三国、ドラクエごっこしよ。（スタンプ捜索をRPGになぞらえた誘い文句が放たれる夜半、かるい言葉つきのうちに緊張がややにじむのは級友のラインのせい。大抵のことはなんとかなると思っているがそうじゃないものもままあると自覚するがゆえに、すべる指先が了解スタンプ連打のヘマをしでかせば課されたミッションには挑まざるを得なかった。とはいえ、たぶんきっかけがそれだっただけで何がなくても彼を誘っていただろう。のんびり歩くにはいちばん適したひとだと思ったから。）なんか肝試しみたいじゃんね、海外の幽霊って足あるんだっけ……。（ウォークラリー参加者で賑わう入り口は幽霊なんぞ遠ざけそうだが、夏の夜だからというだけで肝試しに飛躍する思考が幽霊の国民性を問う。ルーズな白Tシャツに合わせる黒のキャミソールオールインワンは夜に同化しそうだが、まっしろなイージーブーストがきちんと地に両足つけて歩いていることを主張し、まだ何も押されていないスタンプカード手にして聞く。）コンプリート目指す？

そこは欲張って勇者役に立候補するとこだよ。（勇者たちの列の最後尾をすすんで陣取りそうな謙遜を秒でド頭まで押し遣る。結ばれた袖を引いて「はやく」と急かすのはおふざけみたいなもので、そのうちふたりぶんの爪先がウォークラリーの入口を見つければ、首に通された紐のむずがゆさにちりちりとそれを指先で弄った。）天体観測すき？　あ、バンプじゃなくてね。（曲じゃなくて実際の、と人差し指が夜空をしめす。）うっそ～～～　武器持ってる幽霊は怖すぎん？こわい。ホラーやだよ。エクソシストみたいなブリッジおばけ出たら逃げるわ……。（どうやら彼の想像では日本よりも死者の生者に対するうらみが強いらしい。眉間にしわ寄せて「自分で言っといて背筋ぞわっとした」と背後を確認するも、参加者もそれなり明かりもそれなりの道ならばたいして悪寒を引きずることもなかった。）スタンプと二度寝を天秤にかけて後者を選んでたタイプ。お菓子の詰め合わせとか？（景品といわれて真っ先に思いつくのはラジオ体操に引っ張られたこどものご褒美。「ちょっとほしいかも」と笑ってなだらかな道を歩み、すこし先に見えたもの。）あ　あれっぽくない？いっこめ。

はじめて言われた。（似合うと言われた勇者の称号は半ば押しつけみたいだ。試しに彼の前に躍り出て二歩先を歩いてみたが、しっくりこなければすぐにとなりへ戻って勇者は廃業するに決まってる。）そんな贅沢な夜に乱入しちゃっていいんですか～～？　おいしい飲みもの用意しといてね。待ち合わせは午前2時。（わざとらしい敬語で尋ねて0.2秒。ナンパに乗っかる軽口はかの有名なフレーズを彼がうたったせいで半分以上笑っちゃったし、おのれもつられてうたってしまうから危険な伝染力。人にブリッジをさす悪魔も武器装備の幽霊も出そうにないあかるい夜を行けば、道中の会話もいつも通りにくだらないもの。）ハリボーのシュネッケン食べたことある？（独断と偏見によるゲテモノ代表格の経験を問う。カードにスタンプが押される間、かがんで見えたつむじをつんとつつく悪戯かましたところで何食わぬ顔をし、）ヤシの実に一票。（南国らしいそれを選択。「いやでもマンゴーもアリ？」「石はさすがに…」と同レベルの美術センスにて語らえば、かがまずとも届く彼のカードにもスタンプをぽん。すこしだけ曲がった。）順調な滑り出しじゃん。コンプできそだね。

