（作業が進むに連れて周囲で増えるゴミをまとめ始めてしまえば、袋が２つが一杯になるのにそう時間はかからなかった。正味一人で持てる程度ではあったけれど、誰を探すともなしにぐるりと見回した教室内でつと黒髪の男と視線かち合った気がした。）高橋、今抜けれる？（わざわざ近づかずとも聞こえるだろう距離感で称呼した手元には、ダンボールの切れ端詰まった袋とゴミ袋が一つずつ。「ちょっと手伝ってほしいんだけど」と投げ掛けたのは、目あった瞬間に思い出したLINEの応酬が理由の一端ではあったけれど、）完全にイメージっていうか、偏見だけど、2,3年も準備で残ってるから、何となく一人だと絡まれそうな気がしてさ……。（治安に不安はないものの、先輩風吹かす陽キャからは出来れば逃げたい。着いてきてとは言わないまでも、意図伝われば断られることはないと踏んで）そう言えば、この間の。上手く行った？（端的な問いは南国の一日に遡って）

（二つ返事で近寄って来てくれた級友にありがとうと一言付した後、苦笑交じりの口許開いて）一人じゃ持ちにくいって理由もあったんだよ。って言いたいところだけど、今言うと言い訳みたいに聞こえるな…。…そうかな。部活入ってないからさ、高校入って先輩との距離感が未知なんだよね。まぁ…、（袋一つ預けて廊下へ出れば、教室とはまた違う賑やかな雰囲気が耳朶打った。「ちょっかい掛けられても、日本語が通じる相手だと思うとハードルは低いかな」、仮定した設定は長いバカンスを経ての所感だ。返答に自然頷いていたものの、つと目を見開いて口が開く。）ぜんせっ、い、は……？…すごいな。出来るんだ、あの量…っていうか、ラインナップで……。はは、忘れない一日にされた？（驚嘆を引き摺った反応は、上級者向けのリクエストと認識した内容を想起したゆえ。彼づてに聞いた男前な物言いは自然笑みが浮かんで、分かるよと軽く頷き共感を口にしたなら）写真はそんなに撮れてないけど、おれもそんな感じだったよ。タンデム自転車で鍾乳洞ってコースだったから、行き先からして合わせてもらった感はあるんだけど…。高橋たちは？

あ、いや中学も入ってないんだけど、同じ習い事してた先輩がいたから、安心だったって言うか…。高橋は？（緩く首振り否定しながら、そう言えばと差し向けたのは同じ疑問。「高橋そこまで運動できないイメージもないからさ」と、真逆のイメージもまた同程度なかったから、誤魔化すような笑いも携えて。思い起こす南の島への感想は似通ったもの。歯切れの悪い言い様に羞恥を刺した自覚が一瞬で芽生えれば「ごめん」といっとう先に謝罪が落ちる。）すごいなって言う感想しかないよ、おれは。あとは、だろうなってくらいで……。（無論他意はないが、しみじみ零す感想すら彼にとっては酷だろうか。つと思案顔で首傾げては、）向こう遊びに行って、ちょっと印象変わったなって人、結構いる気がしない？おれはそれこそ北村さんとか、そうなんだけど。（擡げたそう言えばに重ねて個人的な感想を。非日常だからこその発見はきっと散見していると見込んで言葉はなくとも彼の感想を待つあわい。）そう、前にしかブレーキがなくてさ。高橋たちの、本当に紹介されてるデートコースみたいな感じだ。向こうで食べたもの、結構何でも美味しかったけど、帰ってきて日本食食べると安心しなかった？自販機もだけどさ。（提案に頷きかぶれた発言と共に自販機前、見慣れたラインナップから午後の紅茶を手にしたなら）おれも思ってた。買ってもそんなに高くないみたいだけど、着る機会がな……

小学卒業までスイミング行ってたんだよね。バレー、授業でやることあったら、頼りにしてるよ。経験者いるいないじゃ違うよね。（返答に意識的に目線を持ち上げ黒髪揺れるのを見遣れば「まだ伸びてる？」と。登場した名前に納得しては、相槌打ちながら小さく笑いも漏れた。）分かるよ。南の島で、みんな開放的になってたのかもしれないけど……、逆はないよね。元気そうな印象あったけど…っていうのは。（緩く首振り賑やかな級友思い浮かべるさなか、「おれも？」と目を瞠った。従来であれば悪い想像するのが常なれど、安穏とした会話を思えば懸念はするり消えるからきっと目に見えた変化だってあったのだろう。）うん。選んでもらったけど、自分が前でほっとした。あはは、ラーメン分かるよ。おれも食べた。朝ごはん何でも美味しかったし、寧ろあの味が恋しいところもあるけど……。あれ、何でなんだろうね。果汁100％しかないのかなって思ったよ。（笑い混じりの共感はミルクティーの甘さに乗せて、ひと仕事終えたからこそれっきとした休憩のひととき、密談めいた相談は自然小声になった。）おれもどこまで甘えて良いのか分からなくなってるとこ、あるんだけど、……言ってみる？あくまでレンタルでっていうところと、クリーニング代は払うっていうの前提でさ。（クラス全員分の浴衣を用意しそうな富豪に甘えるレベルを弁えんとする策は実を結ぶか。「逆に粋じゃない着付けってある…？」、無意識に過日の彼と同じ反応をなぞっては、懸念と杞憂は鳴りを潜めてざわめきの一つになった。）