(腹が減ってはなんとやら)

(海はおろか搭乗口さえ渡っちゃいない。集合してまだ一時間も経っちゃいない。それでもだ、それでも。)つかれた。(人ばかりの波の合間をくぐり抜けてもらったマップはだらしなく開かれたままの状態で床を見る。ぶらんと下がりきった両腕は脱臼している訳もないのに力が入らない。見上げた天井から日差しを見て黒Tシャツに熱がこもりそうだとどこまでも底を見た。ネガもポジもない。真夏の人波にやられただけ。改めてマップを見るがいまいち頭に入って来ないからお手上げ。ぐるっと丸めて尻ポケットに押し込めば行くあてないままに歩みを進めた。)あ なにしてんの。なんか食った?(たまたま見かけたクラスメイトに声をかけて現状を窺ったが、二言目が大本命。はいなら場所を聞けば良いし、いいえならお誘いのチャンスであるから。)
森地康太 07/02 (Thu) 20:54 No.45
(国際線だからこその、独特な空気は感じていた。行き交う人々の数時間後など知る由もないけれど、浮き足立つ喧噪は確かに生気を吸われる感覚すらあった。スポーツサンダルの数センチの嵩増しで床を踏むけれど、とりわけ欲するものがあるでもなく爪先の向かうは自身でも分からない。そんな折り、たまたまスマートフォンが通知で光るから、視線は掌中に落ちる。『送信者:父 添付ファイル:見送り動画.mp4』──して、再生を押すか人差し指が躊躇で宙を舞った瞬間だった。)ん? ああ、森地やん。わたしは今、世界一しょうもないもんをひとりで見るか見ずに消すか悩んでたとこ。ご飯?まだ食べてへんけど。(鈍感な脳裡は端的に事実のみを言葉とするが、目弾きを睫毛に乗せれば漸く思考はクリアに彼の意図せんところを導き出せたか。面持ちは揺らぐことなく、眼鏡の鼻当てだけを人差し指で押し上げて告ぐ。)どうせ今日から海外やから、最後の晩餐としてお寿司かうどん食べときたいなとはおもてた。かも。
巽志真 07/03 (Fri) 13:44 No.56
なにそれ。すごい気になるじゃん。見た後に消せば?………。(ある程度の予想はしていたのに全てを裏切った回答に本音が転がり好奇心が覆う。日本一ならまだしも世界一。与えた三つ目はそれっぽく聞こえるようしれっと告げたもの、欲求を隠す親切なんて散りばめ程度のお粗末さ。彼女の手の内に落とした視線は暗転していようとも不躾に覗き込むみたく。)お寿司とうどんか、どっちもいいな、俺はどっちでも。巽さんに着いて行くだけだし。でも勝手なイメージでわるいんだけどお好み焼きとかじゃないんだ、最後の晩餐。(まるで落ち合いましたとでも言わんばかりの口振りは彼女委ねの選択まで変わる事なく紡がれる。そこから繋がる粉もんは、彼女の色のひとつでもあろうまだ馴染みのないイントネーションから。何にせよ彼女の足が一歩でも前に出ない限り森地も出す事はない。ともに昼食?を取る、それが決定したのはあくまで、言葉にしていないから当たり前だが、森地の中だけであるか。)
森地康太 07/04 (Sat) 01:06 No.68
うーん…。(躊躇の色が確かにそこに存在した。歪になった眉と一文字の唇が心裡に等しい。さりとて巽の意思とは反して、現今真っ黒だったそれは最先端の文明とやらで軽微な傾きに反応して、鮮やかにロックまで解除してみせた。此処まで僅か0.2秒と云ったところ、偶然画面に触れた親指は再生ボタンに触れて──『志真チャ~ン!キラリン島?気をつけて行ってきいやピッカリ~ン!(頭に乗っけたカツラをスポッと外してツルッパゲを晒す父の映像)』。喧騒の中とはいえ、対峙した彼にとってはカクテルパーティー効果が無くともよく聞こえたかも。この続きは巽にも分からない。何故なら、親指が停止処分を下したからである。澄ました相好は崩れないけれど、確かに額には冷房直下の癖してじんわり汗が滲んでいた。)お好み焼きにすると、飛行機で酔ってウプ…てなったら、喉の奥からソースと鰹節の気配がするやろ?嘔気が助長される。三半規管弱いから、耐えられへん。さっぱり命。(淡々と弱点は喉元を潜って、足先は一歩音を鳴らした。次いで察してますよとばかりに彼に向けて掌を拱いては、些少な心遣いを宣う程度の余裕は持ち合わせている。)寿司にしよ。量、調整できるやん。