牛乳たっぷりのミルクコーヒー、ジンジャーエール、飲むヨーグルト。ほら、知った。（知らないならば知ればいいとばかりに好きな飲みものみっつ頭の隅っこへ詰め込んでやる。破裂音案じた「風邪ひいた？」がまったく無駄な音痴いじりにはわかりやすくへそを曲げ、「音痴じゃない……」ともう一度うたった。さっきよりも小声だ。）タイヤ。もう二度とたべないって神さまに誓った。　こわ！なにその猟奇的なきせかえごっこ。（リカちゃんも驚く着せ替えに目をまんまるくし、徐々に細められていくのは背筋が寒気を知ってのこと。「こわいこわい」と半歩ほど距離を取るけれど2秒後には「ハリボーはおいしいよね」とすぐにもとの距離へ戻っていた。）全員カップルになってたらおめでとうパーティー開催してあげよっか。（首にさげたカードをいじくりながら「逆パターンもあり得るけど」と全員本気のスタンプラリーを想像すれば笑えてくるのはしょうがない。会場のどこかにいるだれかとだれかの恋を想像するうち、「あ」と思い出すのは今日の目的。）三国はどんな子がタイプ？（遠回しに聞くということを知らないくちはド直球に、決して自然じゃないが話の流れからしたら不自然というわけでもない。）うわっ（ご指摘どうもという間もなくからだは段差に持っていかれそうだった。彼のシャツの袖をつかむことで転倒回避できたらいい。）

きんきんに冷えたやつね。うんと辛いのがいい。（仕事帰りの働き人が居酒屋のカウンターで求めるみたいな言葉つきで語るは午前2時の天体観測への期待。ひんまげた口先が不服をありありと呈しながらも、キャラメルを舌で転がす5秒後には「テイラー・スウィフトだった？」と冗談めかすくらいに上機嫌だ。）おっしくらまんじゅう　おっされて泣くな～～　だっけ？（ゼロ距離がもたらす肌のぶつかり。体格差を思えば負けも確定で押されるばかりかもしれない。）おめでたい……　けど文化祭ひとりフラグじゃん……。（できたてカップルが間近のイベントを欠かすものか。祝いたい気持ちとさみしい気持ちがちょうど半々じゃ控える学校行事へのおもいは複雑だが、そんな色恋を捨て置く想像には「はは、小学生だ」と全面同意。問うばかりに夢中で躓いたからだは間一髪転倒を避け、ふらつく足許もすぐに安定を取り戻した。）ごめん……　転ぶと思った？（たぶん掴めるところに彼の袖がなきゃ悲惨なことになっていた。手のひら回されればきちんと背筋を伸ばして気をつけの姿勢で「ありがと」。）ははっ　わがままな彼女に振り回されてんの、ちょっと想像できちゃったや。（唐突な問いかけであったからノーコメントも前提とて、彼ならばなんやかんやと答えてくれるだろうという想像がぴたりと嵌れば笑いがこぼれるのもしょうがない。「え～～　な　なんとなく……聞いてみただけ」と級友の存在ひた隠しの返答は、慣れないせいで歯切れが悪い。）わたし？　おんなじとこで泣いたり笑ったりできるひとかな。

まっくろくろすけでておいで～～　になっちゃってる。（童謡の続きをたどろうとした口先も別のうたを知ったせいで頭のなかはそればかり。奥まった茂みを指差し「見て、トトロいそう」と覗くたわむれのうちはおしくらまんじゅうの続きも思い出せないまま、立候補の翻しを却下する先手「ドタキャンは泣くよ」も笑ってしまえば冗談みたいなもんだ。）なにやりたい？（とは、なんでもない文化祭の話題。）うっそ期待ゼロ？書道部だってやるときはやるんだよ……　じゃあこれ握っとこかな。（望み薄の反抗を語るくちはツンと尖がらせ「男バス参加は月イチ？」と出席率を予想する。どっかを迷う指先は彼の結ばれた袖を選び、それを控えめに引いたかと思えば揺らしたり持ち上げたりと弄るおふざけを二度三度。）好きなタイプと好きになるひとって違うって言うもんね。つまりそういうこと？合ってる？（あれこれと聞いたところで終着点はぼんやりとしたもの。個人として同意はできるのに級友からミッションを受けたエージェントとしては物足りない成果であり、無駄に長い声色が伸び切るまでを聞けば「納得いってなさそう……」と彼の口許を指差した。）大事大事～～三国もそう思う？おんなじの食べておいしいって共有できたらしあわせだよね。（よろこびとは重要な要素だ。尋ねられたら頷いて、次なるスタンプへ向かう一歩は負けじと大股。）三国、次のスタンプの柄予想して～～当てたらなんかあげる。（景品はたぶん飴あたり。先んじて手にしたスタンプを彼のカードに押せばハイビスカスが咲いた。）

