（誰に尋ねられたのだったか。この南国バカンス出発前にやりたいことは？との言に挙げていたものが一つ、この度めでたくミッションコンプリートのテロップ掲げてウインクしていた。黒のタンクトップにアロハシャツと言うには少しばかり色味の大人しい白地にシダ植物めいた特徴的な葉が舞うシャツを重ね、カーキのクロップドパンツにビーチサンダルで薄闇纏う庭の様子を窺うような緩やかな歩調だった。）なあ、ここ肉残ってねえ？（が、しかし。一つのバーベキュー台の前にて立ち止まり、先客たるクラスメイトに投げ掛けた問いは風情やら情緒やらとは真逆、食欲に全振りされていた。）さっきからもう食われてて焼けんの時間かかるって言われっぱなしなんだよな。三連敗中。……ここでもねえならもう今食えるものでおすすめプレゼンでもされたらそれ迷いなく選ぶレベル。（鳴りこそしないが立派に空っぽな空腹携え、初勝利か連敗の積み上げか。その答えはクラスメイトのみぞ知る？）

お。マジか。（喜びよりも驚きが先立つような声色だった。手にしていた空っぽの皿の上がようやく賑わう予感を胸に、遅れてやってきた喜びが男の顔を緩ませる。）焦げる前に全部美味しく食うわ。……嫌われてたかもしんねぇ、俺は割と肉のこと好きなんだけどな。まあでもここまで探しに来てようやくありつけるとなると、その分美味く感じられんじゃねぇかな。（彼の厚意をありがたく受け取る形で盛られていく肉をチラ見する。「森地はもう存分に食ったん？」とは彼の持つフルーツに目を留めて。）ありがとな。……んー、ここに住むコと結婚する、か……もういっそマリリンさん？らに弟子入りとかすりゃいんじゃね？……熱っ、……うまっ。（冗談交じりでこの地への永住条件を好き勝手浮かべていた唇に放り込んだ肉、ジューシーな肉汁が舌の上を駆けてはその熱さに一瞬だけ眉を潜めるも、追うようにやって来た旨味が全てを許した。）漫画か？みたいな金持ちだよなあいつ……でもこれが無かったら俺パスポート取ることも無かったわ。（初海外ですと言外に告げ、肉に息吹き掛け熱を冷ます。二口目もやはり、美味かった。）

今俺も愛されたから問題ナシ。（肩に乗る手にふは、と短い笑いを漏らし空振りばかりだった時間への終止符代わりとしよう。）そんな良く言ってもらえるもんでもなくねぇ？ようは気持ちの問題だしー……って、そうやって思ったこと素直に言えんのも美徳のうちだと俺は思うね。（盛られる肉を見ては期待感に浮き足立つ心が、広がり始める薄布みたいな闇に紛れて真正面からではあまり言えそうもない感想を落とす。）フルーツも美味そうに見えんの、これも南国マジックなんかな。……マリリンさんじゃなくても、地元のコならありか？けど、あー、まあそうかもな。住む、ってなるとまた別だし、今みたいにお客さんしてんのが一番気楽説あんな。（口に残る旨味を噛み締め、気分上々で打つ相槌も何処かリズミカル。考えるような間は挟むも、声色は軽かった。）去年は受験前でほとんど勉強だったな、けど海はなんやかんやで毎年行ってっかも。泳がなくても雰囲気が楽しいっつうか。森地の夏は？（口をつけていない方の箸先をマイク代わりにそっと向け、即席インタビュアー。最も仮のマイクはすぐに箸に戻り肉を口へとイン。）普通……じゃねえ？俺は今お前が初海外仲間って知ってちょい安心してる。日本も好きだけどな。森地は他どっか行ってみたい国とかあんの？（海外初心者マークを互いに貼り付けた男同士、手探りな疑問符が飛び交う。）

褒めたわ。（ツッコミと呼ぶには勢いのない一言が飛ぶ。彼の素直さがまた一つ露になったなら軽く唇の端吊り上げ、まだ己の皿に残る肉をお裾分け。）部屋で食った方が、なんつーか……色褪せんの早そうな気はする。（味のみでなく付随する記憶に思い出の質は左右される、そんなぼんやりとした心地で残り少ない肉を大切そうに摘まむ。）こっちの奴らってめちゃくちゃ積極的なイメージねぇ？俺だけ？……そこか、もしくはもう顔だろ。（身も蓋もない一言を落として咀嚼する肉。ハートも大切だと否定はしなかった、最終的には「ナンパしてる森地あんま想像つかねぇけどな」と明らかな笑い声を潜ませた言葉にてこの話題に終止符を打つか。）だろ？山よか海のが夏らしさある気ぃすんだよな。……あー、規則正しい生活送れてるよな、案外。いつもだとどっかで昼夜バグってたわ、俺。（美味しい朝食を伴にクラスメイトと語らう朝の始まりを幾度となく繰り返した、繰り返せた身は納得の頷きを緩く返す。が。）……もうちょい上手くなってからもっかい聴かせてぇ。（発展途上との自覚ある南国の音色に渋い顔を隠さなかった、これもまたこの地に来たりて縮まった友との距離を示す要因か。）お、渋いとこ選ぶな。遠そうだし割と掛かりそうじゃねぇ？……けどピラミッドのてっぺんに立つ森地想像したら謎の感動が湧いてきたわ。（可不可はともかくとして、脳裏に描かれた絵面のお裾分けには確かな笑みを。皿の上から肉が無くなるまで興じた他愛もない会話は、何もなくたって記憶に刻まれたに違いなかった。）