（非常事態にうまく対応できる人間ばかりじゃない。少なくとも高代は、おのれの手を取る男に対してなにを喋るべきでどう行動すべきかを決められずにいた。ただただ触れられた場所を起点に鳥肌が駆け抜ければ、眉間にしわを寄せて不愛想なかお。聞き慣れたクラスメイトの声はおそらくここから助け出してくれる救世主のそれだ。）待ちくたびれた。あと5分遅かったらついてっちゃったかも。なにしてたの？どうせかわいい子追っかけてたんでしょ。（矢継ぎ早に投球するめんどうな女を演じることば。渾身の大根演技は遁走の一助にすらならず、「マンゴーの入ったスムージーがよかった～～」の駄々もまた同じ。ナンパ男の手が離れ、彼の指先に引かれるがまま逃げ出せば、もう背後に奴のすがたはない。あっかんべ、でもしとこっか。）ぜんぜん合意じゃない～～もう交渉する前に決裂してた……。（解放された安心感と脱力感からか砂浜にしゃがみ、しょんぼりしたニコちゃんマークを指先で描く。計三個。おおきなため息で精神的疲労を吐き切れば視界にようやく彼を映した。）お邪魔虫じゃないよ、どっちかっていうと救世主ってとこ。ありがとね。てか、あんなに颯爽と助けてくれたのに急に失速しすぎじゃん？おれが助けました！て堂々胸はってくれていいのに。（それはハリボテが露見し始めていることを暗に示唆しているのか。ともかく「それにしても助かった。ありがと～～」と感謝は最大限に告げる。）

（言葉に詰まらなかっただけ上々の即興芝居は逃走劇を演じ切るまでがインプロ。もうすでに喧騒が蔽ったナンパ男の陰を態々探すことはせずに「いいかんじに甘い彼氏だったね」と賛辞を送れば、バカップルからクラスメイトへ。すこし名残惜しい気がするのは即興コントが存外楽しかったからなのかもしれない。）すごい悪口言うじゃん。ちょっとかわいそうになってきちゃったな……。（毛ほども容赦のない物言いに、いまや顔も声もうすぼんやりしている男へ哀れみすら覚える。言われた通りに手のひらを凝視すれば「たしかに」と笑って二度ほどつついておいた。）さっきの、タッパあるって言ってたけど三国のが背高そうだね。何センチ？（立てば30cmは上にありそうな彼のてっぺんに向け疑問を投げる。気遣いを真正面から受け止める程度には素直であるから首を縦に振り、隣り合って砂遊びに興じるさまは年相応とは言い難いが、スマイルにキラキラを足して三割増し明るくしておこう。）押しよわっ。予定あっても無理くり時間作って遊ばん？くらい言ってもいいんだよ……。（徐々に尻すぼみになっていく誘いに、どうにもこみ上げてくる笑いは飲み込めそうになく。）ちなみに予定はありません。なので～～遊びましょう。おもいきり。（ピンクブラウンは太陽光によく透ける。ねずみのしっぽみたいな一つ結びをひと揺らし、立ち上がれば腰に巻いていたトロピカル柄のラッシュパーカーを着た。）そのドラゴンフルーツドリンクおいしい？

