（網の上で焦げていく肉や野菜を見かねてトングを持ったが最後、暫時次々頃合いになっていくそれらをサーブする側に落ち着いた。網の上には現今トマトとモッツァレラのホイル焼きとデカい鶏肉がメインで鎮座。焦げついて炭になったところをトングでガリガリしていたそのとき背後から声が掛かればビクッと竦めた肩が下りきらないうちに振り返り）びっくりした……。肉を求めて人肉に手を出すのは追い詰められすぎてない？ちょっと冷めてるかもしれないけど、良ければそこ。（焼き上がりに誰かの口へダイブ出来なかった肉が皿の上で小山を作っている。火のそばで汗ばむ顔をタオルで拭えば、珍しく額を晒して夜風にひと息。）どっちも飲むんじゃないなら、どっちかくれる？（見るからに冷たそうなグラスに視線が奪われお伺い。足元のクーラーボックスの蓋を開ければ牛肉のパックがこんにちは。）待てるなら今から焼く？カニバリズムって言うくらいだし、三国なら生でも（薄く笑い混じりの風采は冗談めいたけれど、つと言葉を止めたなら）……って思ったけど、それで腹痛くなって寝込まれたらいやだな……。

（びくつかされた張本人の表情に眉間に僅か皺が寄るものの、飢えた男に肉与える方が先決とばかりに世話を焼く。）ピーマンマンもびっくりな量だな…。（視線が緑で埋め尽くされた皿に落ちれば半ば感心した風采。しみじみ味わう姿に小さく笑い零し、ありがとうの声と共に受け取った烏龍茶を一口呷れば喉の渇きを実感した。）たぶん三国よりは食べてるよ。段々箸とトング持ち替えるの面倒になって、焼けた肉のストックが出来てた感じ。うん、じゃあ頼、あっ、火傷気をつけて。あとたぶんそこだと風向きモロだから、こっち。（トングを手渡しながら場所の交代もしてしまえば、パックごと牛肉の運命は彼の手に任せた。尻込みに同調する笑みが徐々に強張っていくさまを彼の面前に晒したのち、誤魔化すように咳払い。）想像の内容がリアルで怖いし、もし、おれがそうなったらどうしようって考えちゃったよ、今……。恨まれるのも普通に怖いし、おれは三国のその過信が危ないと思うなあ…。（神妙な忠告はそも焼き方次第でただの杞憂に終わる。乾杯の慣習に触れていない男は先んじて飲んだ一口分に後ろめたさを感じながらも頷いた。）うん、乾杯。　　　ごめん、おれ慣れてないんだけど、こういうときってもっと何か言うもの？（同じようにグラス掲げながらも、一抹の不安憶えて問う。ホイルの中のなんちゃってイタリアンが食べ頃を報せて湯気がのぼった。）

ど、どの辺が？三国にドキッとされても始まるものないけど、おれレベルで大丈夫なら三国のドキッとハードル相当低いんじゃない？（意図を掴み損ねた顔ばせは戸惑いに塗れたけれど、同級生とは思えぬ大人っぽさを前に先行したイメージ有りきで意外そうな色を覗かせた。「じゃあエリンギ。そのホイルの中身はたぶん食べ頃で、その鶏肉をおれはやっつけたいところだよ」とリクエストと現状報告をゴチャ混ぜに告げては、己の皿にあった野菜を頬張ってスペースづくりに余念がない。）えっと、石橋にはまだ差し掛かってないのに、いつか目の前に現れるかもしれない石橋をつい考えてるタイプかな。咄嗟の判断って焦るしさ。まあ、想定してたところでうまく事が運ぶ訳でも、ない、けど…、（唐突な喩え話を野菜と一緒に咀嚼して比喩返し。網の上でこんもり山になった牛肉に頬はやや引き攣り、あからさまに失速した声は続けざま「やったな……」とジト目の眼差しを送っては、「味変したらいけるかな…」と小さなつぶやき。）流石にそれ言われたら三国との付き合い方考えるよ。あ、Cheers、……対現地の人なら良いけど、此処で英語って言い慣れないよな。ない？（イキリでなく海外かぶれの沼にダイブした感覚。何とはなしに押し寄せる含羞の内訳は微妙に違うだろうが、「何その顔？」と先手打った側へ送る笑いに遠慮もない。）あ、ありがと。今日は全然。一本くらいはやりたいな、あとで。三国は？もしかして遊んでて食べ損ねた？（まさかね的な響きで語尾を揺らし、牛肉の小山を切り崩そう。）

