（誤送信じゃないかと三度見したLINEが送られてきたのは先日の事。悩める乙女の力になりたい気持ちは山々だが、直球ストレートが十八番の自分にどうしろというのかと珍しく本気で頭を抱えた矢先、舞い込んだナイトウォークラリーの好機。雨天のために持ってきた白のウインドブレーカーとストレッチが効いていて動きやすいハイウエストタイプのスキニーパンツに編み上げのヒール控えめなトレッキングブーツという山登りのための格好を揃え、探すのはお目当ての少年の姿。本来ならスタンプ探しに血眼になるところだが、今はそれ以上の困難なミッションを請け負っているために余裕は皆無。――程なく長身の主を見つけたならすかさず駆け寄り、目の前に回り込む。）高橋！…あのね、もうペア決まった？決まってなければ私と行きましょ、そうしましょ。準備は出来てる？出来てたら早速出発しない？（やたらと早口でぐいぐいと畳みかける理不尽なまでの強引さは、全身で何らかの裏がありますと白状しているのと変わらぬ態度だった。それでも開口一番に同級生からのLINEの内容を洗いざらい喋らなかったのだけは幸いしたか。）

えっ？ううん、急いでは…他の人に取られる前に高橋を攫っておかなきゃって使命感はあったけど…。ごめんね、高橋は逃げないわよね…たぶん。逃げたところで追いかければいいだけだし…。ああ、1番とかは特に意識してないわ、怪我なくミッションクリアできたらいいと思ってるぐらい。だから、それは大丈夫。（むしろスタンプ集め1番乗りより余程の難解なミッションを勝手に背負った身としては既にスタンプ集めは二の次。彼の冷静な返答のお陰で前のめりな熱も一旦はクールダウンし「お、オーケー…ありがとう…」と言いおいてゆっくり深呼吸。落ち着きを確認した後に今度こそ地に足をつけてスタート地点を踏んだなら、）ま、まあ…スタンプ集めの合間に未知の生物とか怪しい洞窟でも見つからないかって期待はしてるけど…今は、ちょっとそれどころでも…。……もういいわ、まどろっこしいのは苦手だから…早速だけど、ド直球で聞くわね？結構…こう、デリケートというか、突っ込んだ話になるけど…心の準備はいい？（じいっといつになく真剣な双眸で彼を射抜いた後、彼の心の準備が整うまでは今度こそ大人しく待っているつもり。言葉通り今は本来の目的たるスタンプを眼中に入れている余裕もなさそうで。）

（スタンプ集めとは別のある意味で切実なミッションへの使命感に燃えているのは間違いないが、事情を露ほども知らぬ彼にとっては混乱を招いても可笑しくない言動に違いなく、）ただただ、仕事熱心なのよ…。乗っ取り？たぶん大丈夫よ、少なくとも今は。（ぺたぺた自分の顔に触れ、自我を保てていると確認も終えて。）もちろん！こんなシチュエーション、期待するしかないじゃない？大丈夫、もし何か起きても高橋は無事で逃がすから。（そうでないと彼に好意を寄せる同級生も悲しみそうだから。）拒否権はあるけど、出来れば何かしら答えてくれると…色々、とても助かるわ…。報酬が必要なら、私の出来る範囲で頑張ってみるし…。聞きながら心の準備をしてくれてもいいわよ…？でも…貴方の余命どれぐらいか知ってる？とか、そこまで重たいものじゃないから。（思いつく中で出来るだけ重たい質問を例示してハードル下げようと試みたが、成果のほどは如何に。）何系……恋愛系？私は質問されても嫌じゃないし、できるだけありのままに誠実に答えるつもりだけど…。…ってことでね、高橋。さっさと聞いちゃった方が答えを考える時間もあるだろうってことで……今付き合ってる子か、付き合いたい子はいる？あと、どんなタイプの子にときめく？（これはもう質問内容を早々に明かした方が吉と判断し、遠回しとは対極のストレートさで前置き通り恋愛系の質問を投げかけた。）

