAKE2の行方はいかに。「小物はオレンジにしよ」とイメージもそう違いないことを告げれば、続く与太話への「ネイビーならおそろい」もひとつの案に過ぎない。すこし遅れた誕生日への楽しさを倍増さすことばに表情はあかるく、）クイーン・エリザベスに乗った気で行く。（大船にも程がある豪華客船にて迎え撃てば期待の高さは窺えるはずだ。「そっちこそ日直じゃない？大丈夫？」と釘を刺し返し明日の約束を確かなものとし、彼の最上級へはしずかに耳を傾ける。）よくばり。（それは想像以上に「最上級」。至れり尽くせりのスケジュールに思わず「王子なの？」と笑ってしまうが、「映画1時間で見れる？」「いちばん好きなおかずは？」「ペーパードライバーでも許してくれる？」と饒舌に問うから案外やる気だ。10本の指じゃ到底足りなさそうな予定の続きを聞くか聞くまいかを悩みながらも、一先ずいちばん気になるものから。）最上級の「これからもよろしく」の模範解答が聞きたいところ。明日聞ける？