(失って、夏。)

(今日は特によく晴れていたから、砂浜で海を眺めるか際を裸足で歩くだけだった普段を捨てた。楽しそうに水しぶきをあげて燥ぐ級友を眩しそうに眺め、吸い込まれるように黒のクロスビキニ姿で海へ入ったのはつい先刻のこと。現在、賑わう顔見知り達から多少距離を取った位置にて、布を失った素肌の胸を両腕で覆いながら海よりも青く白い顔で水面に肩まで浸かって硬直していた。)…………………お゛ぇっ…(現状のあまりのショックにえずいた。動き回るクラスメイトの群勢から離れた所で一人、ぴくりとも動かず固まっている姿は視界にさえ入れば寧ろ目立つ筈だが、生憎そこまで思考が追い付いていない。目だけを忙しなく辺りに這わせ目的物を探せば、)あっ、(少し離れた場所にそれらしきものを発見した。一度だけ周りを見回せば、一時的に隠すより取り戻すことを優先。肩まで浸ったまま両腕で海水を掻き分けながら全力で向かう先、その付近には男子生徒もいる事に、限界状態の女は未だ気付かない。)
北村伊鶴 08/01 (Sat) 09:02 No.2
(常ならば顔の印象を左右する眼鏡は、砂浜にて留守番と相成った。誘われるがままにこの地に来て何度目かの遊泳は、プライベートビーチたる立地のお陰か見知った顔ばかりで躊躇いも寄せて返す波にさらわれ消えていく。誘われたと言えど基本的には個人行動、水泳力を試すと言い残した友人の背に向かい、)気を付けろよ。(と言えば綺麗なフォームがあっという間に見えなくなる。まだここから出るより身体を包む清涼さを謳歌したい気持ちの方が優勢で、少しだけ波に反するよう手を動かした。結果、緩やかに砂浜との距離を穏やかに広げていった。のだが。)う、っわ……なんだ今の波……(沖に背を向けていたものだから比較的大きな波の不意打ちに思わず漏れる声。それと同時、なにかが指先に触れた感触。素直にそれを引き寄せた。)……は?(一度、二度、三度。見事な三度見をキメたがその手の中のものはワカメに変身するでもなく、ビキニのままだった。なんたる漂着物、と無意識に周囲を探った視線が一人の姿を捉えた。捉えてしまった。)あー……っと、(咄嗟に視線は抜けるような青空へ逃避。)北村もしかして、探し物してたりしねぇ?(控えめに掲げたそれの持ち主かという確認、大事。)
江坂匡 08/01 (Sat) 22:28 No.12
(黒いビキニしか映り込むことのなかった視界に彼の姿がフェードインしてきたのは、波で一時見失った目的物を探すべく改めて視線を周囲に巡らせたから。その距離凡そ数メートル圏内の事。)ひっ  ッんぶ、げほ、げほっ…!(驚き声にならぬ短い悲鳴を上げ反射的に後ろを向くが、誤って海水を飲み込んでしまい咳き込んだ。背中を向けたまま片手は咳込む口に当て、もう片手は彼に平を向けて一旦ストップのサインを送れば)ごめん江坂、それ、それ、…ゲホッ……ずずっ…、(涙目鼻をすすり後ろ向きから顔だけ僅か振り返って頷きつつ、辛うじて返した意思表示で果たしてどれ程伝わるか。水面下、中腰のまま砂浜を爪先で必死に掴みながら後ろ手に伸ばせば)と、取れちゃって………ごめん、あの、ここまで投げてもらえるかしら………届く……?(小さい声で簡潔な状況説明そこそこ、ここまでと伸ばす手で水面を弾く。露わとなっている耳や頸は嘘みたいに真っ赤。水温が1℃上がったかも知れない。)死にたいわ………やっぱり入らなきゃよかった……泳げもしないのに……(普段は浜辺から遠目に眺める事が多かったから、彼がもし海で遊ぶ頻度がそれなりにあるなら、その姿も見かけていた事があったかもしれない。)
北村伊鶴 08/03 (Mon) 17:48 No.34
