(ターミナルの片隅で。)

(念には念を入れて準備したお陰でパッキングだらけのスーツケースの中に不備は大凡見当たらない。慌てて買い足すものも無ければ集合までの暫くを好きに使えるから少女の足取りは軽かった。レモンイエローのシアーシャツから覗く腕を見下ろしながらメモを確認、爪先は成田第1ターミナル5F へ淀みなく。軈て開けるのは地平線の果てない飛行場。広大な滑走路を前に覚えずに息を呑む。)すごい…!(「ベストビューポイントは展望デッキ…」と腕に散見されるメモは出発前に成田空港HPで確認した注目ポイントで、飛行機に無縁だった16歳が興味惹かれたのも無理からぬ話。等間隔で置かれたベンチには心地よい風にまどろむ人々がちらほら、肩から斜めに下げたボディバッグの取っ手を握りしめたら手近にあった望遠鏡に張り付いて遠くを眺望する。どでかい鉄の塊も真っ直ぐ続く滑走路も出発前の醍醐味だった。)
小田仁希 07/05 (Sun) 01:12 No.93
(腹拵えも充分に、行く先求めて目を凝らした館内案内で一際心惹かれたのは成田第1ターミナル5Fであった。そうして、心決めた目的地の扉押し開いた先に展開された景色は存外心を踊らせる。頬撫でる風に押し負けることもなく爪先は格子を向くけれど、ふと見遣った隣にはカシオレ色が太陽みたいで眩い少女がいたから、)小田。(端的に知った名を紡ぐことに迷いはなかった。僅か数センチ距離を更に縮めることで、離陸の鉄にも負けずに声は鼓膜まで届くだろうか。)小田がいるんやったら、ここに来ること選んで間違いなかったわ。──どう。望遠鏡でイケメンの航空整備士さんとか見える?(重ねた目弾きは相好の色を変えずして、きっちり結いた三編みだけが揺らいだ。けれど冗句を乗せた舌は随分ご機嫌に回るから、)小田の今回の旅の楽しみポイント、わたしも知りたいねんな。メモってきた?(少女の腕のそれへの予想と期待孕んだ眼差しで、好奇は瞬く。)
巽志真 07/05 (Sun) 01:52 No.95
(望遠鏡越しに臨む滑走路の先の先、空地の曖昧な境目を探そうと躍起になっていたから一度目にもし名を呼ばれていたとしても気付かなかっただろう。レンズ越しの視界を呆気なく手放した。)なんで小田なの?(質問に質問を返す不躾さを尖塔と化す唇が気にする素振りはない。巽の頭上にもし疑問符が見えたらご丁寧な補足は「7月4日のお昼休み覚えてる?忘れてたらいやだな」と過日の称賛を穿り返す心算で、まどろっこしい希求は勿論半分は冗句の範疇だ。残りの半分は冗句に潜ませた立派な本音。斯くして少女の合点を待たずに唇を開く。)キムタクみたいなパイロットはいなかった。南国でイケメン見つけるっきゃないよ。(肩竦めながら眦下げたら収穫ナシのポーズに乗せて紡ぐ台詞は大凡不釣り合いな逆ナン宣言、跳ねる言葉尻ひとつひとつが数十分に控えた非日常への飛び立ちを待ち侘びる証拠だった。)もちろん。聞きたい?(斯くして事前準備を怠らぬ性分は腕に散見される文字列により明白、この奇癖を既知であると羞恥心に駆られるも兎も角だ。)やっぱ海だよね。”朝昼晩違う表情を見せてくれるので、用がなくても行くだけで楽しめます。”だって、あとはとにかくフルーツがおいしいから現地でしか食べれない亜熱帯フルーツたくさん食べるのもおすすめ。あとくじらウォッチング。これは絶対だよ。(几帳面な文字列を読み上げながら煽り風受ける睫毛を持ち上げたら、どう?はその期待孕んだ視線への答え合わせ。)
小田仁希 07/05 (Sun) 22:35 No.112
