（ぐうぅ…。空腹を知らせる合図は、授業中と違ってこのだだっ広い空港の喧騒では自身にしか聞こえなかったろう。それゆえ羞恥心なぞ微塵も感じず何食わぬ顔であやすよう朝食抜きの腹を擦る。お腹空いたなとごちる言葉もまた雑踏に溶けた。）………あ。（足が漸く止まったのは目当てのカフェを見つけたからではない。パスポートに挟んだ航空券を鞄から取り出して確認する。やっぱり。男の目に映ったのは11：00発、サマリン空港行の搭乗ゲートだった。ともすればがらんどうの空港内、当てもなくカフェを探すのも一気に面倒になるのがこの男の性分だったから、少し戻った先の土産物屋でサンドイッチとコーヒーを購入すれば、搭乗ゲート付近のベンチへ腰掛けた。流石にまだ人はまばらで、荷物置きにも横のベンチを贅沢使い。ガラス窓の奥の真っ青な空と航空機をつまみにサンドイッチを食す。――そういえば、）機内食……。（あるのかな。思わず口をついて出た一言は初海外旅行への憧れ半分、サンドイッチを今食べて良いものかという不安半分で、ぱくついていた手が止まる。）

～～～～～っっ！？（びくっ。驚きで上がった肩を硬直させ、覗き込まれるより先に何事かと振り返り先ずは犯人確認すると同時、）びっ　　　くりした……秋吉か……。（眼鏡奥の瞳を瞬いて見知った顔に安堵。したのも束の間、）いや、人違いの可能性残しつつ驚かせるのは今後やめたほうがいーよ、絶対。（悪戯大成功でなく自身と同じように安堵、からの明朗な笑声上げる彼に正気か？とばかりに双眸細めて真面目なアドバイスを。「遅めの朝ごはんかな。」と横に移動した彼の質問に答えたなら、いやに耳馴染んでしまったあだ名が響くから）わざわざ言い直すなよ！絶対わざとだろ……！！なんか発音まで完全にハムスターになってる気がするし絶対面白がってるよね……。（強い語気で咎めた後、諦めたような溜息と視線を彼へと向ける。多分スルーするのが正解というのは冷静になれば分かることだが、見た目ほどクールでない男は此方を見つめる期待孕んだ瞳のままムキになってしまった。それが性分。彼の茶目っ気もきっと性分だからと半分諦めモードだ。）ビーフもチキンも肉じゃんて思うよね日本人は。ていうかやっぱ機内食ってお昼時だし出るのかな。……そっちは朝食べた？お腹空いてない？（言外の食べない？を袋に残った方のサンドイッチを差し出して紡ぐは未知なる体験の食事はサンドイッチよりも価値ありと判断を下したから。今満腹にはなりたくないところ。）

（“面白い”のニュアンス違いを突き付けられれば、何が違うんだ？と眉根を寄せて暫し考えあぐねるも、次いだ疑問符に意識が寄った。）普通に高橋か凌かな。あだ名付けられるよーなタイプでもないし。そっちはなんて……、かもめが多そうだね。（答えを聞く前に勝手な予想を口にする。「珍しいし言いたくなるよね、かもめ。」言葉を付け足すのが先だったか理由を聞かれるのが先だったか。人懐っこいから、は別に言わなくてもいいか。）はは、そっちが結構食べる人？うん、どーぞ。機内食食べられなくなるの、なんか嫌だし。（不味いか美味しいかも分からぬ未知のものに期待膨らませ、小食寄りの己と対するような彼の食欲旺盛な一口を横目に小さく笑えば此方も続きを頬張ろう。）俺も海外は初めてだからわかんないけど、4時間ぽっちで出るものなのかと思って……でもまあハナワの手配した飛行機だし出るかな。（最後はあまりに雑な結論付けだったかもしれないが当たらずとも遠からずだろう。釣られるよう視線を大きな窓ガラスへ移すと当たり前のようにまた青空へと飛行機が飛んだ。）初飛行機なら尚更そうだろうね。奈尾の横に座ったら？アンタのわくわくとポジティブがちょっとは移ってあの人の助けになるかもよ。（毒気を抜かれそうになる彼の純真さに口元に緩く弧を描いて、あと数十分後のフライトをおもった。）