大事な同級生を守るのは当然よ、ふふ。しぶとさには自信があるから…意外といけそうな気がするのよね。（と思う時ほど悲惨な結果に終わるのが通例ながら、諦めの悪い少女だ。されど報酬の話が具体的になると言葉を止め、）うーん…好きなお菓子をあげるとか…。あ、あとお金でも。お小遣いで出せる範囲なら！（存外、子供じみた回答になったと自覚はしている。）そうね、ここで死神だって暴露してどうするんだって感じだし。私も死ぬまで知りたくないわ。（普通の人間アピールしつつ、先に質問の系統を明かせば彼の心の準備も幾らか手伝えたか。同性との恋バナとはまた趣の違った手応えを覚えつつ、）好きな子も付き合ってる子も今はいない…これからに期待できるってことね…なるほど。（これは友人には朗報だと唇の端をつり上げ、）……ギャップ！高橋はギャップにときめくのね…！分かったわ、とても参考になる答えをありがとう！早速伝え……い、いや、…ほら、不意に？高橋の恋愛観が気になって。（うっかり友人経由の質問だと暴露しかけて呑み込み、代わりの理由をこじつけた。）たまにあるじゃない？ふっと友達の恋愛観を根掘り葉掘り聞きたくなる日。高橋にそういう質問を投げたらどういう顔するかも興味あったし…。（最後の興味は紛れもない本心にして、慣れないミッションゆえのぎこちなさは未だ払拭に至らず。前進を促す助言を受けたなら「そうね、どんどん歩きましょう…目指せ、未確認生物…じゃない、スタンプ集め…？」と、とってつけたようなスタンプ集めがやっと始まる。）

そうね、ピンクよりレッドを見てた。高橋はどの色が好きだった？それともヒーローものより魔法少女もの？（きっと魔法よりダイレクトな拳の方が性に合っているのだろうと笑いながら、）ぱっと思いついたのがそれぐらいで…女子だったらコスメとか言えたんだけど。分かる、よく分かるわ…お金の方が使い道あるはずなのに。（同意求める疑問符には「あー、たしかに。帰ったら掃除当番代わる？それとも間とって図書カード？」とお菓子よりは大人寄りになったはずの報酬を口ずさんで。その報酬に見合うぐらい気まずい質問を投げた自覚もあった。）えっ。ごめん、間違ってたら困るから確認しようと思って。大丈夫、私の心の中に留めてはおけないけど、大勢に言いふらしはしないから。……照れた時の高橋はちょっと声が大きくなって可愛い、と。（これも追加情報で友人に伝えようと密かに目論んで。元より悩める友人への伝達が目的なので言わないと約束できない分、嘘にならない言葉を必死に選んだつもり。）そこは私も反省してる。もっとライトな感じで…高橋、楽しく恋バナしましょ！とか、言えばよかったわ…。（とささやかな反省の色も覗かせて。）えっ…？一緒に居ると楽しくて落ち着いて、あと私の言動に付き合ってくれる人かしら。仕草は…あまり考えた事ないけど、腕捲りしてる仕草は好きよ。捲られた袖を解きたくなる。（スタンプ探しを堂々と疎かにしながら、思いついて追加の質問をもう一つ。）じゃあ…もう一個だけ。もし自分を好きな子が居るって分かったら、どう思う？

あらやだ、使う相手は選ぶわよ？ヒモにはどうにか働いてもらうとして、ホストもあんまり…むしろホストやキャバ嬢をプロデュースして伸ばす方が楽しそう。高橋、脱力系ホストのシノとしてナンバーワンを目指してみる？（ホストに金を使うより育てる方に面白さを見出しがちな少女、手始めに彼のプロデュースを持ちかけてみるが、手応えのほどは。）口の堅い友人A…？大丈夫、一人だけの予定だから。（安心感を与えようとすればするほど逆効果になっている予感がしなくもないが、其処は彼に好意を寄せる友人への良識と信頼に委ねるしかない。されど紡がれた音は都合よく了承と受け取った。）ふふっ、つい本音が。新しい顔が見られて嬉しいわ。（にんまりと満足そうに笑み宿した後、）ナイトウォークで恋バナって、突拍子もないわよね。（拒否する姿が容易に想像できたから「拒否すると呪われるって前提にするわね」と笑って。）それもあるし、捲ってない時と比べたいのもあるし。腕は細すぎず太すぎずが理想ね。高橋、折角だしちょっと試しに…袖無かったわね…。（言いながらTシャツに気づいて苦笑し、）嬉しいというか驚くというか…。でも、高橋がそういう答えをしてくれる人で嬉しかったわ。知らない奴に好かれても困るとか、これ以上に好かれるのは迷惑だとか、そんな風に言わないでくれて。高橋を好きになる子は見る目あるわね～…ふふっ！ありがとう、これで恋の質問はおしまい。（微かな面映ゆさは丁度目に付くスタンプで誤魔化してしまえ。）……あっ、こっちにもスタンプ！押しましょ。