わたしは三国にもうちょ～～っとオブラートに包んでほしかったな……。想像して背筋ぞわってした。ぞわって。（ナンパ男の卑しい心情をド直球に言い充てるさまに二重三重の層を求めるのは「見てよ鳥肌」とおのれの腕を見せながら。手のひらをショベルカー代わりに砂をかき寄せ城づくりを試みるも、夢だけ大きく経験が伴わなければすぐに崩れ落ちよう。砂遊びの末路だ。）つむじ押すとどうなんだっけ？（しゃがんでいれば身長差はゼロも同じ。誘いに乗って曰くレアなそれを覗こうと、キリンは無理でもアルパカレベルを目指し首を伸ばした。）情けなくはないけど～～ちょっとおもしろかった。うそ、かなりおもろい。わたし断んないからそんな絶望背負わんでもっかい誘ってよ。（保険をかけないやり直しをねだって奸悪をかき消さんとし、「ほれほれ」とごていねいに催促まで。）水着に観賞用とかあるん？おもいきり遊べるやつだよ。ビキニのおねえちゃんよか防御力高いと思う。（背中のレースアップはともかく正面から見ればワンピース型の水着、海の端から端へ遊びつくしても大丈夫な程度に戦闘力（生地の丈夫さ）は有しているはず。繰り返されるチラ見をガン見で返しつつ、）可もなく不可もなく？（泳力に関しての回答はそれに尽きた。）飲む。（とは言ったものの、未知のものに対する心の準備は必要だ。サマリン到着のテンションでスタバに行ったときとは違う。差し向けられたストローに近づいては離れてを二度繰り返し、三度まみえれば意を決して口にするところ。）

三国はふだんどんなこと考えてる？（徐々に引いていく鳥肌のなか、たとえば彼のはなしを聞いてみる。それが先の男とちがって穏やかなものであることを願いながら、へたっぴと評された砂山を更地に戻し「手本みして」と要望を。）え、ごめん。（時すでに遅し。腕がつるほど伸ばした指先で彼のつむじを押したあとだ。）指で頭蓋骨割るとかどんだけ怪力なの。おなかいたい？（刺された釘への反論もそこそこに、半ば笑いながら腹痛の心配。求めたTAKE2の出来を批評せんと開いたくちびるは早々に笑声を語る。）誘い方が一か百かしかないん？（時計の外周をなぞる指を眸がたどれば、急な強欲に笑って正直な一言。しかし馬鹿にするような物言いでもなく満足げに「ぜんぶあげるよ。もう一周あげてもいいくらい」と上乗せしてリテイクはOKだ。）ラッキースケベなんてそうそう起こんないよ。たぶん。心配ならしょうがないな～～これでおっけ？（せっかくの休暇に気を揉むならしょうがない。パーカーの前を閉め防御力は10割アップ。視線を遮る手のひらの横から顔覗かせ「にらめっこ弱そうだね」と横道にそれた感想を落とした。）いちばんのおすすめは？（並び連なった提案の中で最たるものを訊ね、急かされればようやくストローに口をつける。未知の味とはなんとも例えがたく、頭の中でフルーツを列挙し、そのうち「ん～～」と諦めたように声をあげた。）キウイってひらたいのが長男でいちばん甘いらしい。（たぶんキウイに似ている。でも言葉はそれを語らず、ただただ関係のない雑談となりはてた。）

そういうのは面白みがないんじゃなくて平和っていうんだよ。（なにごとも解釈は前向きにとらえて損はない。彼がしょうもないと語ったそれを「スナフキンみたいじゃんね」と喩えたのは慰めでも甘やかしでもなく、大体似たようなことを考えているおのれの自己弁護。蛇に睨まれた蛙には程遠く、じろりと覗く眸を前にちょっと笑ってしまった。）正露丸あげるからゆるして。（口だけは許しを請う。笑ったまんま。）欲出してくるじゃん。もう二周追加しとく？てかどっち～～着るの？着ないの？（ジッパーを上げたり下げたり、また上げたり。「水着が？」と彼のかわいいを深堀りするたわむれの最中、面倒くさくなった右手は前を開け放って終い。）これが案外よわいんだよ。たのしいとすぐ笑っちゃうからね。（にらめっこが弱そうだと笑っておきながらの自白。顔に出やすい性質なのはお互い様で、ジュースへの世辞も愛想笑いも忘れてしまえば内心を言い充てられるのもしょうがなかった。）だ　だって～～三国にもらったのに「びみょ～～」とは言えないじゃん……。でもびみょうだった。ごめん。かなしいから次こそおいしい南国ジュースのもう。（正直な胸のうちを吐露すれば絶品トロピカルジュースを夢みて空を仰ぐ。彼の学びに「そうやって人は成長していくんだよ」といいこと言った風に頷けば、ごみ捨てがてらの散歩はスタート。）まだまだ～～。あ、海底散歩するのたのしかったよ。潜水艦のって。スーパーでサマリン限定カップ麺食べ比べもおすすめ。三国は？なんかおすすめある？