よう覚えてんなあ。(Whyにも返答しない横暴さが顔を見せたのは、胸裡に渦巻いたのが羞恥に違いなかったせい。頬擽る風で含羞誤魔化すようにして俯いたのもほんの僅か、鼓膜揺らした彼女の声ひとつひとつが弾んでいたから眦下がった面持ちを隠すのはやめた。)英語の勉強ついでにナンパする方法ネットで読んでん。「アンタ、逮捕されたことある?そのかっこよさ犯罪級やで」って英語で言うんやって。イケてへん?(実用する自信は更々ない癖して勉強と称した耳年増を恥じる様子もなく宣っては、風に靡いた後れ毛を耳に引っ掛けた。)うん。(整った文字列が彼女の声音に正確に乗れば、それは即ち愉悦の共有にも似ていた。ひとつひとつの情景を瞼裡に描く刹那、目弾きひとつで心踊るには充分だ。)話聞いてるだけで、宙に浮きそう。今のセレクション聞いてて、くじらウォッチングはわたしも絶対行くって心に決めた。イルカもウミガメも見たいなあ。(彼女の示した解にご満悦は見て取れるか、さりとて最後の疑問符には眉を寄せて小首捻れば眸の先は彼女の細腕に落ちた。肌の色が残っている部分があれば、インクのつかない人差し指はそっと柔らかな前腕に伸びる。)「た・つ・み・と・あ・そ・ぶ」。これが足りてなかった。(唇の動きをなぞるように爪立てずに人差し指を動かせば、多少の擽ったさもあったかも。悪舌は冗句を好んで、しれっと唇は自然三日月を象った。)
巽志真 07/06 (Mon) 22:39 No.125
誤魔化した?(いらうような半目はその根源を察するには想像力の欠如が邪魔をしてつまんなそうな口吻で紡がれる。仁義も希望も持さぬまま希求はすげなく却下の体裁、眦下げた面持ちを双眸に映じて辛うじて留飲を下げた。アメリカナイズというよりはキザったらしい台詞が耳朶打てば空気が抜けるような笑みが鼻面を引っ掻く。)ふ あは、今SATCで再生されちゃったそれ。チャレンジしてみる?(開放的な南国の雰囲気に当てられて大胆になれるかもという所感は恥は掻き捨てのやけっぱち。「そのためにはまず悩殺水着が必要」と形から入るタイプの提案はくるりと回した人差し指が愉し気に遊ぶ。)ウミガメ!みたい。産卵するところみたいな。でも朝昼晩海でだらだらはしたいよね。観光しつくして何もすることなくなったくらいが一番楽しみどきかも。(観光地の南国で何もしない贅は一般人の貧乏性には薄い期待だが時間は有り余るほどある。奇癖の名残る腕先に注視されたら今更ながらの羞恥心で「なに?」は風に攫われる程度の音量で、やわらかなペン先が触れたら拙い音が心臓を打つまでは秒だった。)遊んでくれるの?約束?いっぱいだよ。 たくさんね。期待しちゃお。(せっかちな性分は拘束具のような言葉を重ねて言った言ったね言質取ったよとばかりのヤカラっぷり。ペンがあれば一筆頂いたのになと身軽な現今へ舌を打つが取り合えずまあ耳朶にはしっかり刻んだので良しとするか。「志真と沢山遊ぶ。いこ。」と繰り返すは稚拙な幼児の如く、軈て果てのない夏に浸る。)
小田仁希 07/07 (Tue) 09:58 No.129
(たった二音、されどそれが上手に喉元を潜らなかったのは意地の悪さでもない癖して、はにかむことすら出来ぬ不器用さで唾を飲んだ。数時間後に辿り着く未開の地への期待を押し被せる程の技巧は持たずして、少女の揺らした人差し指を眺め入る眼は確かに喜悦を映じる。)SATCに出てきそうやった?よしよし。…悩殺水着、持ってきた?わたし現地調達のつもりで買ってないねん。どんなんにしたらいいと思う。(ごちた声音が鉄の塊による喧騒に負けたとて、隙を窺って約束取り付けんと下心は見え隠れするか。日常において垣間見ることなどない海の生き物への所期と共に自身を晒した口吻は飄々と告ぐ。)ちょうど時期的にも産卵の時期やから、運が良ければ見られるかなあ。感動するタイプ?わたしは意外と泣くかも。うそかも。どうかな。──青い海見てボーッと過ごすん、贅沢の極みちゃう。泊まるところから海近いんかな、近かったら一緒に贅沢な青春しよ。(少年の為人を想起したならプライベートビーチの存在とて違和感は微塵もなかったから、手近な口約束を取り付ける舌先はよく回った。)うん。約束。  万が一、仁希が覚えてなかったら何回でも書くから覚悟してて。いい?(何でもないふりを懸命に装った二文字を上手に音にできた自信はない。もしも及第点に届かなければ少女たちの期待を乗せて空を飛ぶ機体のせいにしてしまう心算で、空を仰ぎ見た眼差しは青の目映さを一心に吸収した。)
巽志真 07/07 (Tue) 19:56 No.133
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