(数時間の空旅は睡眠時間と成り代わり、次に瞼を押し上げたその時は既に異国の地であった。額に滲む汗を指先で拭うけれど、その指先すら常々とは異なって映る程には取り囲むすべてが真新しく息を呑む。陽光が容赦なく照りつけることを今更知ることとなり、遮光を求めて手頃な価格のショップに爪先を向けた。棚に飾られた多種多様のサングラスをたったひとつに絞ることはじつに難解で、涼しさ気取っていたかんばせは汗と共に剥がれ落ちた。度のない眼鏡を外してシャツに引っ掛ければ、とりわけ拘り持たぬ指先は某映画の殺人アンドロイドの如き真っ黒のシンプルな四角縁を摘む。)I'll be back──……。………いかつすぎか?(静かにごちて鏡に映る自身を眺め入れば、たとえ他人の気配が近付こうとも未だ知る由はない。)
む!そうきたか!いかつい外国人に個室に連れて行かれそうになる所もやるか!?(サングラスの向こうにある瞳の色は知れずとも、つい先刻の橘鷹を揶揄う意図を察知するのは容易い。だからと言って機嫌を損ねるわけでもなく笑い事にしながら恥の再現だって提案できた。)ああ、分かりすぎてボディービルダーデビューをするかもしれないし、州知事にだってなれるかもしれん! まあな、僕は巽がボディービルダーの肩メロンになっても近寄ると思うぞ。(持ちうるシュワ知識をフル動員させる最中に真っ黒いレンズ越しの視線がこちらに向いている気がして、デリカシーに欠ける仮定を勝手に浮かべながらかち合ってるかどうかもわからない双眸を巽に向けた。)ははは 似合うかそうか、ありがとう!―お、確かにそちらも良い。ナイトプールにかけてくようなプラスチックフレームじゃないのがいいね!(彼女の食指が示した星形にひどく心が惹かれた。今どきのラッパーはこんなサングラスをするのかと巽に問おうと手に取りながら、今度はよく見える紫の双眸と視線を合わせた折)……天才か!?(茶々入れよりも瞬時に踏まれたライムに瞠目し頬を紅潮させた。)キミはタツミー、僕は成金のむすKOー、コールスロー、HEY Yo ………難しいな………。(挫折の入口に辿り着くまでの所要時間わずか3秒。星形サングラスに加護はない。)