（楽しくなる気しかしないじゃん。――以上がラインのやり取りを終えた男の呟きであった。元より花島からの要求であれば一も二もなく首を縦に振るが、義務が楽しみへ姿を変えたのは今日びまみえる少女の所為。朝食を終え「女子の支度は時間がかかるだろうから」と迎えの時間はラインで知らせて貰うとして、ブルーブラックのポンプフューリーが踏み躙る街中は今日とて真夏の爽快さ。）あっつ、中水着着てきた？（好みが浮き彫りになった過日は思い出すだに羞恥心炙られる心地だがそれはそれとしてリクエストしたからにはその容貌を楽しみにしてしまうのが男の子。陽気なピンクのアロハシャツにお馴染みカーキのパックT、それから濃紺に一本ラインが入っただけのサーフパンツは行先を思っての軽装。）今日はよろしく。どうせならあれ乗ってかない？（少し離れた場所にあるビーチへ徒歩よりも現地の交通に肖るが吉かと指差す先にはグリーン✕イエローカラーの鮮やかなトゥクトゥク。腕に巻き付くオー・シリーズはブラックカラーの秒針がまだまだあまりある時間を語っていた。端からNOの選択肢を見込まぬ爪先が颯爽と徒行すればスペンサーの背を先んじて押し乗らせる事となろう。）

可愛いね。（感想は滑らかに落ちた。「これがデート仕様ってやつなの？」と疑問符付随する様相は可憐と評した自分に向けての自問自答にも似ているが希求通り剥き出しの肩へ視線釣られれば過日の自分へ頭掻き毟りたくなる心地も多少なり。煌めく双眸へ「うわまつげ長…」とは感想に過ぎないが上から下までこの可憐さが擬似とは言え自身の為と自惚れてしまったら弾む爪先が逸るのも無理からぬ話だった。）それはこっちの台詞。特集乗っても「え？これほんとに付き合ってない？」ってザワザワさせるくらいの自然さ見せてこ。（大口甚だしい台詞だとて相手なら乗じてくれると見越してのそれは乗り込んだ後部座席で、うなじを攫う夏風に眦を細めながら。）準備良い…。俺何も考えて無かったや、（最先端女子は違うねと素直な謝辞が唇を割れば素材集めに困る事は無さそうとの所感はきっと正しい筈。動画だと知らずに現地風ピースサインを向けるが卒然と水を向けられれば、えっと、と途端にぎこちなく）俺と心でジェットスキーして、疲れたらフルーツスタンドいきま～す。（間延びした口調はストーリー風に。顔を寄せカメラに収まるように映り込めば「フルーツスタンドでのお目当ては？」と少女へも疑問符を差し向け、軈て15分程度の道行きを走ればアクティビティ施設を併設したビーチへ降り立つことになるだろう。）ジェットスキー候補にするからには絶叫もなんでもござれ派？（Vネックの胸元にかけたサングラスをイキって掛けながら、受付方向へ爪先を向けて。）

うわそれはハズすぎ。クラス内でちょっと噂されるくらいで俺の心臓は限界だよ。（カップルアカウントまでを聞いてから耳塞ぎたくなるようなむず痒さに完敗。「そりゃ心はそういうのも平気そうだけどさ…」と可能性の薄い未来へ妄想してみたら彼女ならそれすら上手にやりそうだなとの素直な所感が唇を割る。移動中の戯れも逐次笑声弾かせ白砂を再び踏み躙る頃には）結構イケるよね。そりゃスタバでイキって遊べる俺らならカレカノ茶番なんかわけないか。（出会いを彷彿とさせれば今迄茶番塗れの邂逅を想起して一気にハードルが低くなった感を自覚。一歩先行けばわざとらし～く足の長さをアピールするモデルウォークで「あ、ごめん足が長くてつい置いてけぼりにしちゃった」しらっじらと音吐する口吻こそ愉悦を滲ませていよう。）なんでわかったの？エスパー？でも結構高いところは怖いから観覧車とかはパスしときたい派。（行列に並ぶ傍らサングラスしたカップルは何は無くとも鼻につく染まり具合だがそれがなんだとばかりカメラへ憚らぬ「今からジェットスキーで～す」と実況を手向け、軈て受付を終えればスタッフ監修のもと小道具着用の段。シャツに指先掛けて着替えの傍ら赤いライフジャケットとやらを少女の方へ被せて着せながら）どっちが前乗る？乗りたい？（場所決めの相談は案内される傍らに、防水ケースに入れたスマホを首から下げれば果たして撮影の余裕はあるのか否かのチキチキジェットスキーの幕開け。）

