（まずは第一歩と手に入れた生花でつくられた首飾りをさげ青いキャリーケースをごろごろと転がして足を踏み入れたのは車移動に備えての買い物故。備えあれば憂いなし。少し車酔いしやすい体質を自覚しているため飲み物の調達は忘れるべからずだ。一直線にドリンクコーナーに向かえば広い通路のど真ん中に居座る金髪煌めくクラスメイトを見つけて小走りで駆け寄った。）か～み～さ～ま～の～い～う～と～お～り～！　って心ちゃん心ちゃん！ちょっとだけ寄りましょう、そこど真ん中なので…！（続きを勝手に引き継いで歌いながらもその右腕を軽く引っ張り体をドリンクコーナーに寄せよう。これで人ひとり分の通路は確保できた筈。）心ちゃんも飲み物調達ですか？せっかくなら日本じゃ買えないものがいいなあと私は思うんですが、（隣で棚を上から下までぐるっと見回して、掲げた指先が辿るのは母国ではお目見えできないような着色料のどキツイものをひとつ、ふたつ。そのなかにはもちろんケバケバしいショッキングピンクのグアバジュースも含まれていた。）

（ついこの前まで縁のなかったあだ名はまるで聞き慣れなくて、思わず吹き出すように笑ってしまいながらもせっかく付けてもらえたそれを拒否するつもりはなかった。件のブランド品などひとつも持っていないし高級志向でもないけれども。通路を塞いではいたものの店内は客で溢れているというほどでもない。大丈夫でしょ、と彼女と似たような笑みを浮かべて腕を離した。なにってこの女も大概浮かれている。飲み物を辿る指先だって御機嫌に跳ねていた。）あ～、確かにそうですね……、こっちのシュガーインって日本のとは違うレベルで入ってそうですし……、あの色はいかにも体に悪そうです。ザ・アメリカン！って感じ！（なにせ初めての海外だ。パッケージに書かれている商品名と簡単な説明の英語くらいは追えるものの成分表示までは理解できないし、日本では当然だったことが此方では通用しない可能性だってあるわけで。彼女の移り気な言葉たちにひとつひとつ頷きながら迷い始めたように顎に手をあてる。万国共通のそれを指差されれば「それは何だか負けた気もしませんか？」と何に対する勝負なのか自分のなかでも曖昧なまま眉を下げた。）う～ん、もうここまできたらこのグアバジュースにするか、こっちの何味かよく分からない緑のサイダーにするか悩んでます……。（ショッキングピンクか、鮮やかなグリーンか。）

（気になるものすべて籠に放り込んでレジを通せるのなら今現在の悩みは不要なのだが、お小遣いの額が限られている高校生はペットボトル一本だって吟味したい。曖昧な勝ち負けに重ねられたとんでも理論に隣でそっと頷いた。）夏、ですからね…………。（ついでに付け足すならばここは南の島だから。見知らぬものに挑戦するにはもってこいだろう。）そうです、ここはレッツチャレンジです！　私はここで一皮むけるって決めたので！チャレンジしまくりますよ！（ぐ、と決意を新たにするように拳を胸の前で握りしめながらにんまりと笑ってみせて、ふとくっ付かれたことに気づけば戯れに自分からもぎゅうと寄った。周囲からまったく押されていないのに勝手にふたりくっついている姿は他人から見てみればかなり面妖に映るだろうがこの異国の地で気にすることなんてない。）！　いいですねそれ、そうしましょう！緑とピンクが掛け合わさって舌の色がすごいことになりそうです……！（一度目を丸くしたあとすぐに破顔する。なんて名案だろうか。ショッキングピンクを携えて彼女に続きレジへ、緊張で僅かに顔を強張らせながらも事前準備ばっちりの英語ですんなりと会計を終えてから「もちろんですよ！」と大きく頷いて一緒に歩いた。甘いだろうと予想して口にしたグアバジュースは予想をはるかに超えて甘ったるくて吹きそうになって、シェアしてもらったアサイー味にも呼吸困難になるかというくらいに笑った。数え切れないくらいの予測不可能な楽しさが待っている、夏だ。）