（日本語、英語、中国語、韓国語。エトセトラ。様々な言語が飛び交うフロアでクラスメイトと集合のち、チェックインと共にスーツケースを預けてしまえば、小さなハンドバッグひとつだけの身軽さを手に入れた。足は宙を歩くようにかろいけれど、いざ立ち並ぶ綺羅びやかな免税店にはパスポートの真っさらっぷりとシンクロし不慣れは際立って、）……ここはまだ成田。いわゆる千葉県。まだ日本語圏や。焦んなわたし。（普段は縁のないブランドショップもこんな折だからとひとりごちながら踏み入れてみては、ちょっぴりお高いアクセサリーに心惹かれたらしい。しかし、確りと効いた冷房が場違いを嗤うように腕も心も冷やすから、相好は仏頂面を全面に象った。）

──フンギャッ！（眼前のゼロがやたら多い値札とのにらめっこに集中していたからこそ、背後の気配は耳朶擽るまで一向に気付くことはなかった。情けのない当惑の声は店内に響き、ショウケースに映る赤に漸く少女を認識することとなる。首を回すことで対峙叶えば「清水…自分…」と彼女の名を紡ぐ唇は喫驚を責める口吻で動いた。）こういうブランド品はなぁ、後生でも価値がつくんやで。なんなら値段もあがる。（淡々と脳裡で金銭勘定するけれど、そのじつ蛍光灯を反射して煌めくそれらに憧憬の眼差しもあったから、）ま、でも今は無理やから、将来ばり稼ぐ意欲にはなると思わん？正直めっっっちゃほしい。特にこれ。かわいい。（僅か下がった眦と共に本音を人差し指でアピール。その先にはシンプルなブランドロゴのついたネックレスがひとつ。して、彼女を今一度仰向いては眩い赤髪を双眸で捉えてから、ショウケースの一点に指先は動いて、）清水はこれが似合いそう。髪型、おだんご似合うから、耳におっきいん付けたら合うんちゃう。（確信めいた口振りで、シルバーのフープピアスをとんとんと示した。）

清水に忍者適正あるかどうか見んのに、今度撒菱したろ。（随分周囲の空気と相違しかない与太話はぶっきらぼうに唇を突く。愛想を貼り付けた店員の怪訝な本心と双眸が一瞬かち合えば知らぬ存ぜぬ突き通す心算で、さもずっとショウケースに夢中なさまを装った。）金目のモンは持ってたほうがええで。株とかより確実やからな。（現代版・移ろいゆくもののあはれ。それをリアリストなりの解釈とすれば、忠告じみた口吻となるのは自然か。無論、取り留めのない瑣事であることは百も承知だが、クエスチョンマークには此方の頭上にも特大の同じマークが浮く。）ん？もっと夢ある？なんや、石油掘り当てて、ここからここまで（ガラスの上を左から右まで人差し指が泳いで、指紋が残る）全部くださいってするんか？さすがに無謀ちゃう？（額正中に皺寄せての投擲は純然たる問い。けれど、海と空を連想する少女の指先はこの旅への期待にも似て心は溶けたから、）うん、ばかかわいいな。清水と一緒やん。ばかかわいい。…そしたら向こうで時間あったら一緒に買い行こ。英語でぼられへんようにせなあかんやろ。（貶める心算こそないけれど、言葉の綾を許してほしい虫のよさは健在で緩く眦を下げて、自身と共に行く利点はかろく声音に乗せた。）ん～、現地の色白金髪美男子のせいで40度の熱出たら考える？（度のない眼鏡越しに少女を捉えたなら、いま暫く教室みたいな年相応の応酬は続くだろう。いつの間にか冷えた腕と心は、気にならなくなっていた。）