脱力系なのにNo.1って最高のギャップじゃない。ギャップが好きなだけじゃなく自分で体現するホスト、伝説になるわね！もちろん勝算はあるわよ？とりあえず髪プリンにしてテカテカのスーツ着ましょ。（まずは形から入りがちな少女、架空のホスト育成計画は見た目の改造から。ともあれ最重要ミッションは彼の協力により無事にクリア出来そうでほっと一息。間違いなく友人が喜ぶだろう回答に唇の端から笑みが消えない。）仕事してる感がときめくじゃない？そうね、長袖Yシャツの我慢強い人を見つけないと。（彼の腕に目を落とすと「そう？しなやかな腕だと思うけど、でも折角だしこれから肉食べて逞しい腕にする？」と単純明快な策を提案した。）えぇ、分かんないわよー？まあ、高橋が優しいのは間違いないって事で。……ええ、協力ありがとう。（笑みと共に質問の終了を宣言し、そこから興味の重心はスタンプの方へ。）ふふっ、ほんとね！高橋の日頃の行い？（スタンプばかり気にして足元がお留守だった少女、段差の一声と踏み出すのは同時だったが、「おっとと…」と寸前で回避できたのはその一声のお蔭。）最近は海で遊んだし…あと秋吉と虹作りながら水遊び。高橋は？何して遊んだの？（と、こちらも先ほどの彼の真似して同様の質問を投げてみよう。――そうしてスタンプを集めながら、さほど苦労せず高台にも辿り着けるか。満天の星空を見上げたなら、）……わぁ！高橋！ちょっとちょっと！見て！星が…星が、物凄く綺麗よ…！（だなんて子供じみた歓喜の声も飛び出すはず。）

大丈夫、No.1ならどんな話も武勇伝でねじ伏せられるわ！脱力系だから染めるのも面倒臭いって設定にマストよ。ふふ、ありがと。（架空ながら最強ホスト育成計画を語る口調の熱量は本物と変わらず。）まあ…嫌いじゃないけど、大人でも子供扱いする人は嫌だから…年齢にそこまで拘らないかも。そうね。解くわけにいかないのが残念だけど。会社員…って、幅広くない？でも色んな地方に転勤とか出張できる会社員って楽しそうよね。海外主張も憧れちゃう。（小さなスーツケース転がして飛び回る姿に思いを馳せつつ、伸びしろだらけの腕には「腕を鍛えるなら…懸垂とか？鉄棒でやってみたら？」と無責任な勧めも。そんな思考に現を抜かすと容易く揺らぐ足元は寸前で持ち堪え「大丈夫！」と明快に返した。）意識したわけじゃないけど、やっぱり日本じゃ味わえないスケールの海じゃない？ポケモンは氷とドラゴンが好きなのよ…まあ氷は溶ければ水だし、まあ近い…？（嫌いではないのだろうと結論を導きながら、）高橋こそ全部海絡みじゃない…というか、この環境なら普通は海か水に行きやすいんだと思うわ。（理由を環境に丸投げして、今は海から離れて高台へ。海ばかりでなく空にも目を向けるべきだと知った夜。）分かる。高台だから余計に近くに感じられるし。なるほど！BGM、考えもしなかった。（虫の声も不思議と優しく空気に溶け込み、騒々しいとは感じない。「もちろん。マイペースに楽しく集めたいし」と笑いかけ、迷わず隣に腰かける。満天の空の下、心地よいテンポの語らいは暫し続く。）