そういうものかな。今のはおれも煙は避けてるし、噎せた時の飛沫考えて……って言うの、も（つい溢れた本音は湿原との自覚があるから尻切れ蜻蛉。噎せたふりして咳払い。）三国は人と…女の子と、歩く時に車道側に回ろうとするの？（あからさまな話題の挿げ替えはあわいに香ばしい匂いを充満させながら、モテるモテない談義で前者に傾倒したことのない男は苦笑気味にないないと首振る程度の反応が精々だ。「3、7が妥当かな」と肉の山と対峙して3で自分、7で三国を指差す配分は笑いながらもその実本気。）バジル良いね。さっきその辺でクレイジーソルト見たよ。おれ、家でそこそこ料理するけど、三国もそんな感じするな。そんな事ない？（彼ほどの食欲はないからもしもの提案には頷き、それでも着実に肉を咀嚼しながら目が探すのは浮かれたパッケージの万能調味料。かろい肯定を前にニュアンスの違いを感じることもなくまずは相槌の首肯。）大体そんな感じ。授業は授業だって言う大義名分があるからまだ平気だけど、今のはちょっと雰囲気に飲まれてたなって。ああ、分かるよ。おれも焼いてなかったら彷徨ってたと思う。でもおれ、三国はもうちょっとスマートそうな印象あったよ。（大人っぽい見た目だけの印象が未だ根強い中、打ち明け話への同調で芽生える仲間意識はささやかなれど喜色を生む。意外な間の悪さだけでなく、子供っぽい願望を耳にするも直様考え及ばず、変な間が落っこちた。）…え？誰に？おれに、じゃないな、テロだし……。あれ、待って、おれもしかして今共犯にされてる……？

おれは肉にありつけてたから。（下腹部さすりながら蓄積分をアピールするも、薄べったい腹は少食を否定するにはきっと弱い。会話はしっかり咀嚼と咀嚼のあわいにて。）ジャンキーが好きなら、此処での食事も肌にあってる…のかな。もうハンバーガー食べた？……味音痴の自覚あるって、みんながまずいって言うものでも平気とか、そういうこと？（五感の内でも感覚共有し難いと思えばこそ、純然たる疑問がポロリ。「ローストビーフとか食卓に出たことないよ」「オムライスなら、練習したからそこそこには…？」スーパーのお惣菜コーナーで見掛けたレベルの料理に首振り、一応のアピールとして料理らしいものを持ち出した。）……これ、今、うん、って言っていいとこ？見た目の期待値高い分、求められる中身のハードルも高いのは、…世知辛いっていうか、まあ、羨ましくはないな……。ドンマイ。（人には人の悩みがあるのだと実感する傍ら、「海外の女の子には刺さるかもしれないし…」は根拠もへったくれもないからフォローと言うより気休めに近かった。漫画ならたら～んと汗マークが顔についただろう表情で、狐の笑みと対峙しよう。持ち掛けられた時点で答えは決まっていたようなものだ。）……最初のターゲット、おれが選んでいいなら。（了承の意を省略しながらクラスメイト見回した先、怒りはしなさそうな橘鷹と秋吉を安全牌と密かに任命。非日常の開放感にほんの少し流されて、付き纏う懸念と心配性は煙と一緒に夜空にたなびく。思惑が成功してもしなくとも、頑是無い笑みが口許を飾った。）