巽志真 07/04 (Sat) 13:36 No.74
(意識も視線もその一点に注がれていた為に彼女の心情を汲み取ろうともせず。瞬くよりも早い合間で曰く世界一しょうもないもんが映し出された。猿のノミ取り的な類かと思ったが全くそんな事はなくて、小さな画面からは有りっ丈のあたたかさが感じ取れて。ネタの云々はこの際そっと置く。ピッカリンと衝撃が笑いに変わって顔を反対側に伏せた。)フッ……、うん、うんうん フ……やっぱり消さないほうが良いかもな。巽さんのお父さんだよね。俺たちって今からどこに行くんだっけ、キラリン島も興味なくはないけど。(ふつふつと湧き上がる沸騰には至らないもの確かな笑いが吐く息に交ざる。消えたサマリンの響きを彼女に求めながら不釣り合いの汗に気付いて「暑いよな、今日」言わない方がよかったと前髪を冷風が揺らす。)ああ、しそうかも…。よし。最後の晩餐楽しみますか、行こう。あっち行ったらなに一番に食いたい?(想像で濃い気配が口内に広がり僅かに顰めた。異論無しと頷きひとつ返して隣に並べば食事の話題を広げる。無事に入店を終え注文を済ませ、それから食事が来るまでの間も来た後も波はなくとも平坦に会話は続いていく。そうして見計らったのか「てかさ」と切り出した後には──)巽さんのお父さん若いな、年とかそういうんじゃなくて、動画送ってくるところとか。さっきの動画もう一回だけ見れない?(その日少年は海を渡ってもピッカリ~ンが頭にこだましていたとか。)
森地康太 07/04 (Sat) 23:21 No.86
(海にはまだ暫く到着しないのに、心裡は随分漣の音が響く心地であった。さりとて臍で茶を沸かすことなど困難との巽の判定とは反して、沸点には到達せん迄も存外小さな気泡が浮くくらいには笑いを得られたなら、些かは安堵で眦が緩む。)なあ。見ちゃった手前、森地とわたしだけの思い出にしてや。おねがい。(口吻は懇願に等しく、しかし乞う割に相好は歪みもしないから口先三寸は想像に易いか。)そう、父親。きっとあのひとの中ではバラライカでも流れてるんやろうな…。わたしはちゃんとサマリン島でハナワリゾートを堪能すんで。一緒に行かして。(罪の所在はまるっと父にあると暗にアピール。汗ばんだ額も、冷房によってじきに体熱を下げる要因のひとつとなって、「向こうはもっと暑いんかな」と誤魔化す心算と共に腕を擦るに至る。)可愛げあること言うていい?クリームめっちゃ乗ってるパンケーキ。……あっ、ごめん、ちょっとこれも想像したら飛行機で酔いそう。森地は?なに食べたい?(年相応の願望を瞼裏に描くけれど、現実性との乖離に眉は歪んだ。カウンターで二人揃っての最後の晩餐は、荒波立つことのない緩やかな時間であることは言うまでもない。けれど、寿司ネタの青魚すら『ピッカリ~ン』を想起する要因となって、涼しい顔の裡に苦虫噛み潰す想いも確かに映じていたから、)たぶん構ってちゃんなんやと思う。恥ず…。森地の家族はどんなかんじ?──タダとは言わんやろ?(舌先に乗せた喚起は冗句の範疇に過ぎず、今一度寿司屋に中年の声が響く。「ピッカリ~ン!」)
巽志真 07/05 (Sun) 01:29 No.94
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