（ここに矮小な憧憬を告白しよう。レモン柄のシャツはためかせ爪先翻したるは人魚が手招くMacユーザー御用達のシアトルコーヒーチェーン。白デニムのハーフパンツから伸びた足を組んでスタバのカップ片手に時折滑走路を轟音で駆ける飛行機を鳥瞰。抜けるような蒼穹に細める瞳は室内なのに何故だかサングラスに覆われ、木製のテーブルにはMacBook。Googleのトップページがでかでか陣取るだけのそれはお飾りと誰の目にも明白だろう。大志を抱け少年と囃される世で語るべき大いなる夢に矮小という頭語を付したのは、「一度はMac片手でスタバで作業してみたい」という憧憬のイキり散らしたダサさを自覚していたから。作業の内訳はほぼがらんどう、スマホと空を覗く頻度の方が高い現今、それでも窓越しに映じる自分に若干満足気。空港を選んした理由は無論知り合いに見られたくないがゆえ。因みにカスタマイズはコーヒー&クリームフラペチーノwithコーヒークリームスワールにエスプレッソショット追加のコーヒーホイップクリーム増量所謂幻のフラぺチーノである。）

（舌に馴染まないカスタマイズで噛んだ分だけイキり感が増したが誰も見てないのでセーフ、興じて見れば特段面白味のない事を実感だけして緑色のストローを舌先で齧った折。室内なのに態々視界を危うくする意味を見出だせず現地調達のサングラスを外した双眼が、耳障りなシャッター音と色彩鮮やかな花を捉えるのは同時だった。）う　　っわぁ…。（不躾な一言はけれど絶望に塗れてありありと「一番見つかりたくないやつに見つかった感」を醸していた事だろう。朗々たる声で称賛する少女と相反して文字通り頭を抱えたら今すぐ消えたいが高じた台詞は）誰か殺して　や　スペンサーでいい　殺して…　俺を……。（ありんこくらいの声量で。隣に座った頭の天辺を眺めたら「俺のこころは灰色だよ…」とそのレインボーカラーと比喩して沈鬱度が増す。）　み　っ　見たくない…。（平素いいねいいよを繰り返す男とて容易く同意出来ず「消して」と懇願しても効力が薄いと判じたのはその愉悦塗れた声に依る。）　あぁぁ　（チラっと見てまた死んだ。）イキってる……（またチラ見して死んだ。盛れてるだけに羞恥心上乗せ。）あ　あのさ、これあげるからそれ　消しては言わないけど誰にも見せないで…。（対動物宛ら餌付け作戦。頼んだは良いがまだ手を付けてないシュガードーナッツを指差して交換条件を掲げた。）

お前を殺して俺も死ぬ。（不躾な悪舌が耳朶打てばポキッと折れた心はそのまま目尻の水分に反映して憎まれ口は一気にスラムの体裁。巫山戯た唇も不埒な指先もきっと撤回を望めないから諦観混じりにその加工の行末を隣り合い覗き込めば、「え、エモ」は途端に機嫌の天秤を傾けて満更でも無さそうなお顔。）え、ぜんぶあげたら消してくれてたの…？（今からでも歪な半円を光沢のある丹唇へ突っ込んだしまおうかと思考が擡げるも刹那、まあいっかまでは早かったから残されたドーナツを指先で摘みながら）聞かれたらこれ持ってきた理由はここでイキりたかったからって俺の死ぬほど恥ずかしいエピが増えるだけなんだけど、なんかいろいろあったよ。有力な情報があったら副産物で棚からぼたもちだけど。（EXCELもWordもパワポも無縁の画面には「サンセットを狙え！映えスポット！」から「まるでヴィヴィッドなアメリカンダイナー」とそれなりの観光地が目ぼしくピックアップされているが少女の琴線に触れるものはあるか否か。片手間に甘すぎる指先を舌先で舐めたらペーパーナプキンで拭って）そういうの好きそうだね。スペンサーの頭カラフルだし、いっぱい映えそう。したいことあるの？（たくさんありそう、は印象が先んじての言葉だが特段したいことと問われて思い付かない男はあわよくばご相伴に預かる企みで。）