（真っ青な天球の下、玄関が混み合う可能性を予期して指定した公園へ着いたのは定刻20分前。アイスクリームやクレープのカラフルなワゴンや南国の花々が見渡す限りの視界をビビットに染めているから、9時過ぎに送信した今日はよろしくのLINEの末尾に添えた“ピンクと黄色が目印です”のヒントはもしかするとあまり目立ちやしないかも。不安募って入口付近へ移動する際には、ピンクの車体に黄色いサドルのド派手なタンデム自転車のハンドルに手をかけて。）――あ、入江さん。おはよう。…これ、すぐ分かった？探してもらうつもりだったんだけど、難しいかなって思って難易度下げちゃったな。（見つけたのはどちらが先か、合流叶えば本日の愛車をご紹介。）いろんな色があったから折角なら好きな色でって思ってさ。これ前にしかブレーキなくて、後ろはハンドルだけ。…前と後ろ、どっち乗りたい？（白Tに重ねたレモンイエローシャツと、もしもを見越したサックスブルー×ベージュのサーフパンツは私服の中でもひときわ明るい。）ちゃんと足並み揃えて漕げるかなって心配もちょっとだけ。すぐに行く？ちょっと腹拵えするのも有りかなって。

おれそんなに悪目立ちしてる…？（第一声の喧しさに笑った顔が即座に色無くして真顔、になったのも数秒。明るい様相に杞憂を思って相好崩せば、スマホを見遣っての「写真撮る？」は彼女と自転車のツーショットを想定して。）ピンクと黄色の車ってあるのかな、って思ったけど、入江さん何なら塗りそう。そんな事ない？アクセルは人力となっております。（コンバースの爪先がペダルを軽く叩いて、眩しげな眼差しが彼女を捉えればほっと安堵。）入江さん、信号黄色でも突っ切りそうなイメージあるから、正直ちょっと安心した。じゃあおれが前。……そこはきっと揃えられるよ、って方向で励ましてほしいところだけど、…食べながら…！？（食べ物はたとえばその辺のアイスなんかを想定していたから驚嘆するも、荷物に自然視線を向けて）あ、ありがとう。…作ってくれたんだ。じゃあ、それは着いてからの楽しみにさせて。俺はこれくらいしか持ってきてないんだけど、（手渡す数個の包みはこちらもピンクと黄色。ピーチとレモンのキャンディは見るからに現地仕様で、自分もピンクを一粒口に含んだ。）行き先、道も調べたつもりだけど、……迷ったら辿り着いた場所が鍾乳洞ってことにしてもいい？（お伺いは冗談8割。夏めく少女が乗り込んだなら、ひと漕ぎ目はせーので右足から。）

あ、おれも入った方がいいんだ。…ちょっと貸して？（主題の写真撮影を思考の外に追いやっている程度には今日一日を楽しくしたい心持ちが占めていた。唐突な自撮りに目弾きののち、画角を思って彼女よりも上から1枚撮影。）おれと入江さん、漕ぐのどっちが早いかな。いや『き！』じゃないんだよ……（思った通りの反応に首振って）絶対そうだと思ったけど、今日のブレーキはおれが支配したから今日は黄色も『止まれ』。…普段からしてる？手放し。（お小言の為でなく単なる興味で疑問符投擲。どこかで聞いたおにぎりの単語に思い至れば「誕生日だ」とゆるやかに破顔して）おにぎりだったよね。今日は一人で作っ……そ、そんな喜んでくれる？（高らかな声に目を瞠った問い掛けは、戸惑いながらも吐息と共に笑みが浮かんだ。出発直前に後ろ振り返りながらの「……くすぐらないでね」は、決してネタ振りでなく注意喚起のつもり。）入江さん、鍾乳洞って漢字で書けないんじゃない？（なめた一言は明朗ないいよに浮かれるようにして、存外平和な旅のはじまりは体感数秒で四散した。多少の揺れは想定内だったけれど、大声の問いはそうじゃない。）……な、何で？ないよ。（風を切る感覚緩めないままの回答はいつもより声を張って。）

えっ！？ごめん、ちょっとびっくりしただけで、嫌じゃないから。…入江さんも小顔効果気にする？（たった一音にキレを感じて、焦ったように謝辞が唇割った。コロッと変わる顔色に人知れず安堵の心地は、きっと写真に切り取られたはず。）魔王か何かみたいに聞こえるけど…？あはは、なら良かった。（危機管理能力の存外の高さに思わず笑った先、噛み合わない感覚がおかしくて自然言葉も増える。）それは、…さっき入江さんが言ってたのと同じで、一緒に出掛けるからには少しでも楽しんでほしくて。（明け透けに見える感情を前に、普段なら隠しただろう思惑を打ち明けた。「秘密」とそっけない返答は楽しげな声色に危険感じたがゆえだが、ちらり後ろ窺う視線が既に図星と知れるかも。）…それはおれも思ったけど、入江さんのとは違うどうなの？な気がするな…。（明朗な物申しを背に受けて唇がまごついた。感覚の差を何となく感じながら、路傍の鍾乳洞の看板示し「もうちょっとだよ」と、急かされた心地で自然ペダル踏む速度もやや上昇。して辿り着いた観光スポットは涼しさ求めてか人もそれなり。）入ろうか。中に写真撮れそうな場所あるんだって。……カップルっぽいポーズって手でハート作る、とかかな。それはアイドル…？（洞窟へと歩を進めればひやりと空気が変わった。濡れた地面に視線落として、隣へ「気をつけてね」と心配性の顔ばせ向けた。）

…写真のリクエストとは言え、キスさせようとするのは“どうなの？”の、どうなの。……おれが気にしすぎ？入江さんは平気なのか、おれをからかおうとしたのかだと、どっち？（隠し立てするのも意識しているようで気恥ずかしいからこそ淀みなく、視線合わぬ今なら問い掛けにもやや躊躇はなくなっていた。彼女の右手に左手近づけかけるも、はたと気づく。）アイドル感は求められてないだろうな以前に、画面タップできないな、これ。……される側ならハードル低いかも。（彼女の歩みを気にするあまりヤッホーの誘惑に駆られている事実は失念気味。彼女が見つけた場所に「みたいだね」と応じては、空いたところで歩を進めよう。抱きつきやすいように無防備な胴体晒しつつスマホを斜め上に構えて、彼女の提案通りハグされたなら、躊躇いながらも空っぽの手は肩へ置いてハイチーズ。）…そういえば、もしかして好きだって言った色、着て来てくれた？（勘違いに怯えて訊けなかった事柄に触れながら順路に従いぐるり一周。回りきるまでにヤッホーが飛び出るなら驚嘆にいっとう肩を跳ねさせ、そうでなくとも足場の悪さに心配は付き纏うから、再びの日の下で気疲れはそこそこ。さりとて安堵はそれ以上だ。）おにぎり、もらっても良い？飲み物とか、おれが買うよ。（希望に合わせて売店を経由し手近なベンチへ。何処か破天荒な印象が邪魔をして、恐る恐るの一口目。手作りの味は良くも悪くもきっと予想以上だろうから、楽しい一日の記憶に色濃く刻まれるはず。）