ちょっ　　とさあ髪の毛の話はデリケートだからやめてってば。（先んじた一歩は紳士ともスマートとも程遠いが暴言が耳朶打てば振り返ってその唇へしーっと指先を宛行う。トンチキカラーの弊害を一度確かめるように前髪を抓んで生え際を確認後「展望台はそんなに。地に足がちゃんとついてれば良いんだと思う。」と与太話を挟んでいざアクティビティへ乗り出す段。ブラックカラーが白肌に映える水着姿を映じ男が唇を開くより先にそのあけっぴろげな所業へ、）俺の褒める隙間なくなるし恥ずかしいし心に足りないのは「はじらい」と「おくゆかしさ」で決まり。　可愛いけど…。（咎めるよりは拗ねた風采の文句が零れ落ちた。これじゃまるで後出しで言ってるみたいじゃんかとの内実は表情が語るだろうか。揃いのジャケットに手を通せば朗々たる声にどうぞと前を譲るが選択ミスにまた唸るのは数秒後）捕まる場所こまるしセクハラって訴えないでね。俺彼氏だからね。（悪戯な笑みに歯噛みする心地は逡巡する手先こそ揶揄賜ると判じて堂々と臍辺りで両手をクロス。「オッケー」と言う前に勢いよく飛沫を散らす車体へ体躯が引っ張られればうわっと間抜けな第一声は幸いにもきっと波飛沫に紛れてくれた。）ヒュ～～～～～～！（華奢な体躯の後ろで嬉々歓声追従すれば「心、心、曲がってみて！」「ヤバいすごい爽快感！」と自然張り上げる形になる声が届くか否か、ブイブイ言わす暴走族みたいな運転とて厭わぬ少女に期待半分恐れ半分、声が枯れっ枯れになる未来も遠くない。）

（飛沫を撒き散らす運転はヤカラも真っ青な荒くれ者で、最初こそ燥いでいたものの「ちょ　ヤバい」と先んじて白旗を掲げるのは三国の方だった。三半規管に大打撃を食らっては少女の肩へ額を落とす情けなさは）俺は将来心が免許取ってもぜってぇ隣には乗らない…。（恨めしげな視線を相成る筈。ダメージ0の少女へ相反した表情はそれでも弾む語尾へ釣られて首から下げたスマホを掲げ、後ろからにゅっと腕を伸ばせば十分カメラに収まる事が出来るはず。）初ジェットの感想は？（少女が笑うか或いはキメ顔浮かばせるのを見越したシャッター音。開放的な空気に宛てられカップルらしい距離感も何のそのだ。数枚撮った所で額に張り付いた金糸を指先で払えば答えは勿論）任せて。後ろでキャーコワーイ！って捕まってな。（大口に他ならぬ台詞は数分前の運転と比較してやや探り探りのもの。とは言え緩慢な豪華客船かと思いきや負け知らずの地元のヤンキー宛らの運転手腕を見せつけたら先程の意趣返しは叶うか否か。「ふっ飛ばされんなよ！」とイキった台詞が尽きる頃には海上を縦横無尽に堪能して、ゆるゆるとアクセルから指先を離せば元の砂浜へ爪先を落とすことになるだろう。）うわ　　うっわ、さっきまで海の上で揺られてたから変な感じ。わかる？（卒然訪れた千鳥足へ鼻から抜けたような笑みが零れ落ちる。共感得られたのなら掌差し伸べて着地の助力を申し出るが果たして。）さんっざん叫んだから声枯れっ枯れだよ俺。喉乾かない？

（爽快なスタートダッシュをキメるや後ろから被さる嬉々歓声は予想通りの朗らかさで耳朶を打ち、軈て悲鳴かギブアップ訴える矮小な声へ変わるのを今か今かと待ち侘びたとできっと無駄。「キャーコワーイって言わせるの狙ってたのに残念」と数分前の情けなさを相殺したくて告げた文句はきっと掠れて風に溶けてしまう筈。満喫しきった爪先で聢と砂浜踏みしだき差し伸べた掌が重なるならまるで介護者のように支えるが）う　ぃってえ…（無様なタックルは然しその体躯よりも親指への痛覚が先にキた。幸いデカい図体が無様をかますことなく抱き留めたら両肩を掴んで直立させ）大丈夫？俺はそこそこ大丈夫じゃない。心が彼女じゃなかったらワンパンしてた。（戯けた句はこれ見よがしにチラつかせる彼女特権。遊び呆けた弊害の嗄声を互いに晒しながら笑えばその提案へ異を唱える理由なく、「俺も。今爽快感しか受け付けなくない？」は病みつきジェットの名残り。追従し隣へ並べばふたつと店員へ告げる片手間）うん？（問い返したのは一度じゃ意味を掬い切れなかったから。付け足された台詞へ合点がいったと首肯したら、片手に掴んだ2つのうち1つ瓶を頬へひやっと当てる悪戯をかまして。）雪緒くんでFA。心って他人のことあだ名で呼んでるのしか聞いたこと無いし。（須臾の迷いとて見せぬ即答が唇を割った。「う～ん今のは可愛い」と可愛げへ辟易すらする表情浮かばせ卒然と）なんかやろ、カップルっぽいあれ。（遊び疲れた段になって告げるのは複数連なったミッションへ興じようとの誘い。）

