（真新しいネイビーのキャリーを引いての移動中、男の前歩くブロンドヘアの尻ポケットからふわっとハンカチが落ちて）あ、あの⋯、（遠慮がちに発した言葉は宙に浮いてまま喧騒に掻き消される。ゆえに欧米人特有の長い脚が止まることはなく、再度息を吸い込んだけれど、そもそも論"あの"で振り返ってくれるのか？エ、エクスキューズミー？…無理。こんなカタカナ英語恥ずかしくて叫べやしないとハンカチとブロンドを視線が彷徨う心の葛藤約1.2秒の後、選択するは無言の小走りだ。新品のキャスターは滑りも良い。筋肉質の大きな背を叩けば、落ちましたよと言わんばかりに眉を動かしハンカチを差し出そう。喋るのは諦めた。）⋯⋯え！？いや、あの⋯。（そうして熱烈なThanks!!に続く陽気な英語の機関銃にて戦死寸前。英語の成績は昔通だが、ネイティブの速さをまたも思い知りははと力なく笑うことしかできぬ気まずさに助けてくれと視線が泳ぐ先、）ねえちょっと⋯！！！（見知った姿を見止めれば必死のヘルプミー。たとえ同じ穴の洛だとて只々1人で対応したくなかったから、「とりあえず会話して。」と投けやりな選手交代は果たして。）

（欧米人の撃つ弾を一人で受けるにはあまりに体力もコミュ力もないゆえの有無言わさぬ形の呼び止めだったけれど、対する彼女もまた有無言わさぬ早さの拒絶だったことに絶対傍観してたんだと確信めいて此方から彼女に近付いて行けばきっと回避もできまい。無茶を振った自覚はあれど、感情豊かな彼女ならどうにかなるかとの打算も込みだったが己と同じよう被弾しテンパる様を横目で見遣ればさてどうしたものかと思った矢先、髭男も驚きのグッバイに戦車が去って行って――）……第一声グッバイて……しかもめちゃくちゃ元気良いし……、っはは。（戦場の焼け野原に二人して呆然とするも、清々しいグッバイを思い出せば徐々に男の口元は緩んでゆく。）あるわけないよ。逃げ方がわからなくて困ってたらアンタが見えてどーにかしてもらおうと思っただけだから。グッバイになって正解だよ、面白かったけどね。（最後は揶揄い交じりに引きずる話題を笑声で紡いだが、不安滲む彼女に「どーもありがとう。」と礼を述べれば己の救世主となったことは察してくれるだろうか。）ていうかほんとに皆わざわざ言い直すよね……このクラスの無駄な団結力は何？体育祭が楽しみだよ……。（言い直しさえなければそろそろ違和感のなくなってきた呼び名は多分次くらいにはもうスルーできそうな程の馴染み率。他にも食堂で盛り上がるあだ名での結束を思い出せばポジティブな発言を溜息交じりに零した。）