フラグじゃない？（文化祭のド定番にノーを突きつける言葉つきへ感じるのは嫌な予感。笑っちゃう反面、お化け屋敷却下には甚だ同意のため「や、フラグ折ろう…」とおのれの発言を勢いよく翻す。）ヨーヨー欲しくていっつもやるのに、いっつも切れんの。かなしいよね。（ぽちゃんと水面に落ちる縁日の思い出を憂うひとこと。9月に夏の風物詩も遅くない持論は「まだ間に合うよ」を主張し、おとなしく袖を掴んだら「はは、今度見に行こ。」と秘めた計画を晒した。）そんなバレバレだった？つらいな～～三国のこと知りたかったんだよ。おんなじクラスでも知らないことは意外と多いもんだからね。（うそを吐きなれないくちは今度こそ本音を語る。級友の域を出ない相手の色恋へ踏み込むことほど不自然なことはなかったが、不格好なりにミッション達成したならその先は雑談に過ぎない。嗜好の違いを「人間全部おんなじってわけにいかないもんね」と理解しながら「相手の好きなものを好きになりたい気持ちはある」と苦手克服の意思を垣間見せるのも、また雑談のうちである。）高1の財力なめんなよ。（どちらかといえば大貧民である財布事情を告げる一言は若干治安の悪さを覗かせるも、笑いながらのそれは威圧感ゼロ。スタンプの柄を言い当てる前、カードを盗み見るところはばっちり見ていた。）見～た～な～～～　ってね。100歩くらいおまけしてあげよう。（ふたつ取り出したうちの片方を放り、片方は口にする。うんと酸っぱいレモン飴を舌で転がした。）次の当てたらなんかくれる？予想はウミガメ。

金魚にもヨーヨーにも逃げられたって「取れなかった～」って笑っちゃえば思い出になるもんだよ。（落下のかなしさを語る一方、たいそう前向きな解釈は詰まるところ「行く」の全肯定。袖から離れた指先が、まだ先の風景に躍るこころで「焼きもろこしは？」「あ、射的も」「実はりんご飴食べたことない」等々リクエストを指折り数えた。）じゃ、あえて内緒にしとこ。（思惑は最早露呈したに等しい。モテ期到来を知らせぬ意地悪発言の半分は、ひとに頼まれました感だだ漏れのど下手な嘘に勝手にへそを曲げただけ。もう半分がただのおふざけなのは笑う口許を見ればわかるだろう。）はは、すっぱ～～～って顔してんね。（ぎゅうと瞑られた両の目を指差し「ごめんて、ちょっと見てみたかったその顔」とついつい本音が落っこちる。口直しにともう一度おんなじ飴を手渡すあくどい顔は悪意100パーかもしれない。）そんなこと言って1億円くれって言われたらどうすんの？なんでもいいはおすすめしない、　　　わあ。（指先を追う先に広がる星空の下では言葉は失われるものだと15歳のむすめは知る。）ね、気づかなかった。いつもこんな空見てぼっとしてたの？　いいね。（視線がかち合えばふたりぶんの笑い声は重なるはず。みっつめのスタンプの正解を探らんと覗けば、）あ～～～ざんねん。ニモだ。（カードには熱帯魚のシルエットがひとつ描かれる。うつくしい天井を知ればさっきよりも上を見ることが増えるだろう。続くラリーの最中、何度も何度も。）ね。さっきのもしも当たってたらなにくれた？