（今回のために新たに買ったシンプルな財布の中身は、まだ見慣れない異国の紙幣と硬貨。その量に、そこはかとない心細さを覚えた。さっき早々に買い物をしたせいもあるだろう。いくら福沢諭吉の加護があったとてここでは全くの無力。もう少しこの地の紙幣たちを手にしておいた方が良いかもしれない。成田にて利用した両替機と同じようなものを見つけ、普段使いの財布から一万円札をそっと引き抜き機械へと投入する。国旗とレート示す数字が並ぶ一角に指先で触れれば、あっという間にこの国対応の紙幣とコインがお目見えだ。）よし、後はこっち……っあ、（紙幣を全てしまい、硬貨の方へ手を伸ばす。財布に入れる度にちゃりんという音が響いた。その、最後の一個が不意に手から滑り落ち転がってゆく。慌て視線を向ければ、硬貨の軌道上にいたのはクラスメイトだった。）悪い、それ取ってくれるかっ！？（そちらへ駆けながら日本語で紡ぐ要請が硬貨より先に相手へ届けば良いのだが。）

（跳ねるように持ち主との距離を広げる硬貨は、まるである一人の男の派手さに吸い寄せられてゆくようにも見えた。数多の老若男女を越えた先、辿り着いた終着点にて注ぐは、）……ほーう。（ほうとoh、異なる言語の表現が混ざり合ったような反応が思わず漏れた。ほんの一瞬、小指の爪の先くらいに人違いを疑いかけはしたものの、種明かしとばかりに親しんだ言語にて返ってきた内容に安堵の割合が多めの息を吐く。）してはいたんだけどな、さっきアイスやらなんやら買ってる内に足りなくね？って思っちまったんだよな。だから念のため。（硬貨の逃亡劇もこれにて終焉、彼の手に掬われたそれが男の財布へ戻ってきたなら軽く礼を述べ、それをしまいこむだろう。）こっちの硬貨って絵柄のが目立つのな。これだけで土産になりそうじゃねえ？（値段示す数字が真っ先に来る日本のものと比べ感じた印象に付け足したのは個人のイメージです、とテロップが出そうな事柄で。つまりは他愛もない雑談だった。）

（いかんせん英語力引っくるめての学力は五十歩百歩、ネイティブに囲まれた日本人たちのやり取りはこれを以て母国語に戻った。）ハイカロリーな予定だな……野菜も食っとけ。今からメタボるとやべえしモテねえぞ。（くく、と喉を震わせ半笑いで応じ溢すは抑止力足り得ぬ可能性も高いが、妙にそのメニューは彼に似合っているように感じたが故の笑みは消えず。「食いきれなかったら手伝ってやるよ」とは優しさ装いお零れに預かろうとする小物染みた発言。）貸し借りはキッチリいこうな。（肩をぽん、と叩いた。しない、とは言わなかった辺りいざ頼りに来たとて無下にするつもりはないものの、その申し出が現実となるかは取り出されることのなかった財布の中身次第だ。）ちっちゃい子ならいけそうな気ぃすっけどな。（彼のいう家族がどのような年齢層なのかまでは把握出来なかったから純粋な感想を唇にのせ相手を窺うように見た。──どうやらその対象外であったようだ。彼の表情で察し浅く息を吐く、ドンマイ、の意だ。）まあ少しは。でも基本任されてる、定番モノにするつもりではあるけどな。時間までちょっと目ぼしいものチェックしとくか。（そのまま視線は彼を追い越しショッピングエリアへ向いた。次いで再び戻したならば、）馬渕はどうするよ。女探すなら俺はついてけねえけど。（少しからかうような声色で尋ねた。足を向ける先はショッピングエリアだが、一人か二人かは返答次第。どちらにせよ待ち時間に添えられた彩りは明るかった。）