（南の島にも夜は来る。しかしながら随分と日が長く感じられるのは、きっとここが太陽に1番近い場所だからだと学のない男は考えていた。夏が味方をしている今、男は何も怖くない。そう、炭火さえも。）うわーーっ！！（バチッッ！！大きな音を立てた炭に体が数センチ飛び跳ねた。怖くないのである。）……ははは、こういうのを自分でやるのは初めてでな！少し驚いてしまっただけだよ。はっはっは　さて野菜でも取ってこようか。（炭から逃げるわけではない、断じて。すでに十分足りているはずの野菜を補充すべく身を翻した折。）…ん？　ろうそくに火か？……炭！？やめたほうがいい、あまりにも危険だぞ、危険！！隙あらば襲いかかろうとかしてくる！！！（言い逃れは最早不可能。制止の緊迫感だけは一丁前にあった。）おお、花火か！楽しそうだな！やはり夏は花火をしなければ終われない。…火なら僕があげようか？（そうして取り出したるはチャッカマン。ふふんと勝り顔で清水を見遣りながら）ただし条件がある！

おいおい笑い事じゃないぞ！さっき炭に威嚇をされたんだ！流石の僕でも素手ではいかん、僕をなんだと思っているんだ清水！！（危機感皆無の清水へ言って聞かせるように声量が増したが、何か言うたびに間抜けが露呈するだけだった。予測から窺える印象を問い質すように指先突きつけ、相手の声が高くなればつられて声が大きくなる条件反射。ここが騒音の中核になる時も近い。）む！確かに…言われてみれば…そうだ！！（日本語の不自由さは今に始まったことではないが、気持ちはスタートダッシュをしたばかりだぞと弁解しつつ心底納得呈す。彼女の促すような言葉に誘われるまま、はじ～まら～～）ない！！　あ、チャッカマンはあるんだがね！（声高に最後の二文字を引き受ければ勝手にスッキリした。こっちは手に持った点火棒を揺らし脅迫まがいの発言には正気か…？みたいな顔をする。）なんて卑怯な女だ…クラスメートの右手が灰になったら後味が悪いだろうが…。（「そんなものを欲しがったら僕はド変態だ、ただちに新品を自分で焼く」とフランクフルト案は一蹴しつつ、カチ・カチ…とオイルの無駄遣いで焦らしたのち。）条件は…………僕も花火に混ぜろ！！（だって花火をしなきゃ夏は始まらないのだから。）

…なにぃー！？何故バレたんだ！？僕がこの間のテストで最下位だったことが！！（勝手に見抜かれた気になった冷や汗、結果頭まですっぽり埋まりそうな墓穴を掘っただけだった。もちろん最下位の頭では紙一重のことか？なんてカッコよく差し込めるはずもないが、恥ずべき経歴も清水のフォローにかかれば「そうか…天才か…僕らはこれから育つということだな…！？」と非常に満更じゃなく、無礼にも主語で彼女を巻き込んだ。ETごっこに勘づけばこのあとはキミを自転車のカゴに詰めたらいいか？と笑いながら。）確かに引火した瞬間に火を消すべきだな…海に清水を投げ入れるか…。僕はあの炭に立ち向かわなければ肉も満足に食えないのか…！？だがしかし清水の言う通りだな、ソーセージと野菜はいけそうだ！（焼けんくない？の正しい言い分にはショックを受けつつも元来の大雑把さが同調を齎す。拍手を浴びればすっかり気を良くして「こう見えてハンダゴテも使えるんだぞ！」といらぬ自慢まで飛び出した。優り顔のうちに軽やかにあっという間にかけてった陸上部を目弾き込で見守っているが、色良い返事をもらえたらワーーーッ！と主張者に駆け寄るV6のように清水の元に走り出す。）残像！？なんだそれは！？オタ芸のペンライトのようなものか！？楽しそうだ！！折角普通じゃない状況なんだ、普通じゃないことをしよう！！（そうと決まればバケツだなんだの用意をいそいそと。）

なにー！？無駄に最下位ということを晒してしまったじゃないか！！しかしこうなると笑うしかないよな、はっはっはっ…はっ………、赤…点………？（笑い事じゃないというのに彼女の笑いに便乗して大笑いの最中、拾った単語に目が点。「そもそも何点からが赤点だ？」と食った豆鉄砲さえ理解してない有様。すっぽかしである。国外逃亡をこの年齢で経験したから余裕をもってして清水の視線を受け流し、「僕を乗せて自転車を漕げるのか？」とエンジンブレーキの自覚満々で舐めてかかった。）僕の方が被害がでかいじゃないか！それはヤバ！！だな！清水には自力で海に飛び込んでもらって…、焼いてくれるのか！？この際キミには言うがかなり恐ろしい…。（早々に見捨て宣言をしたわりには自分は清水に甘える情けなさを露呈してしまったわけだが、肩透かしに終わる前置きにはずっこけそうな心地。「ラジオだ！手でぐるぐる巻いて聞くやつ！」と返答向けつつ時差で提示された条件には笑いが漏れる。）ああ構わない、言い出しっぺが先にやる法則だ！キミにはモデルとして撮りがいのある動きをすることか条件を与える！（もはや条件というクールな響きを乱用したいだけだった。ロウソクを手渡されると「やったことはないが多分できる！」と根拠の無い自信を掲げてああだこうだしながら準備完了。火花を浴びる事がないようある程度の距離を保ち、）こちらきったか、準備は満タンだ！ロマンスを捧げろ清水！（準備は万端、と言いたかった。どうしてもオタ芸から離れられない呼びかけで指丸を振り回す。）

ゴチのようなことか！？ならば…セーフだな！！つまりは心置きなく遊んでも良いということだ！！（同輩の言葉にくるんで不安要素は捨てた。自信満々の主張には「なるほど確かに立派な太ももだ！」は純然たる感心とは言え対女子にあるまじき無礼ではあったが清水ならば笑って許してくれそうな気もするので、二人で自転車に乗る機会があればET役に就任することとしよう。炭とのタイマンを快諾してくれたら良いヤツだ！の印象が橘鷹の中で固まり、「一度トマトを焼いてみたいしぐるぐるのソーセージも食べたい！」と注文つけつつ今夜は彼女に連行されたぶんだけ連れ回すつもり。楽しい夜はもう始まっている。花火で大きな丸を描く清水を愉快そうに見守りつつ）いいぞー！大方捧げられてるだろう！いいぞいいぞもっと回してみてー！ちょっと角度変えてー！（徐々にカメラマンじみているのは無意識。名前を呼ばれれば液晶越しの平坦な彼女ではなく生身に目を向ける。）…おおおーっ！ステッキだ！！スターなステッキに見えるぞ！！コーデはちゃんと登録しているか！？（輝く双眸は見覚えのある動きに大変興奮した。丁度島にいることだしと張り切って連写した写真は数枚以外はほとんどブレブレで、果たして彼女からどんな講評を頂戴したんだったか。次いで選手交代、人差し指で描かれた手軽な星の筆順を目線が追いかけて。）…いい考えだ！！たくさん書いて天の川を作ろう！！（彼女の言葉に全面賛成、星5で済ますつもりがない銀河が駆ける。点火して火花を弾かせたら、二人じめできる星空を作ろう。）