じゃあ今度わくわくすることしよっか。たとえば～～寝起きに「おはよ、これからスカイダイビング行かん？」みたいな。ふつう？（事前了解を得る程度に良心的なたとえ話は紐なしバンジーよか生還率も高い。喩えられればよろこび、次いで語る「ミイも冬眠するって知ってた？」とはムーミン谷の冬事情。伸びてきた指がおのれの頬をつねると、）いだだだだ。（たいそうわざとらしく痛がった。鏡のように彼の頬も引っ張っておあいこ。）半分て。間とったな～～選択肢増えてんじゃん、みっつに。（ジッパー半分、防御力5割。先のバカップル芝居を思い出しては「ちょっと言ってみたかったんですよ」とわがまま彼女を演じた台詞を弁明し、笑い声はふたりぶん重なった。）始まったばっかだかんね、まだまだ笑うことたくさんあるよ。笑いすぎて死んだら骨は拾って～～。（天井知らずなよろこびもたのしさも南国の風にあてられ増幅中。箸が転んでもとはよく言ったもので、視線がかち合うたび無性に笑えた。）おいしいの飲も。奢りますよおにいさん。あ、でもまたけばけばしい色の気になっちゃったらどうする……？（安全牌を求める理性と挑戦したい本能とのはざま。スタンドへつま先を向け「行こ」とリベンジマッチ（vsジュース）を急かし、まばたき多めの忙しなさで遠目にジュースの色を覗き見た。）わかる……。山も行きたくなるよね。映画ロケ地歩けるのもあるっぽくない？（海の目の前で山への羨望を語り、「三国、波乗っちゃうの？あんなかんじ？」とあざやかに波乗るサーファーを見て訊ねた。）

あ、それ、すごくわくわくするやつじゃんね。（お誘いの舞台は上空から地上へ。QOL高めの隠れ家ブランチへ期待が高まれば、手近な冒険心に誘われたくちびるは締まりなくにやけ顔。毎朝みんなで朝食を、のルールをどうするかは追々考えるとし「くちゃくちゃどころかぐっしゃぐしゃ」と予想を語って空を見上げてみた。）わ、（背を伸ばされたら指はすっぽ抜け。小声の「ずる～～」は体格差を嘆くものの、笑いまじりの拗ね方は本気ではないことを物語る。）今日だけで何回かわいいって言った？ひ～ふ～み～……　3回？（出会いがしらの即興劇もちゃっかりカウント。ここでまた「水着が？」と尋ねればループするもんだから「もったいぶってんの～」とジッパーの意図を笑い飛ばせば、照れ隠しも兼ねた未成年の主張ができあがりだ。）三国って自分以外みんなコロポックルだと思ってない？見えるよメニュー……。（おのれの頭よりずっと高い位置にある彼の眸を見上げ「つむじ見える？」と訊ねて、ごくごく平均的な背丈でドリンクメニューを眺めた。今度こそおいしいものをと言ったくせ見た目だけで選んだ七色のグラデーションは何味なのかわからず、彼の選択へは「それ絶対おいしいやつ……」と一口ちょうだいをアピールした。）ちょう楽しそうだよね。映画好き？　わたしは好き。ちっちゃいころラプトル飼いたいなって思ってた。（時計の針はぐるぐる回るが、たのしい時間の最中に時間を確認するのは野暮というもの。ちなみに選んだジュースは中々おいしかったので今回は挑戦者の勝利である。）