(この出会いが幸か不幸かは、天より注ぐ太陽のみが知っている。互いに動揺を貼り付けた顔で状況把握に忙しい、少なくとも男の方は。)っおい大丈夫か!?……あ、おう……分かった、待つわ。お前が落ち着くまで。(突然の咳き込む音に反射的に動きそうになったのを見透かされたみたいだった、伸ばされた手に傾いだ上体がゆっくりと元の位置に戻ってゆく。正しく待て、の体勢で彼女の落ち着きが波に揺られ戻ってくるまで待機しよう。ただし手にした漂着物が、ある種の現実に引き戻してくるのだけれど。心頭滅却すれば火もまた涼しと言うが、海水もぬるくなるような心地だった。滅却出来ていない何よりの証だ。)投げ……いや、そうだよな。あー……波に浚われねぇようにしないとな。北村、もうちょい手伸ばせるか?(己が踏み出せば良い話なのだが、今は近付くことにさえ躊躇いを覚えるシチュエーション。互いが互いに必死になっての受け渡しがどうか成功しますように、普段信じもしない神に都合よく祈り黒色をそっと放った。)まあでも、……折角だし一回くらいは海ん中楽しむのもありだろ。いやまあ、こうなったとしても俺じゃなく女子に見つけてもらえたら良かったんだろうけど。(相変わらず何処を見て良いか分からず、定まらぬ視線がただ揺れる海面ばかりを映し出す。「大丈夫か?」と主語を定めず問うたものに、色好い返事が来ることを期待して。)
江坂匡 08/04 (Tue) 23:57 No.50
(もうちょいの言葉に、限界まで伸ばす指先をじたばたさせながら、やがてどうにか布を捉える事が叶えば溢れた「よし!」のトーンが上がった。背中を向け水中に浸かったまま紐を首に回して探りの手つきで結ぶ最中、彼の話すifには苦笑いの相槌を打ち)ええ、大丈夫。む、す、べたかしら……ちょっと見て、リボン曲がってない?解けなさそう?(胸部に元通りに布地が装着されたところで、中腰から漸く立ち上がれば胸下辺りで漂う海面。首裏と背中で固結びを重ねた蝶々結びを確認してもらおうと、そちらへ向けて江坂チェックを受けるつもり。それを終えた所でやっと振り返り正面から顔を合わせれば)………いや、何かちょっと恥ずかしいわね。(目を見る事が出来ず、幾分血色良い顔を手の甲で冷ましながら目線を浅めに逸らしつつ)拾ってくれてありがとう。今の事故は今生江坂と私だけの秘密でよろしく頼むわ。…ね?(1年1組男性陣の中では比較的落ち着いており面倒見も良い印象が強い彼が相手だからこそ、取り繕わない正直な懇願と一握りの甘えを駄目押しの一文字を添え。そういえば、と顔を上げれば)誰かと遊んでた?もう少し一緒にいてほしいんだけど。(辺りを見回してから、再び彼を見ればもう一つ素直な言葉を選んで差し出し)なんて言うの、この失態を江坂以外の人間に更に見せるかもしれない怖さ…?もしまた外れたとしても、見られるのがまた江坂ならもういいかみたいな……(離れた所で遊ぶ級友達を遠目に)ところで江坂は泳げるの?泳げるか。
北村伊鶴 08/06 (Thu) 10:24 No.58
(これ程までに物の受け渡しに緊張を強いられたことがあっただろうか。15の夏、記録更新間違いなしのやり取りは願った形で結実する。あるべきものがあるべき場所へと収まる、大団円の道すがら。)ん、大丈夫だと思うわ。めっちゃきっちり結んである。(ようやくしっかりとその姿を見ることの出来る安心感よ。結われたリボンの強固さを感じては太鼓判を押し、この騒動にもエンドロールの流れる気配。眼鏡という中和装置のない眼差しは少し彷徨って、彼女の頭辺りに着地した。)……ほんとにな。いや、どういたしまして。掴んどいて最終的には良かったわ。勿論、墓まで持ってくつもりだからそこは安心してくれ。(素直さには素直さを返すように請け負って、そこでようやく微かに笑った。──騒動には終止符が打たれても、プライベートビーチでの時間はまだまだこれから。)や、一人だけど……っは、なるほど?それもある種の信頼と受け取っとく。いーよ、俺もこれやりてぇとかは特に無かったし、北村に付き合うわ。(彼女の素直な言葉が2コンボ、軽やかに決まったようだった。海水のかかった髪を軽くかき上げて、ようやく男も正面から彼女の顔を見ることが出来た。)まあ、人並みに?っても足つかねぇとこ行くつもりはあんま無かったし……力抜いて浮いてるだけでも案外海は楽しいと思うけどな。(泳げない、と少し前の彼女が口走った言葉を思い出しつつ、声色は努めて穏やかに。暫し思案の空白ののち。)なんなら手でも貸す?
