（そこはまさしく異国の地だった。大きく吸い込んだ空気さえ極彩色に染まっていると錯覚する程、鮮烈な情景がひとみに焼付いていく。嵌殺し窓硝子に透かし見る日差しの強さは、想像するだけで肌が焦がされていく心地すら掻き立てた。）リムジンタクシーなら黒ワンピって、なんで。海外ドラマの影響？（当て所なく彷徨わせた足を止める契機となるのは手に取る衣服をひらめかせる同級生の姿を認めた折のこと。）小田には明るい色柄の方が似合うと思う。何色が好きなの、おまえ。（例えばこういうのだとホットピンクやカナリア色のリゾートワンピや柄シャツの類を指さす行為はきっと通り魔的に突拍子無かったことだろう。）小田なら服はもう十分持ってきてそうだけど、ここで現地調達していくの？（最中頭を擡げる思惟に疑問符を添えながら、口端に乗せた笑みを邂逅の挨拶に代えた。）

マンハッタンセレブの嗜みってよりかはクラシックシネマっぽさのあるドレスコードなんだね。小田が憧れてるのは。（20世紀に名を馳せた女優のことはよく知らないけど彼女がいいたいこと位は概ね理解に難くない。）酔いは平気だったけど気圧に耳がやられてテンションブルーだったよ。さっきまでは。（表情をくるめかせて感嘆の声を上げる様を見ていたら気分も晴れたなんて不思議な話だけど、現在の顔色は良好。）なんだよ、全部好きじゃん。趣味が分かりやすいんだ、おまえ。（彼女自身が見頃に宛がうホットカラーを眺望しては似合うんじゃないと細めた眼差しが肯定感を滲ませる。但し、）赤、似合うけど暑苦しい南国で見厭きる程着ててもらいたいのはそっち。（籠に投擲されて然るべきと判じたのはレモン色。軈てはマネキンが被ってた矢鱈ツバの広いフリンジ加工の麦わら帽をパクって来て小田に被せて遊ぶ姿も続くだろう。）バイトで貯めた小遣いは持って来たよ。無地とかそういうつまんないのじゃなきゃ物欲上がるかも。……そう、こういう。ヘンな柄。なんで俺にこれ当てたの、小田の好み？（零れた笑いは気に入ったの意を滲ませて、宛がわれた胸元に視線を下降させる。）おまえの意見を鏡代わりにするけど。どう、感想。

歯に沁みる程甘いか、ゴムを噛んでるような味までは想定しておく。（ギャンブル根性を潜めているきらいは無いつもりだけど、まさか毒でもあるまいと判ずれば差出された厚意は躊躇無しに受取った。海外かぶれてやる気概満たして咥内に放ってやったガムは、）清涼感が日本製より強めのミント味。テスト前に世話になりたい癖が付きそうな感じ。（辛め。美味いとかそういう感想を呈する類のものじゃなかったからハワイの製造会社をよいしょすることも無く、零すのは素直ったらしい感想だった。）いんじゃない。オードリー・ヘプバーンと張り合うには20年早そうだけど。（ストーリーの概要位しか知らないけど、当時35歳とかそこらだったらしい名女優と並べて見立てる冗句を舌先に転がす。）TikTokuの未放送映像？（彼女がポーズを決め込む度に揺れるフリンジを視線で追って、例え話を一投擲。）勧められたら全部選ぶじゃん、おまえ。逆に好みじゃない物ってどんな系統なの？って、これは今度教えて貰おうかな。（話込むには休憩時間が奔り抜けていく足は早過ぎた。リムジンバスの迎え時刻が近づいていることを時差整えたアップルウォッチが知らせるから、以降は現地で消化するネタを増やすタスク管理の時間と見做した。）俺、ちゃんとしてないよ。全然。人と違うことするの好きだし。（小田の破顔がおまけに引付けば、柄シャツに付加価値が備わる。）もしかしてそれ、行けたらいいね程度の誘い？結構乗り気にさせられたけど。（指先がハンガーを掬った。）