（直近の試験順位と英会話能力はイコールじゃないというのは心のさけびだ。異国での買いものを乗り切ったのは単語だけを並べ連ねた粗末な英語とジェスチャー、それから幸運と直感。ボタニカル柄のシャツに南国気分をプラスするため購入したチープなサングラスを頭に、大きな花のピアスを耳につければ、浮かれた観光客Aが完成する。姉に頼み込んで借りたリモアの真っ赤なスーツケースをおともに散策の最中、見知った顔を視界に入れたらならば迷わず寄っていく。ガラガラガラと音を立てながら。）長旅おつかれ～～ねえねえ見て。サングラスとピアス買ったの。ど？南の島っぽい？（同じ飛行機で海を渡ったクラスメイトにさっそく購入品の感想を訊ねる。意気揚々と見せつけたのち、頭上のサングラスをかけてみての一言「暗い……」は浅はかな思考を晒したけれど。）もうこっちでなにか買った？（視界は再び明るい世界へ。サングラスは胸ポケットにしまった。）

そんなに染まってた？（一を聞いた感想は十になって返ってきた。観光客Aのつもりは現地人Bとなり得て、試しに「ハロー、ハウアーユー？」と不格好な英語を晒せばたちまち観光客Aに逆戻り。ともあれ彼女につられて笑えば耳の花が揺れた。）あっちの店にあった～～南の島っぽくてテンション上がったの。ほかにも色々あったよ、ニキも買う？おそろ。（指差す先には店先にアクセサリーの並ぶ雑貨店。「ピアスあいてたっけ？イヤリングもあったよ」と、お揃い目論んで予めピアスホールが開いていない場合の策も告げておく。おのれの行動に吹き出す様子を眸が映し「また笑った～～」と頬をツンとつつくも、表情は決して不満げではなくむしろ楽しげだ。）ちょうおいしいガムだったらしょぼくない、かも？いいじゃんまだ間に合うよ。シャランラ～♪ってしよ。サングラスかけてみ。（胸ポケットに入れていたサングラスを差し出し、浮かれた南国気分をお裾分け。スマホを向けられたら言われるがままにこやかにピースサインを見せるが「あ」と思いたてば彼女の横からスマホを覗き込んでみる。）インカメで一緒に撮らん？サマリン到着記念ってことで。

（辛口採点に不満げなくちびるはブーブーと文句を言いたげだが、おのれの発音を省みれば悲惨さを粛々と受け止め閉口。せめてもの10点アップを目指した二度目の「ハウアーユー？」も大した成長が見られなければ結果はおんなじ。）お、わたしも高校入るときあけたんだ。仲間だね。おそろしよ。（露わになった彼女の耳たぶを覗く。まだ何もついていないそこには、雑貨店に並ぶどの色のピアスが似合うだろう。よく笑う彼女のそれがともに在るたのしさ由来のものならば満足げに「じゃ～～許す」と最後に頬をも一度ツンとついて終い。）うっそ、博打なん？なんで買った？ジンギスカンキャラメル的なのだったら怖いな……。（あくどい表情を見とめれば道連れを確信し、口許を両手で覆う無駄な足掻きで後退る。彼女の撮った写真をまじまじと見れば「今日は格別写りがいい」と謙遜せず「名カメラマンじゃん～～」と彼女への賛辞も忘れずに。）あとでも撮るし今も撮る～～。あ、なんのアプリ？なんかいい感じのフィルターだね。（インカメに映り込むふたりの撮影会は周囲にも観光客の浮かれ気分を惜しみなく晒していたはず。「ぜったいだよ」と写真の受け渡しを念押しすれば、いざアクセサリー選びへ。）そうそう、これ。ニキ何色がすき？わたしオレンジだけどピンクもかわいいね。青もいい。（もう買ったというのに、彼女が選ぶのを自分のことみたいに楽しんでしまう。彼女の御眼鏡にかなうものが見つかったかは店の品揃え次第。でも、店を出たらとびきりたのしげで浮かれた写真を撮るのは確定事項だ。）