江坂匡 08/07 (Fri) 00:57 No.69
(自分の目が届かない部分のチェックも、頼り甲斐のありそうなお墨付きを頂けたなら漸く安心出来るもの。此処で初めて真面に顔を合わせる事が出来たのは、きっとお互い様だろう。今更その顔に物足りなさを感じれば、徐に指を二本立ててカニのようにちょきちょき閉じたり開いたりしながら)……見える?(普段眼鏡を掛けている人が掛けていないイコール目が見えない、の方程式を疑う要素は今の所なく。お願いをしたとて、余程のことがない限り断られる事はないだろう当たった予想は所謂江坂匡への信頼であり、同時に邪気の無い甘えと紙一重。それじゃあ、と続けようとしたもう一つの願望がまさか先回りされて言い当てられようなら、驚きに双眸を丸めて瞬かせて)なんてデキる男なの、江坂匡……。丁度今私も、もう少し深めの所まで連れてってって言おうと思ってたの。(だから、その提案には当然「貸す!」とここ一番に威勢の良い返事を返せば、早速急かすような瞳と共に両手を差し出しておねだり。間も無く掴む事が叶うならあともう少しだけ沖へと連れて行ってもらおうか。手の力が徐々に強まるのはカナヅチの証拠として)浮き輪で浮くのと、身一つで浮くの、やっぱり全然違うわよね。………(沖に向かうにつれて胸から肩、首と水面が迫る中、掴む手が力むせいでちょっとずつ沈んでいく自身に気付けば、更に全身が力む悪循環。顔を慌てて水面から出しながら)う゛、浮かないのは、なんで…!?
北村伊鶴 08/07 (Fri) 19:26 No.73
(主語のない問い掛けに、ほんの僅か常より軽い顔ににやりと笑みをのせた。中和装置のない分、凄みが増したかもしれないが。)見えてる。伊達だからな、あれ。生まれつきのこの顔をな、ちょっと和らげたい苦肉の策ってヤツ。(真似るようにして人差し指と中指を左右に動かす。視力そのものは悪くない。ただこんな風に隠すことなく理由を紡げるのも、喉元を過ぎたあの熱さが強烈だったゆえかもしれなかった。最初のハードルが高ければその後、大体のものは飛び越せるような気になるものだ。)デキる男。……初めて言われたわ、フツーに嬉しいなこれ。おう、任せとけ。(ぱちくり瞬いた瞳は嬉しげにゆるんで、唇からは大言壮語が跳ね飛ぶ。先程水着を介して伸ばされた手と手は何も障壁なく重なった。)……まあ確かに。浮き輪は絶対的な安心感?って気ぃするけど、この場合だと頼れんのは己のみ、みてぇな。まあ今は俺もいるけど。(砂浜を再び背にし、果てなく続く水平線へと二人三脚。純粋な身長差もあってか、彼女の方が海水に身を浸す割合は高かったが。)力みすぎてるからじゃねぇ?……とりあえず深呼吸してみ。手ぇ離さないから、大丈夫。お前は浮ける、海の中でも楽しめる。(とん、と軽くその肩を押すのはリラックス促す為。位置取りを変え、彼女が手足を伸ばしやすいようにしたのなら、)手も足も伸ばしてみ。縮こまらないで、全身でこう……海を感じろ!的な。(その強張りを少しでも取り除かんと、やや笑いを取りに行くような声色で。)
江坂匡 08/08 (Sat) 07:28 No.80
