（楽しい時間への瞬発力はある方だけれども、日中すこしはしゃぎすぎて部屋で昼寝をしたのは失敗気味。飛び起きて、持っていきたいものたちを引っつかんでかけ足で会場へ向かったのは言うまでもない。スウェットショートパンツのポケットに突っ込んだモノたちの重みを感じながら、しっかり手に入れた花火を持って別荘庭つながるビーチにしゃがみ込む。波打つ水色を縁取る白い泡。丸い頬を潮風がなでればたそがれるシチュエーションとしては満点。ごそごそと音を立て遊び道具を両手にセットする背中が絵面における減点対象だろう。）うわ～～っ！ひろ、いいところに！！（お声がかかれば掴まれる感触に逆らわず振り向いて瞳かがやかせた。そして事のいきさつを順序よくたどるなら彼女の閉口のまにまにニマニマ）同棲したてのカップルみた～～い～い～～よ～～っ！（どこまでも軽い了承のあと。前触れ無く立ち上がって“なにしてる”の答え合わせは、）見て！強そう！！　　でも、聞いて。火がつけらんない。（左右一本一本の、指の間にススキ花火とスパーク花火を交互に挟み、見せびらかす気分はウルヴァリン。真剣な顔つきでお悩み相談である。）

そりゃそうだよ、あばれるし出口ふさぐし、なんか邪魔する！（予想通りの駄々っ子は暴力的な妨害行為を並べ立てる。あぶない単語を口にはするが、彼女のまとう和やかさにつられて、終の礼にヘヘッと声あげ目尻をちぢませ笑い合った。自信満々戦闘スタイルに存在した、考える頭があれば分かる致命的ミスはおっしゃるとおり。）そっ、ぉ～～なんだよね～～～。（しまったやれやれと言わんばかりに目をふせ首を横にふるけれど、）でしょ！！ウッ、　こうして～こうして～～相手ビビらしてる間にひろが火つけてくれるから大丈夫！チャッカマンあるよ！（肯定的な言葉をもらうなら変わり身の速さはマッハだ。顔を上げて、しかし再び正論を前にしクリーンヒットの衝撃で口をすぼめる。花火を持ったまま腕をぷらぷら泳がせ威嚇ポーズを作りながら、スーパーひとりでは何もできないマンを証明。そこそこ、と示すため水の入ったバケツやら残りの花火やらを爪先で指した。さて本番というところ。）………………。（ゆるみきっていた表情筋がかたまる。）……、しなかったら？（無言ののち、先生みたいなことを言う彼女をじっと見つつ。）

（近しい距離でつづくifの話。好きを問われて言葉より行動で示そうと、途端彼女の手辺りへつむじを向け「やってみて！」）え～～っ？！このあと火がつきオマエの顔に火花が直撃するぞ～～のおどしなんだけど！ジャッジもチャッカもできるマンになってよ！（もはやひとりで奇行を赤子に笑われる図。そんなのはさみしいため目を逆三角にひっくり返しては動きをとめて、異論と無茶ぶりを飛ばした。チャッカもできる（ウー）マンが道具を手に入れたのを見届ければ、あとは着火待ちだったけれどそう上手くはいかず。重心を下に置き体まで構える。先生あるいはなんだかお母さんぽいその心は、）ぷぅ～ん、（面白みを感じない途切れには、ちゃちゃ入れと半眼のつまんない顔。）ひろがワル！（次の言葉には、やや予想外が目を再び開かせて、もう一度問いかけが鼻先にただようなら）…………、したら最後線香花火もいっしょにやって。（唇を結んで、数秒、怒られた子供のように眦に力込め尖らせた先っちょ。）走らない回らないジャンプしない、ちょっとじっとしてる。

んふふっ　かもぉ～～？あたしは気持ちい～～～ひろだから！（無防備な頭をさらし待つ間はわくわく。間もなくやさしい手付きが触れれば笑い声はたまらずもれるしくせ毛の先がぴょんと上向きに。大人しさとはまた離れるも、従順の理由を彼女のセリフに上乗せした。普段の行いゆえの自業自得だったが神妙な面持ちで“ちょっと”と保険ふくませた誓いを立てて、お褒めの言葉をもらうなら打ち変わった笑顔。）よおっっっ、しゃっしゃっしゃ……、ん゛んっ（また注意されたら元も子もないので喉鳴らし最後は抑えた。）うっわあ～～きれ！！あっ？！あははっいるよ！えっ？ひろどこ？？（両手の花火がまばゆい光を発しだしたらもうテンションはうなぎのぼり。立ち位置は変えない安全運転で手元をすこし揺らしてやり、煙って動揺するもそれすらおかしく声をあげる。先生から見えてないと知った一瞬はぐるぐる腕を回したけれど、バレたところで色鮮やかのきれいさを免罪符に許しをこうだろう。けして多くはなかった火薬たちが終わりを見せる頃合いで、光にやられた目は線香花火のひかえめな彩りを収めやわく笑む。）ほんと？でもあげるんじゃなくていっしょに楽しくしただけっ。……う～～んどうしよっかな、肉食べたし～てかひろは帰るっしょ！（悩むそぶりの先、決めつけの種明かしはすぐ「スマホ部屋に忘れてたし！」。出立前の気づきを加えつつ自らのポケットを漁って）とかね、はいど～～ぞ！　　　あ。（腰の重みの原因だったモノを渡したその時。オレンジの玉は名残惜しげに落下の軌跡を描いた。）