（すこやかに睡眠を貪ったおかげで体調万全、意気揚々と異国に降り立つことができた。数時間前まではすこし浮いていたボタニカル柄もようやくからだに馴染んだ気がして上機嫌。いつもは重たいスポーツサンダルも心なしか軽くなった気がする。思わずスキップの一歩でも決めたい心地で空港を闊歩しようと踏み出した、そのとき。）え、あるある。ちょうある。（いうほど持っていないのに盛って話すのはノリと勢いか。ボディバッグから充電器一式を取り出せばライフゼロまであと数分もないクラスメイトへ、いのちの水がごとく差し出した。）わたしはね～～機内でずっと寝てたから喉乾いたなって思ってたとこ……一緒に行かん？立夏のスマホ生き返るまで。（交換条件というわけでもないが、つまりはモバイルバッテリーとスマホとダブルデートのお誘いというわけ。）

やった、愛されちった～～　て、はるばる南の島きて商売する？（心臓らへんを両手で押さえるのは愛を受け止めましたよの意。売ったところでよくて500mlのミネラルウォーター1本くらいの値な気がするモバイルバッテリーが彼女のスマホにいのちを与えるのを見守りながら、「ちなみにそれとこれの二つだけ」と所持数は正直に告白した。）よし来た道連れゲット、喉カラッカラだよカラッッッカラ。たしかにスタバ世界中にあ、（るもんね。と言おうとして静止。二秒後再び口が動く。）待って立夏。もしかしてスタバ……サマリン限定メニューとかあるんじゃない……？（南国っぽい何かがありそうな気がする。想像に過ぎないが兎角、それは提案のひとつとして空港のモールへ。校内を制服で歩くときとは異なる浮遊感は彼女につられてにやけ面を晒すひとつの要因であり、英語力の問いには目をそらし「テストはできても喋れない……」と絶望的なつぶやきを落っことした。）でもディスワンでなんとかなるしょ。笑顔で「HAHAHA！」って笑えばどうにか買える気……しない？（異国の地。見知らぬ場所。いつでもなんとかなる気はしてるが、ふたりなら更になんとかなる気がする。根拠のない自信はしかし「読めそうなメニューの店にしよ」と怖気づきながら英語だらけのストリートへ。）

急に現実的になるじゃん。（一発当てて億万長者から違法就労で逮捕の懸念まで飛躍したなら、似合わぬ冷静さを着た声色がツッコミを入れる。突かれれば突き返すような戯れは異国の地という緊張感を薄れさせ、むしろ高揚感すら助長させれば、彼女の肩に手を回す上機嫌さで「あはは」と笑った。）苦手なのないよ、好きなもんばっか。食べるもん大体おいしいと思ってる。え、奇遇じゃん～～ぜ～～～ったいシェアしよと思ってたんだよね。（ごきげんな少女がふたり、まだ限定メニューの存在を確認してもいないのに確信しているのは似ている。「ココもしゃべれるってわたしは信じてる」と頼りたい女子にひとり追加して、スタバ前。）あえて英語喋れない観光客ブランド推してくかんじ？ちょっと髪整えといたげる。（おまけ狙いの彼女のために外見チェック。「おっけカワイイ～～」と褒めたのも束の間、スタバのメニューに目を輝かすこと必至。）こっちアサイーって書いてない？ちょうおいしそう。ココナッツミルクも惹かれる……なんにしよ。なんにする？（おいしいものがたくさんあるとき優柔不断というのは困りものだ。彼女が何にするかも聞いてメニューを決定すれば注文は不慣れな英語で。「ディスワン」を彼女とともに大いに活用し鮮やかなドリンクを手に入れ、飲む前から満足げな感情がだだ洩れの口許のまま店を出た。ザ・南の島の青空の下、太陽の光が透過するドリンクをひとくち。）あっま。（まんま同じ感想が落っこちたあとシェアの約束は守るはず。その感想も同じな気がして飲む前から笑えた。）