（森地はその一部始終を見ていた。彼の姿に気付いた時にはなにやら格闘しており森地を越して欧米人が近付いて行った。この場から会話の内容までは聞こえなかったもの察する事はそう難しくもない。頑張れのエールだけは鼓膜をしっかり震わし、おまけにすれ違った欧米人の笑顔はさすが南国。面白半分興味半分に近付く足取りが小走りとなり、向ける彼への第一声は──連写に埋もれた。息のような空気に溶け込む笑いは小さく。）グッドラックって言われてたじゃん。（盗み見盗み聞きの罪を明かしながらも突っつくように軽い口調。それから収めようとしている景色を目に映し。）うん、連写じゃなくてもいけると思うなこれは。あ、ほら上埜、飛行機飛ぶって。（先程の音が意図的でない事は理解した上でのアドバイスは同性こそのからかいも多少は含む。それからツーコンボの急かした指先は彼がそちらを見るように意図して忙しない口振り、示した先には全く動かない機体があるだけ。そんな子供騙しはさて。）

これ以上ないバッド顔。で、なにがあったの。（対して彼の心境が十分に伝わるから森地も笑声を隠さず。問うた内容について知れれば「コントじゃん」と言うし、そうでなければ「教えてよ」なんていくらか粘っただろう。ちらりと横目に感じた疑心の滲む表情であったが、無事に指の先を辿ってくれた。彼任せの結果が成功となれば「あはは」と背を丸めて楽しげな声を溢れさせたけど、カチッと視線のご対面と重みある反撃にすぐに引っ込める。）あ～2時間後くらい？ほら、それより上埜は飛行機どうやって過ごしてた？寝てた？（答えられる筈もないと不格好に切り上げ新たな話題を放り込む。年よりも低いコミュニケーションの一環で同級生とならば謝罪もなく。次ぐ疑問はイメージと言うより森地自身がフライトを睡眠にしたため。）そお、さっきから暇人。てももうすぐ時間だな、タクシーの。日本の海とどっちが泳ぎやすいんだろうな、そんな変わらないか。スカウトされない程度に泳げよ。（所属する部活は存じているがそれに対する情熱や実力は知れない。遊泳以外も楽しみなよと開いた口は言われなくたっての気付きに喉を出るころには歪曲していた。そうした心理に節介なんぞなくもっと幼稚の自覚あるからこそ言い直す。）泳ぎに飽きたら俺と遊んでよ。そろそろ向かわない？タクシー乗り場。どこだっけ。