あ、そうなの!?(驚きは素直に、目を瞬かせれば改めてその顔を凝視してから)…いやでもあんた、眼鏡ない方が格好良いんじゃない?や、単なる私の好みかも。(自分もあまり顔つきが穏やかな方ではない自負があるからか、湧く親近感は声色の柔らかさに乗る。自分が先に始めた癖に、同じく立った二本指を見れば此方は掌を返すように拳をグーと握り彼のチョキへ押しつけ、負けず嫌いはにんまり悪どく口角を上げた。繋がる手から伝わる安心感へ縋るように固く握り締めながら、少しずつ沖へと向かう最中の話題はまるで水泳教室のようで)…………っ、……ちょ、っと!笑わさないでくれる?!(言われるがままそっと伸ばした手足で水面に身を委ねようとしたところで、彼の恐らく良かれとした茶々が入れば軽く噎せかけ、その場に爪先立ちで顔だけを覗かせながらチワワのような怒声を上げる。水面の下、依然としてその手を離すことは絶対ないけれど。)あのね、笑ったら力んじゃうの!OK? はい、もう一度!(全面的に助けられ誘導してもらう立場ながら偉そうな態度は変わらず、改めて爪先を砂浜から離せば漂うことに努め。不器用で頭でっかちなカナヅチは以降もなかなか浮くことが叶わず、されど彼のお陰で二人きりの水平線はやがて笑い声と水飛沫で賑わうだろう。例えばコーチがそろそろ帰ろうと言い出したとしても、まだまだその手を解放してやるつもりはない。)
北村伊鶴〆 08/09 (Sun) 19:12 No.98
(素直な反応に鋭角な瞳も角度をやや緩めたように。)世の人間が皆北村みたいな好みだったら良かったかもな。(と言いながらも吊り上がった口の端に見え隠れするは喜色。彼女の突然の裏切りにて始まった石と鋏の一騎討ちには白旗掲げ、その手をそのまま助けるためへと差し伸べた。泳げる身ながら男は男なりに彼女の浮遊の手助けをした、と思っていたのだが。丸い牙で噛まれたような、痛みのない衝撃のみの怒りの声が一直線にこっちへ向かって放たれた。面食らったように瞬くも、続く言葉を理解すればなるほど、と言いたげに息を吐く。)オーケー、今のは俺が悪かった。(まるでホールドアップを要求された罪人のような一言だ。)リラックス出来ることってなんなんだろうな?今日の夕飯でも考えるか……いやそれもちげぇか?(自問自答モードはこれにて一旦ストップ、叱られはしたが任を解く気配のない様子に再度重ねた手を間違っても離さぬように軽く力を込めた。離してしまったその日には今度こそ鋭く磨かれた牙にて貫かれるだろうから。)……いや、さっきよかマシになってるはずなんだけど……なーんか浮いてる、って素直に言えねぇんだよな。(改善は見られたもののしっくり来ないと言いたげに首を傾げる場面なんかがありはしたけれど。時にはその足を砂巻き上げ地に付けても、再びのチャレンジには一も二もなく己の手を差し出して文字通りの手助けに徹したこの一日。浮けようが浮けまいが、楽しいという気持ちが彼女の中に残っていたなら──結果良ければすべて良しというやつだ。)
江坂匡〆 08/10 (Mon) 00:06 No.99
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