うっそ～。（痛がる素振りも確かに嘘じゃないが思った以上に狼狽呈する少女を見ていれば揶揄めいた口吻と代替の種明かし。「それお詫びになってなくない？」と突っ込むまでは秒だが然して気にも留めない爪先が軽やかに弾む。）呼び捨てでもいいよ。心がくん付けもあんまイメージないし。別にこれは今日に限った話じゃなくて。（切欠は飾り立てられた機会だとて今日を機に結んだ縁をわざわざ白紙に戻してしまうのは味気ない。故あって「俺も今日から心って呼ぶし」と付け足せば同じように煽った瓶の冷たさに眦を細めた。さて小休憩求めがてらの話題は隣からひょいとインスタを覗き見する道行き、）だっは。でしょ？酔ってる感じがサムいのかな。でも当の本人たちはサムいと思われようがきっとへっちゃらなんだよね。（インスタ映えを極めたショットの数々は確かに見る側の辟易を物ともせず幸福そう。映像と写真のリクエストを脳内で繰れば出来そうなものをと思案擦る傍ら不意に華奢な腕のぬくもりを感じればカメラを構える指先は躊躇いなく）だいぶカップルっぽくない？（ね、と問い掛けるのはバックにビーチを背負ったショットを笑顔で迎えるべく。斯くして提案するのは）このさあ、砂浜で向かい合ってるやつなら撮れそうじゃない？（見知らぬカップルのインスタフォトを指差したら、所謂砂浜に刺されたフォトフレーム越し向かい合いおでこをくっつけるショットがお目見え。視線の先に丁度良くウッドデッキに設えられたフォトスポットがあるもんだから、小道具も借りれるかと踏んだらしい。）

もう心が小学生みたいなもんじゃん？（限定だとて彼女へ向けたる台詞としてはあまりに暴言染みているがキャンキャンと喚き立てるその声が心地良いから致し方ない。斯くしてまあ傍目にはカップルにしか見えぬであろう互い互いを映じては今更ながらの面映ゆさが込み上げて「やったね」は端的な感想となろうか。解かれた腕がなんだか物足りなかったのでさも自然とその指先を捉えたらご都合主義的展開へにやりと唇の端を釣り上げた。）どうせならどこより映えた写真撮って特集でいちばんでっかく写真使ってもらおうよ。（朗々たるソプラノが耳朶打てば賛同が得られると見越して少女の言う侭にピント調整といこう。「ごめん、スタイル良すぎて…」と眦下げた自意識過剰を交えながら位置決めしたらタイマーのカウントへ間に合うよう少女を手招くが然し。）それはズルすぎ。（寸での所で緊張高じる姿が彼氏フィルターなんぞ掛けたくても可笑しいやら可愛いやらで噴き出せば、「ちょっとまってね」と今度は己がタイマーボタンを押しに行こう。戻ってきた所で笑みを噛み殺すように咳払いしたら、）ほら。（今日イチのショットは互い両手で頬を包んで見つめ合うショットが撮れる筈。カウントがこんなにも焦れったい。）……うん、ちょっと解った。恥ずいなこれ。（寧ろシャッターが切られたあとのほうが。そう言わんばかり朱色差す頬を擦ったらカメラを回収して確認ののち、）フルーツスタンドいこっか。なんだっけ、マンゴーとマスカットとイチゴとスイカと……たくさん？（今日の帰結に向けて動き出す。）

だっは、今のはぶさいく。（切り取った須臾に瞬きを重ねたら倒れ込む体躯をつんつんと突付く指先が晩夏の夕暮れに染まる。「したした超した、ドッキドキ。触る？」口吻からして嘘の明け透けな台詞はイェスマンの名に恥じぬ瞬発力だが揶揄めいた趣も多少なり。砂塗れの体躯をよっこいしょと起こせば肩やら腕やらを払いながら、湿り気孕まぬ風ですっかり乾いた頭からTシャツを被る傍ら。上から下まで今更映じずとも嫌ってくらい視線を惹かれてばかりだった今日の日、態々口に出す称賛が羞恥心を焼く心地も否定できないがお膳立てされた一日なら振り切らなきゃ損だ。）目からダダ漏れじゃなかった？今日のビーチじゃいちばん俺の彼女が可愛い。（斯くして躊躇わぬ賛辞は惜しげなく、ごっこ遊びを満喫しきった胸裡を湛えて。徒行するフルーツスタンドであれもこれもと頼んだ両手で塞がる程のカラフルなフルーツを舌先が齧り合いもう暫くの延長は憎らしい太陽へ沈んでくれるなと願わずには居られない。）おれも。（短な一言は過剰な装飾が無いからこそ真直な響きを帯びて、甘く香る指先がカラフルな指先を絡め取ったらもう少しだけこのままで。）ありがとう。今日楽しかった。日本帰ってからもよろしく。（斯くして先延ばしたに帰結を渋々迎え入れたら総括は何も今日だけじゃなくって全部。至る所にレインボーカラーの少女の存在があったらこそ彩られた日々は国と違えたとて変わらない。甘ったるく満喫した非日常から日常の環への帰り道は、出来るだけ遠回りでよろしく。）